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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/20)JRA“総見直し”の限界
 JRAの事実上の最高議決機関である運営審議会は毎年、2月と11月に行われる。11月は通常、事業計画と予算を承認する場だが、JRAは16日行われた運営審議会に合わせて、「中央競馬の目指すべき方向と改善への取り組み」と題した文書を示した。A4版38ページに及ぶ大部の資料は、JRAの業務全般について、現在の問題点と短期的改善策、中長期的な改革の方向を示している。

 基本フレームの中では、「ファンあっての中央競馬」をうたい、「民間企業のもつダイナミズムを積極的に取り入れ、自己改革を重ねながら、社会全体の期待に応えていく」と宣言している。また、ファンの関心の高い控除率の問題にも「前向きに取り組む」としている。総論部分には、それなりの評価を与えられるだろう。

 だが、正直なところ、各論の裏付けは非常に弱く、限界のある文書であることを指摘せざるを得ない。端的に現れたのは、きゅう舎システムに関する記述である。

 各論は、(1)競走関連システム(2)競走番組(3)ファンサービス(4)事業運営のあり方――の4つの柱で構成されている。競走関連システムを前段に置いたことは、JRAがきゅう舎のあり方、より具体的に言えば、きゅう舎間の競争性確保を重視している現れと見て取れる。だが、問題はその後である。きゅう舎制度の大枠に関して、現在の開催規模(年間288日×1日12レース=3456レース)を前提に、レース前の一定期間(出走経験馬は10日)、JRAの競馬場やトレセンに入きゅうすることを義務付ける「内きゅう制度」を維持するとしている。

 中央競馬のきゅう舎制度の問題は、せんじ詰めれば調教師の立場が強すぎることにある。その原因は、トレセンという器の大きさに合わせて、調教師や馬の数を総量規制しているためだ。一たび免許を得てしまえば、いかに能力の低い調教師でも淘汰される心配はない。きゅう舎(貸し付け馬房)の数より、馬の数が多い「売り手市場」の状況が続いているため、不成績のきゅう舎でも、管理馬が絶えることはなく、倒産した例もない。

 この状況に風穴を開けるためには、何らかの方法で馬房と調教師の供給を増やし、ダメなきゅう舎が倒産に追い込まれるような枠組みを構築するしかない。しかし、人為的な決め事で根拠も薄弱な「開催規模」を理由に、JRAは供給増という根本的な解決策を放棄した。

 現在の開催規模にJRAがこだわる背景には、馬主団体の動向がある。日本馬主協会連合会は6月、JRAに開催日数増加の要望書を提出している。未勝利や500万条件などの下級クラスで、馬の頭数と比べてレースが少なく、出馬投票後に除外となる馬が多い(昨年は約7100頭)のを受けたものだ。だが、レース数が増えれば、その大半は下級条件戦で占められる。弱い馬のレースが増えたところで、ファンは喜ばないし、馬券も売れないだろう。利幅の薄いレースを増やすのは、JRAにとっても得策ではない。「現行の開催規模の堅持」は、馬主サイドの要求をはねつけるという意味合いが濃い。

 だが、ビジネスの世界でも同じだが、競争促進のためには新規参入へのハードルを下げるのが常道である。それを放棄したため、「きゅう舎間の競争促進」は全くの看板倒れ。絵に描いたモチとなってしまった。

 問題を打開する方法はある。地方競馬とのより広範な連携である。地方競馬の経営危機はJRA以上に深刻だが、昨年8月末の時点で、サラブレッド1万6850頭の登録があり、854人の調教師が存在している。中央と地方壁をさらに低くし、極端に言えばJRAの225人の調教師と地方の854人が同じ土俵で競うくらいの舞台設定を考える必要がある。実現へのハードルは高いが、JRA側は前提として、現在の下級条件戦の高すぎる賞金や、出走手当、事故見舞金といった優勝劣敗の考え方にそぐわない支出に大なたをふるい、中央と地方の余りに広がった賞金格差の縮小を図るべきなのだ。

 ゆくゆくは、現在JRAで行っている下級条件戦の多くを地方競馬に移管し、地方所属馬でも勝てば自由にJRAに参戦できるような体系をつくる。地方側の各競馬場も、JRAの馬券を受託発売して収支の改善を図る。このぐらいの大胆な構想力を示しても良かった。

 中央と地方の壁以外にも、JRAの改革を妨げる法制度は多い。例えば、2年後に新たに導入される3連勝複式が、農水省令で当面、16頭以内の競走での限定発売とされた。これでは大半のG1は対象外となる。これも、政治や行政が競馬界の置かれた危機を深刻に受け止めていない何よりの証拠である。だからこそ、JRAは世間に大胆な構想を示し、政治や行政の無策をアピールして世論づくりをするくらいの覚悟が望まれたのだが…。



 
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