(10/10)横浜市長の“ローブロー”・横浜場外の課税問題
2日行われたJRAの理事長定例記者会見で、JRA側は横浜市の高秀秀信市長が打ち出した横浜場外発売所(ウインズ横浜、横浜市中区)への独自課税に対し、反対の意向を正式に表明した。この「横浜新税」問題は、今春成立した地方分権一括法を受けて、高秀市長が5月に記者会見で導入を表明した。だが、JRAという組織の現在の枠組みに照らすと非常に矛盾が多く、ボクシングのローブローのような反則技という印象が濃い。
JRAは馬券の売り上げのうち、75%弱をファンに払い戻し、10%は第一国庫納付金として国に天引きされている。諸外国の競馬主催者は「賭事税」などを負担しており、JRAの納める国庫納付金は、誰の目から見ても税金に当たることは間違いない。JRAは国庫納付金以外にも、固定資産税や都市計画税などを関係施設のある自治体に納めており、額は年間100億円に及ぶ。実は、JRA発足2年後の1956年に、これらの課税が始まっているが、課税に際して国庫納付金の率は当初の11%から10%に削減されている。こうした経緯を見ても、JRAへの新たな課税は、二重課税に該当する疑いが濃い。
実際に、どのような基準で課税するかについて、横浜市は今なお、正式な案を提示していない。「ウインズ横浜の売り上げ(昨年は約1360億円)の1%」とか「払い戻し分と第一国庫納付金を除いた分の5%(この場合の税額は約10億円)」といった情報が飛び交っている。
JRAは競馬場やウインズがある自治体に「環境整備費」を支払っているが、横浜市への昨年の交付額は約1億3000万円。「これでは安過ぎる」というのが横浜市の本音かも知れないが、国の全額出資で発足したJRAは建前上、「国だけに金を運んでくればよろしい」と位置付けられている。こうした枠組みを見直すこと抜きで、地方自治体が手前勝手にJRAへの課税に動けば、ファンの負担増という帰結を招くことになる。
「金満」と思われていたJRAだが、その台所事情は実は厳しい。馬券の売り上げは落ち込み、今年の剰余金(企業の純利益に当たる)は250億円前後。ピーク時の90年の1/4以下に減少する見通しだ。ここから半額を国に第二国庫納付金として納め、残りの半分から単勝や複勝の給付金(昨年は約74億円)をねん出することになる。横浜市の課税にゴーサインが出れば、財政に窮迫している他の自治体も、間違いなく追随するだろう。近い将来には、スズメの涙のような給付金(配当170円前後につき10円)が消えるどころか、今でも世界的に高率な馬券の控除率(25%強)が、引き上げられる恐れもある。
横浜市の市債残高は約1兆9000億円に上る。今年度の市債発行額も1081億円。みなとみらい(MM)21などの大規模開発のツケは途方もない額に膨れ上がった。建設省事務次官OBの高秀市長が真っ先に着手すべきは、このような開発事業の見直しや財政規律の回復だろう。
課税側の論理は「ウインズも公共サービスの対価=租税を負担すべきである」というものだが、現実には、収入が課税最低限に満たない人のように、公共サービスの受益者で租税を負担していない個人や法人は存在する。今回、ウインズと併せて課税が検討されたのは、性風俗店やパチンコ店だったが、所得捕そくの難しさから、性風俗店などへの課税はトーンダウンし、JRAだけが狙い打ちされそうな気配である。だが、一般有権者の反感を買うことがなく、かつ取りやすいところにのみ課税するような風潮が容認されれば、税負担の公平という原則は、ますます置き去りにされることだろう。
政治も行政も財源不足という現実を前にすると、たばこやギャンブルなどへの課税という安易な方向に流れるものだ。旧国鉄債務処理問題で、財源としてたばこ税増税が検討されたが、高秀市長の新税構想もほぼ同類のものだ。石原慎太郎・東京都知事の銀行課税に触発されたパフォーマンスの色彩も濃いが、その発想は「取りやすいところから」というモラルの低さをぬぐい難い。
ウインズ横浜は地元の約700人に雇用の場を提供し、昨年の1日平均利用者は7万人強に上る。もし撤退すれば、横浜市は税収を得られないばかりか、雇用の場は失われ、地域の集客力低下で飲食店なども打撃を受ける。JRAはこうした観点からも、“ローブロー”が高いツケを伴うことを世論に訴える必要がある。
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