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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (9/25)「予備登録枠」拡大は、きゅう舎間競争の促進につながるか
 中央競馬の競走馬はすべて、美浦、栗東の両トレーニングセンターの一方に所属している。今月3日現在、JRAに馬名登録がある馬は7152頭だが、美浦と栗東には4462の馬房しかなく、うち130は出張用で常時使われてはいない。登録がありながら美浦と栗東にいない馬が、2800頭前後いることになる。こうした馬は扱いの上では「予備登録枠」に入っていて、稼働中の馬が故障した場合などに、入れ替わりにきゅう舎に入って来る。

 かつてのきゅう舎は、若駒を2歳の秋に入きゅうさせて、自ら育てていたが、今日では競走馬の数が飛躍的に増え、馬房数がひっ迫。トレセンの馬房には即戦力の馬しか置けなくなった。そこで、各調教師にとっては、予備登録枠を生かして、稼働馬と休養馬の入れ替えをスムーズに行い、フレッシュな状態の馬を競走に送り込むことが、成績向上には欠かせなくなっている。

 この予備登録枠が、来年から大幅に拡大される見通しとなった。現在、開業5年以上のきゅう舎には、JRAが一律に20馬房を貸し付けているが、現行では20馬房につき、枠は14となっていた。馬房数が15―19なら12、10―14馬房の場合は10となっている。JRAは来年から、枠を馬房数の3倍まで広げる方針で、馬主、調教師などの関係者団体も、拡大を受け入れる構えだ。

 枠が拡大された理由は、主に(1)きゅう舎間の競争促進(2)入きゅう困難の解消――の2点だ。予備登録枠が拡大されると、各きゅう舎は多い場合、従来より20頭以上、管理馬を増やすことができる。管理能力に自信のある調教師は、「これは」と思った馬を積極的に預かるだけでなく、骨折や屈けん炎などの重傷を負った馬でも、ゆっくり回復を待つことが出来る。一方、馬主にとってのメリットは、今まで「枠がない」と調教師に預託を断られていた馬を、入きゅうさせることが出来る点だ。

 意欲のある調教師にとって、従来の予備登録枠は、一種の桎梏(しっこく)だった。5年連続最多勝の藤沢和雄調教師(48、美浦)は、長期休養馬を他のきゅう舎に“ペーパー移籍”させる方法で、実質的に管理馬を増やし、成績を上げてきた。JRAサイドでも「手腕があれば、3倍は管理できる」と見て、今回の措置に踏み切ったが、背景には藤沢調教師のような存在がある。もし、管理能力の高い調教師がこぞって管理馬を増やせば、勝ち星も伸び、きゅう舎間格差は確実に拡大する。

 きゅう舎間の競争促進は、JRAにとって積年のテーマだったが、実際は挫折の連続だった。96年には、不成績のきゅう舎の馬房を削って、成績の良いきゅう舎に移転する趣旨の「メリット制」導入を打ち出した。だが、日本調教師会が難色を示したのはもちろん、馬主団体までが「各きゅう舎が高額馬しか預からなくなる」との消極論を展開。棚上げになった経緯がある。今回は、馬房の増減を伴わないことで、関係者の合意を得られそうな気配だが、JRAとしては、予備登録枠の拡大で、多くの出走馬を確保し、特に売り上げ不振の3歳戦のテコ入れに結びつけたいという意向も見える。藤沢調教師のような便法が可能なのは、美浦に現行の予備枠さえ使い切っていないきゅう舎があるためで、こうしたきゅう舎は勝ち星以前に、年間出走数も少ないのが通例である。

 むろん、問題もある。枠を拡大すれば、登録数も増えることになるが、JRAの年間競走数には3456(年間開催日数288日×1日12レース)という天井がある。馬房数が従来通りと言っても、走れる状態の馬が多くなればフルゲートからあふれ出て、抽選などで除外となる馬も確実に増える。この問題は、競馬法を改正しなければ解決できない。また、馬房数の3倍の馬を預かると、1頭の馬がトレセンにいる期間は、単純計算で年間4カ月だけということになる。現在のJRAの賞金制度では、1開催(8日間)で2度出走すれば、馬1頭の預託料にほぼ見合う額の「特別出走手当」が得られる。だが、トレセンにいない馬は、経費だけかかって、1円も稼ぐことは出来ない。入きゅうしていない期間が延びれば、馬主にとっては負担増となる。何より、ここ数年、JRAの賞金額はわずかながら減少している。机上の計算とは言え、登録馬が13000頭まで増える環境となったわけで、同じ賞金を従来より多くの馬が奪い合うことになる。

 これまで、ともすれば競争性の乏しいぬるま湯的な環境に漬かってきた日本の競馬サークルに、今回の措置がどの程度のインパクトを与えるか、注目される。



 
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