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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/12)香港発の黒船・安田記念から
安田記念を制した香港馬フェアリーキングプローン〔共同〕
 日本のG1勝ち馬7頭がそろい、今年のG1で初めて売り上げが前年を(12.8%も)上回ったが、フタを開ければ、2頭参戦した外国馬が上位独占。日本競馬の現状を浮き彫りにした4日の安田記念(東京)は、様々な意味で考えさせられることの多いレースだった。

 勝ったフェアリーキングプローンは香港のイヴァン・アランきゅう舎所属。世界の競馬開催国には格付けがあり、馬産を行っていない香港は、日本とともに「グループ2」に入っている。グループ1は英、仏、愛、米、豪州、NZのほか、南アフリカなどである。日本は主要レースの多くを外国馬に開放していないため、グループ2に入っているが、関係者には香港を「格下」と見るような感覚がある。だが、昨年は香港カップが国際G1に昇格し、多くの有力馬を集めるなど、徐々に地位は向上。日本のアジアでの主導的地位を脅かしつつある。

 年間70日前後の開催を約1000頭の馬で賄っており、現役馬は原則としてシャティン競馬場に入っている。頭数が不足気味なせいか、一戦一戦の負担の軽い短距離戦が多い。アランきゅう舎のインディジェナスが昨年、地元で1000メートルのレースに出走した後、ジャパンカップで2着に入った例もある。成績だけで「短距離馬」と決めつけるのは危険だ。

 馬資源は主に豪州やNZに頼っており、フェアリーキングプローンも2歳時にシドニーのセリ市場で約1700万円で購買された。父デインヒルは、96年1年は日本で供用され、日本ダービー3着のアタラクシアを出した。「薄利多売」が売り物の豪州の馬産が、間接的であれ、日本に影響するようになれば、土地や人件費の制約で価格が割高な日本馬は厳しい立場に追い込まれる。

 アラン調教師は一昨年の安田記念でオリエンタルエクスプレスを送り込み2着に入った。当時、「ジャパンカップに香港の招待枠を」と、報道陣に訴え続け、昨年、枠が設置されるとインディジェナスを出走させて再び2着。今回は、「タイキシャトルやスペシャルウィークのような強い馬がいないか心配だった」と話したから、よほど自信があったのだろう。一部で、同調教師が巨額の馬券を的中させたと報じられたが、その位の自信を持って馬を送り出すのでなければ、ファンとしても、安心して馬券を買えないというものだ。現在の競馬法は、ギャンブルの倫理と逆行する考えの上に立っている。

 日本勢は、この敗戦で多くの弱点を露呈した格好だ。1番人気のスティンガーは、乗り替わった田中勝春騎手が折り合いをつけられず、なし崩しに脚を使って4着に終わった。馬への当たりの柔らかい武豊騎手が、「少々ヒステリックなところがある」というほど、スティンガーは扱いの難しい馬である。だから、藤沢和雄調教師はレースの1週間前の段階まで、ペリエ騎手招致の可能性を探っていた。柴田善臣騎手が負傷休業中という緊急時とは言え、信頼できる騎手の数の不足という問題が露見した。しかも、最も信頼できる武豊は渡米中である。

 6歳のキングヘイローが日本馬で最先着したのは、世代間の能力比較からすれば、至極順当な結果と言える。昨年秋のG1で、今年の5歳馬(96年産)は6歳馬(95年産)に歯が立たなかった。ただ、いかに95年産が空前の高レベルを誇ったとは言え、層は薄くなっており、後続世代の頼りなさは、競馬の将来に不安な影を落とす。

 「G1勝ち馬7頭」の看板と中身にも、大きなズレがあった。タイトルの内訳はNHKマイルC(2頭)、朝日杯3歳S、阪神3歳牝馬S、高松宮記念、スプリンターズS、オークスで、旧八大競走の勝ち馬に限定するとウメノファイバー1頭だった。今や短距離G1は、他のG1を勝てなかった馬の救済の場のような感がある。いくらG1の数を増やしても、強い馬が質量とも十分でなければ、看板倒れのG1馬が乱造されることになる。今回の結果は、安易なG1増設に警鐘を鳴らすものだ。

 安田記念の前日、皐月賞馬エアシャカールの英国遠征が発表された。タイキシャトルやエルコンドルパサーの成功もあって、日本の競馬人の眼は欧米に向き始めている。だが、有力馬の留守を守る陣容が手薄であれば、国内の競馬が香港勢の草刈り場となる可能性もある。競馬の国際化が動き出した時点では、考えもしなかった香港の脅威。黒船は南シナ海から迫って来ている。



 
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