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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/15)世紀末に神様が与えてくれた2頭の傑物
 競馬に限らず、あらゆるスポーツは常に、ヒーローの出現を待っている。ミレニアムの今年、競馬の神様は2頭の傑物を用意して、期待にこたえてくれる気配だ。出現の地が日本でないのが、少々残念ではあるが……。

 まずはフサイチペガサスである。6日(日本時間7日早朝)、米国の伝統の大レース、第126回ケンタッキーダービー(G1・ダート約2000メートル)を制した。父ミスタープロスペクターは、昨年6月、馬齢30歳で死亡した米国の大種牡馬。すでにひ孫の代からも種牡馬が出現し、世界中に血脈を広げている。それでいて、自身も昨年は死の直前まで47頭と交配したタフな生命力の持ち主である。母のエンジェルフィーヴァーは、自身は2戦1勝だが、92年のプリークネスステークス(米4歳三冠の第二関門)優勝馬パインブラフの妹に当たる。その父ダンチヒも大種牡馬で、卓越したスピードを誇る。

 この血統と雄大な馬体が評価され、一昨年7月、米ケンタッキー州のキーンランドで行われた2歳馬のせり市場で、400万ドル(約5億6000万円=当時)という破格の値がついた。インドのハイテク関連の実業家、サティシュ・サナン氏との競り合いの末、競落したのは日本の会社役員、関口房朗氏(64)である。96年の日本ダービー馬フサイチコンコルドの馬主で、「競走馬事業への過剰なコミット」を理由に、自らが起こしたメイテックの社長の座を追われたことでも知られている。

 「一度馬を持った以上は、最高のものでチャレンジしたかった。この馬でダメなら馬の世界から身を引くつもりだった」と関口氏。とは言え、せり市場での高額馬が額面通りに走らないのが競馬の難しさである。86年に史上最高の1310万ドルで競落されたシアトルダンサー(輸入種牡馬)も、競走成績は見るべきものがなかった。

 だが、フサイチペガサスは、デビュー戦2着の後は、重賞2勝を含む4連勝。単勝3.3倍、堂々の1番人気でケンタッキーダービーに臨んだ。79年のスペクタキュラービッド以降、1番人気馬が20連敗というジンクスといい、19頭立ての15番枠といい、好条件ではなかった。だが、フタを開ければ、スタートこそやや遅かったものの、向こう正面で内ラチ沿いから好位置まで進出。直線入り口で満を持して外に出し、力強く抜け出した。2分01秒12は、史上6位タイのタイムだった。

 米三冠路線は過酷だ。20日にはプリークネスステークス(ピムリコ)、6月10日にはベルモントステークス(ベルモント=ニューヨーク)。わずか5週間の戦いである。ここ3年、シルヴァーチャーム、リアルクワイエット、カリズマティックが二冠を達成しながら、いずれもベルモントで敗れているだけに、アファームド以来22年ぶりの三冠達成への期待は、いやが上にも高まる。

 ビデオを見る限り、フサイチペガサスはまだ、100%の力を出し切っていない。ベルモントでは、距離(約2400メートル)との戦いがカギ。「脚もとは丈夫」(関口氏)とのことだが、とにかく無事完走を期待したい。

 それは、残る傑物、ドバイミレニアム(牡5歳)との対決を見たいからだ。同馬はアラブ首長国連邦・ドバイのシェイク・モハメド殿下の競走馬管理法人、ゴドルフィンの持ち馬。殿下は世界最高賞金レース、ドバイ・ワールドカップ自ら創設した人だが、3歳の夏に「2000年はこの馬が勝つ」と予期し、「ヤゼール」という名前から改名した。昨年の英国ダービーで距離の壁に屈し、9着だったほかは、9戦8勝。昨年は欧州の芝1600メートル路線でG1を連勝。各国の競走馬の能力を数値化した国際クラシフィケーションで、世界6位タイの127ポンドを与えられた。昨冬からドバイで調教され、3月25日のドバイ・ワールドカップでは米国のベーレンズ以下に6馬身の大差をつけ、1分59秒50のレコードで圧勝した。

 父はシーキングザゴールド。ミスタープロスペクターの産駒で、日本ではシーキングザパールを出している。祖母フォールアスペンは95年のプリークネスSを制したティンバーカントリー(輸入種牡馬)を出している。

 両馬が対決するとすれば、11月にケンタッキーダービーと同じ舞台、チャーチルダウンズ競馬場で行われるブリーダーズカップ・クラシック(ダート約2000メートル)となろう。欧州の競馬界を制圧した感のあるモハメド殿下にとって、今や最大の目標は米国である。殿下は今年のドバイワールドカップの前座にUAEダービーを新設、勝ち馬のチャイナヴィジットをケンタッキーダービーに出走させた(6着)。ケンタッキーダービーとブリーダーズカップ・クラシックという米国を代表する二大レースの制覇に、明らかに照準を絞っている。馬産の層の厚みで世界をリードする米国を制圧し、世界の競馬の真の王座に立つことを目指しているのだ。野望達成に向けた切り札が、ドバイミレニアムである。この先、両馬が無事に勝ち星を重ねれば、その対戦は世紀末を飾るにふさわしいものとなる。実現を期待したい。



 
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