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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (9/4)大量種付け時代の到来、人気種牡馬の経済的価値急騰・強い馬の引退などの弊害も
 今年の3歳世代に入っても、サンデーサイレンス産駒の勢いは衰えていない。3日の新潟3歳S(中山)をダイワルージュ(母スカーレットブーケ)が優勝。札幌でも8月19日のクローバー賞で、ウインラディウス(母ジョウノマチエール)がレコードで楽勝。札幌3歳Sで有力視され、早くもクラシック候補の呼び声がかかる。

 こうした活躍の背景に、多頭数交配が可能になったという事情がある。とにかく、サンデーサイレンスの過去4年の交配頭数を見ると、97年171頭、98年185頭、99年189頭で、今年は197頭と自己最多を更新した。この数字には含まれないが、同馬は毎年秋には豪州馬10頭前後と交配しており、実際には年間200頭を超える。

 かつては、1頭の種牡馬が200頭と交配するなど、全く常識外れな話だった。通常、高額な種牡馬の場合は、シンジケートと呼ばれる共有組織が編成されるが、シンジケートは60口が基本単位である。サンデーサイレンスも一口4150万円×60口で、価格は24億9000万円だった。なぜ60口かと言えば、一口の所有者が毎年1頭ずつの繁殖牝馬を交配することを前提にしていたためである。種牡馬の年間種付け数もその程度と考えられていた。

 60頭を超えた分はシンジケートの会員外の種付けで、「余勢」と呼ばれる。余勢の種付け料はプールして会員に配分される。サンデーサイレンスの場合、種付け料は2000万円前後で、年間推定28億円が会員に配分されることになる。全く途方もない額と言うほかはなく、多頭数種付けのインセンティブはここにある。

 それでも、多くの種馬場では従来、種付け頭数を抑えてきた。100頭を超えると体力的に持たない、との見方が一般的だったのだ。しかし、その壁を超えたのがサンデーサイレンスを擁する社台グループである。民間では有数の優れた獣医グループを組織し、健康管理の能力を飛躍的に高めた。また、交配前の牝馬に対する検査を徹底することで、受胎率を向上させ、多頭数交配が可能となる条件を整えた。社台グループは現在、28頭の種牡馬を抱えているが、今年の交配頭数が150頭以上だったのが実に8頭。100頭の大台に乗ったのは17頭を数える。この結果、全28頭の種付け頭数の合計は実に3030。国内で1年間に種付けされる数の4分の1弱を占める。

 社台グループの馬産地での優位は、この数字に支えられている。他の種馬場が種付け頭数を抑えている間に、日高地区からも多くの繁殖牝馬を集めて資金力を強化。それを種牡馬に再投資して、隆盛の基礎を固めた。

 こうした大量種付け時代の到来は、競走馬ビジネスを変質させるインパクトを持っている。近年は、春に北半球で、秋に南半球で種付けを行うシャトル種牡馬が増加し、人気種牡馬の経済的価値は非常に高まった。日本でもデインヒルが豪州から期限付きで導入されたり、逆にフジキセキが豪州で供用されたりと、種牡馬が大陸を超えるのは当たり前の話になった。数が増えるに連れて、「影響がない」こともほぼ立証されつつある。

 5月のケンタッキーダービーを勝ち、米国競馬界久々のスターと期待されたフサイチペガサスは、今夏、早々と年内引退が決まった。世界の種牡馬ビジネスをリードするクールモアグループ(アイルランド)が、関口房朗氏から購入。価格は諸説あるが、6000万ドルから7000万ドルの間と推定されている。同馬は来年、米国で供用され、種付け料が20万ドル。さらに秋はシャトル種牡馬として豪州でも供用予定で、種付け料は10万豪ドルである。

 こうした動きは、ミニバブルと言われる米国の競走馬ビジネスを過熱させそうだ。競走馬の値段の最高記録は85年にシアトルダンサー(輸入種牡馬)が2歳馬のセリ市場で購買された際の1310万ドル。当時も血統の良い馬は将来の種牡馬としての価値が買われ、価格が暴騰していた。こうした状況が再現されると、競走で負けたり、故障したりといったリスクを恐れ、強い馬の引退は早まることになる。競馬の興行面の盛り上がりを考えると、決してプラスではない現象と言える。血統の偏りと言った弊害もある。種牡馬の一極集中の流れは、影響を十分に注視する必要がある。



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