日本経済新聞社は9月24日、東京・大手町の日経ホールで「日本の農と食」をテーマにシンポジウムを開いた。伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が「日本農業再生への道」と題して基調講演したのに続き、パネルディスカッション「農業の明日を考える」と「食卓から考える安全安心」をそれぞれ実施。日本の農業発展のための施策や、安心できる食生活を確立する手だてについて、研究者や農家、企業経営者らが討論した。
約230年前、アダム・スミスが国富論を発表した。「神の見えざる手」にふれたこの書物では、農業で重視すべき点も指摘している。農地の産出力を高めることと、生産者よりも消費者利益に着目することだ。これらは日本の農業政策に根本的に欠けていた視点であり、日本の農業再生の道はアダム・スミスから始まる、と言ってもいい。
日本の農業を振り返れば、まさに衰退の歴史だ。ピークは1955年から73年の高度成長期といわれる時代で、農家の数も過去100年のうちで最も多かった。60年当時と比べると、2008年の農地は24%減り、農家は59%、農民は79%減った。今や農地の8〜9%を占める39万ヘクタールが耕作放棄地となっている。
農家の7割は兼業農家だ。コメ作りに携わる農家は全体の6割を占めるが、多くが非常に小規模で、高齢化も進んでいる。国内総生産(GDP)に占める農業の割合はかつて約10%だったのに対し、現在は1%。日本の国土のうち農地が占める割合は12.6%にすぎず、先進国では最低水準にある。優れた農地をいかに活用するか、真剣に考えなくてはならない。
日本の風土、国土の状況は亜熱帯に近く、太陽と水に恵まれている。今後も農業の基本はコメと考えていい。だが、減反している水田は40%に達し、その補償に年間2000億円を使っている。農林水産省の基本姿勢は生産量を増やさず、米価を維持することにあった。生産性を上げるという経済原則に明らかに反しており、これを継続すると日本農業の国際競争力はますます落ちる。
一方で他の国は反収、つまり単位当たり生産量を上げている。今、世界平均では1ヘクタール当たり4.2トン。日本はこれより30〜40%高い。世界人口が35年前の40億人から現在の67億人に増える一方、農地はほとんど増えなかった。それでも飢餓が発生しなかったのは、反収が増えたからだ。
世界全体では小麦、大豆、トウモロコシなどは約70%増えた。これは種子、機械、肥料、倉庫などの技術が進歩したおかげだ。農業は全科学の結晶であり、日本を含む先進国の産業といえる。
なぜ生産力を上げねばならないかといえば、世界の需給に目を向ける必要がある。人口が予想を上回るスピードで増え、異常気象のリスクも高まっている。73年には米国のニクソン大統領が大豆輸出を禁止し、食料危機が起きた。今後も自国の食料が足りなくなった時、他国のために輸出するような国は絶対に現れない。だが日本は農産物を輸入に依存している。その危険性を頭に入れながら、農政を見直さねばならない。
コメは土地利用型作物で、大規模営農によってコストを下げられる。例えば0.5ヘクタール未満の水田のコメ1キログラム当たり生産コストは400円だが、15ヘクタール以上では180円に下がり、国際的に戦える水準に近づく。海外のコメに高い関税をかける必要はなくなり、消費者の利益にもなる。
もっとも、農家の経営規模は地域にも左右され、北海道と他県でも全く違う。10ヘクタール以上の農家は全国で3万8000戸しかなく、そのうち北海道に70%以上ある。これを一律に減反するのは愚の骨頂で、農家の戸別所得補償も大変な愚策だと思う。中山間地で大規模営農に向かない地域では、付加価値の高い野菜などに特化すべきだろう。
今後の農政は消費者の利益を考えて施策を打つべきだ。生産コストを低くして消費を拡大し、輸出をする。専業農家は農業だけで生活できるよう政策も仕分けをしないといけない。恵まれた国土、産出力の高い農地を生かして生産性を上げ、そこに消費者の目を導入し競争力を高めるといった、農政の大転換を図る必要がある。
- 1.基調講演
日本農業再生への道 - 2.パネル討論
農業の明日を考える - 3.パネル討論
食卓から考える安全安心 - 4.高コスト体質なお――縮む国際競争力
一段の発想転換 不可欠



