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世界経営者会議 2002 2001 2000 1999 english
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カレン・ケイトン ファイザー主席副社長 兼 ファイザー医薬品部門 社長
  “リング・オブ・ファイア”――グローバリズムの地殻変動を乗りこなすために

中村さん、大変ご親切なご紹介にあずかり、誠にありがとうございました。
また、皆様方、こんにちは。

弊社を代表いたしまして、弊社の成長と業績に対するお褒めの言葉を、特に本日のホストを務めておられる、高名な日本経済新聞社より頂きました事に対し厚く御礼申し上げます。

日経新聞は、その明確かつ洞察力にとんだ影響力のある主張で高い評価を勝ち得ておられます。そのため、中村さんのご紹介は、我々にとって特別な意味を持つのです。

私からも、本日ご参加の、早々たるゲストの皆様に申し上げたいことがあります。それは私が、今おります皆様のお国の首都に対して、称賛の気持ちを持っているということです。

その称賛を一言で申し上げるとそれは:
「素晴らしい!」
他のどのような大都市も、このように短期間で大きく変化したところはないのです。

新宿のみならず、六本木、丸の内、汐留、品川などの街々にそびえ立つ高層建築群を見渡しますと、私たちがまだ子供だった頃、このような建造物が作られることを、また、それが法的に可能となることを誰が想像したでしょうか。

先月に起きた北海道の地震でも思い起こされたように、私たちは今、絶えず動いている岩の上に立っているのです。長い間、役所の方針は、安全のために低層建築を推し進めることでした。

事実、50年前、ファイザー社が東京で事業を始めた頃、ただ一つの例外である東京タワーを除き、高層建築は認められませんでした。そこは、ごみごみとした低い家並みが遠く続いた街で、目立った高さを持った建物は何一つ見当たりませんでした。

しかし、「革新」がそれらを変えたのです。今日、安全に空にそびえ立つ優美な摩天楼は、堅牢さではなく、弾力性によってもたらされたのです。意味深いことに、それは、変化の衝撃波に抵抗するのではなく弾力性をもって対応するという、今日の企業の理想的な姿をも表しているのです。

残念ながら、弾力性を保つことは大変な仕事です。変化に抵抗するのは自然なことだからです。フォーチュン誌のベスト50社に選ばれた会社の平均寿命は40年足らずであります。

そこで、私たちが直面する問題とは:弾力性のない構造にしてしまいがちな傾向を、いかにしてリーダー達が打ち破るかということです。

それは簡単なことではありません。それには洞察力が必要です。計画が必要です。大変長期的な展望を持つことも必要です。そして、すべてが上手くいっている時に変革を推し進めることが、たぶん最も難しいことなのではないでしょうか。

日本経済新聞社は、変革の中で企業を率いていくことについての考え方を皆様と共有するために、私をここにお招きくださいました。最初にまず、今日ビジネスというものは、絶えず動いている岩の上に立っているようなものだという現実を認識することから始めるのがよいのではと思われます。すべてが変革する時、勝利する精神とは、絶え間なく革新していくという精神なのです。

ファイザー社では、その154年にわたる歴史の中で、絶え間ない科学的革新の精神を、会社の組織運営や戦略にも応用してきました。

それは、私たちの足元で「リング・オブ・ファイア」が、ビジネスの前程を毎日のように変化させているからです。

何を申し上げたいかといいますと、東京の地面の深部は、遠くタスマニアからペルーに至る断層に沿ってU字型にプレートが重なって動いている地質構造になっています。
それは日本アルプスやカリフォルニアのシエラ山脈を造り出しました。

日本の皆様は、その弧の形をした地域を「環太平洋火山帯」と呼んでおられますが、西洋の地質学者たちは、それが火山活動や地震を引き起こすので「リング・オブ・ファイア」と呼んでいます。

さて、現代のビジネスにも、この地殻変動を引き起こす「リング・オブ・ファイア」の上に立っています。

それは、グローバリゼーションと呼ばれています。世界中の文化や市場といったものがお互いに近くに引き寄せられつつあるのです。

私たちは共通言語としてデジタルコードを共有し、情報、コミュニケーション、輸送手段、生産などといったたくさんの技術により、お互いに引き寄せられているのです。

グローバルな市場に、さまざまな異なった文化が引き寄せられぶつかり合う時、衝撃波は、ビジネスにとっては大変厄介なものになることもあります。

地域によって大きく異なる仕事のやり方や市場のあり方を、都合の良い世界共通の雛型に押し込めることは出来ません。

市場がグローバルな期待に適応していくにつれて、国の政策がグローバルな精査の対象になるかもしれません。声高で活発な論議が世論を形成し、現状の変革を訴え、時折起こる激震と止むことのない弱震を通じて、いろいろな組織に不快な圧力を加えることもあるかもしれません。

抵抗しても始まりません。柔軟性を持ってその動きに加わってこそ、グローバルビジネスに参加出来るのです。それらの動きを予測することが、市場と緊密であり続けるための最も確実な道であります。

消費者は優れた早期警報システムです。この会議でお話される他の方々のご賛同もいただけることと思いますが、すべての市場の消費者は、常に、より新しく、より良く、より安い製品を求めるようになってきています。

製品サイクルはどんどん短縮しています。顧客に情報を提供することが、顧客の忠誠心に訴える手法にとってかわっています。製品を売りつけるという手法は消え去りつつあります。日毎に、製品を研究した顧客が、製品の供給サイドを動かすようになってきています。

この変化が、どの程度世界中に広がっていくのかはまだわかりませんが、既に米国市場では、間違いなくこのような状況が起こっています。米国のヘルスケア市場は、医療に詳しく、医療上の決断を自分で下せるタイプの患者に焦点を合わせ始めています。人間のニーズの頂点が健康なのですから、消費者は、製薬産業が単に戦略的な有利性を追い求める産業ではなく、彼らが生きていくために不可欠な産業と考えています。

人々がコンピュータや車を買うときのより良く、より速く、より簡単に、というような要求が、我々に対して、より強いものになります。

薬のテーラーメード化、効能、予防効果といったものを、かつてないほど強く求められるようになりました。ヒトゲノムの配列が解明されている今、動きは病気の予防と慢性病の治療に大きくシフトしようとしています。

今後の製薬市場は以下の点に重点を置いていくと思われます。

・個人ひとりひとりにあった予防的ケアを求める老人層
・個人や集団の巨額な財政的要求
・研究開発投資に対する、より高い結果の要求
・バイオ技術との提携の出現
・消費者への、より対面的な薬品情報の供与
・そして、テロの脅威に直面している防衛産業からの新たなニーズ

このグローバライゼーションの時代においても、地域性というものは存在しています。日本は、まさにこのことが当てはまる市場であります。おそらく、日本におけるヘルスケアに関する議論の特有の問題点は、これは生産性の議論においても同様ですが、高年齢化する人口でしょう。この問題ゆえに、私も参加している日米官民会議が、日本の人々が高齢到達後にも生産的かつ健康でいられるためのヘルスケア分野における改革促進策を提案したのです。

特定の変革の衝撃波が、どのようなものであっても、乗りこなし方にはいくつかの選択肢があります。

企業にとって、一般的な戦略の一つは、企業を分解して、より小回りの効く小規模なものとしたうえで、規模を追求するためのパートナーをみつけていくやり方です。いくつかの企業にはこれが最適の戦略となります。小規模であることが有利に働くことが確かにあります。

しかし、それはまた弱点にもなりえるのです。

製薬業界を例にとりますと、この産業は莫大な資本の投入を必要としており、実際、世界で最も研究に資金を投入している産業です。新薬の開発には膨大なお金がかかります。製薬業界では、毎年3兆円をはるかに超える資金が研究開発費に投入されています。

その大変な研究から何が得られるのでしょうか。実際に市場に出てくるのは、約15,000種の候補化合物のうちたった一つという割合です。そしてその製品化にこぎつける製品も開発に約900億円かかり、消費者の手に渡るまでには平均して14年の歳月が費やされます。

このようなビジネスは、小さな企業や短期志向の企業には不向きなものです。実際に、辛抱強さは戦略資源のひとつなのです。

新しい治療を生み出す経費を確保するために、私たちは、高い効率性と生産性を実現するためのグローバルな規模が必要となるのです。私たちが今年、ファルマシア社を買収した理由の一つにはこの規模の拡大があります。

しかし、この規模というものは、グローバル市場を考えるときには両刃の剣となりうるものです。そうです、いわゆる「巨大製薬会社」と呼ばれる、昔からの大規模で完全に事業統合されたビジネスモデルは、何世代にもわたって新しい治療法を提供してきました。しかし、どんなに成功したモデルでも環境に順応していかなければならないのです。

ファイザーのモデルは成功してきました。

私たちファイザー社ほどの規模の企業でさえも戦略的提携という手段を講じるには2つの理由があります。私たちは、ある地域特有のニーズに応えるために、提携を注意深く行うことによって研究開発費をしかるべき地域の市場に振り向け、そして製品をより速やかに届けることが出来るのです。

グローバル市場で成功するために必要な変革は何かを考える時、私は、とてもからだが大きくて頑強なハーシェル・ウォーカー(Herschel Walker)というアメリカンフットボールのスター選手が数年前に下した、変わった決断を思い出します。なんと彼はバレエ団でバレエを踊ることにトレーニングの時間を割くことにしたのです。

これには、多くのスポーツファンが驚かされました。バレエ用の短いスカート(チュチュ)をはいた小錦関の姿を想像するようなものでした。

しかし、彼の説明は明快なものでした。彼は、「踊るときには異なった筋肉を使わなければならないのです」と言うのです。彼は、バレエで体得した柔軟性が自身をより優れたフットボール選手にしたと信じています。

実は、製薬業界も新しいダンスを練習中です。そして、その新しいダンスを踊るためには、強靭な筋肉だけではなく、一緒に踊る他のダンサー達とフットワークを合わせる事により得られる新しい筋肉が必要なのです。そのダンスは、行政当局、政府、医師の先生方らの、私たちの製品の品質向上を要求するヘルスケア供給者のニーズに合わせて創作されるのです。

そのダンスは独演ではないのです。どこの地域においても、ファイザーはパートナーに対して最善を尽くしています。

日本では、強力なグローバル戦略のための提携先である山之内やエーザイなどの優れた企業とともに業務展開を行っています。

これは、私たちに限った問題ではありません。ビジネス界の激震に耐えながら繁栄してきた企業は、皆新しいダンスを練習しているのです。

そして、私たちは皆、戦略的弾力性に関する少なくとも5項目の行動指針に従ってその練習をしているのです。

1番目の指針はリーダーシップの再定義です。 ある意味で、新しいリーダーシップの特徴は、それが反体制的な性質を持っていることです。つまり、物事を制度化してしまうことを不自然なこととみなしてきたのです。それは重要なことです。ファイザーでは、当社に植え付けるべく懸命に努力してきた6つの行動規範としてそれを表現しました。

第一に、私たちは実績に重点を置きます。結果が大切だ、ということです。リーダーシップとは地位ではなく行動であり、私たちは仕事を成し遂げたいのです。

次に、私たちは包括的な環境を作ります。これは、未知のものを積極的に受け入れ、様々な意見や立場、それにものの見方を切望していることを意味しています。

そして、私たちは自由な議論をたたかわします。これは、私たちは、さまざまな意見から生じた電気のほうが、一様な絶縁体より価値のあるものと信じていることを意味します。

私たちはまた、変化を進んで受け入れ、それにうまく対応するために全力を注ぎます。それは現状を維持して平穏を保ちたいという、人間の強い本能を克服することを意味します。

次に、私たちは人材を開発します。それは決まりきった機能としての技術を持った人材 よりも、ユニークで独自の才能をもつ人材を評価するということです。

最後に、私たちは全社的な体制を敷きます。伝統的な官僚的指揮・管理体系ではなく、柔軟な社内横断的に組成される問題解決チームを配置するということです。

もちろん私たちは完璧な会社ではありえませんが、これらが私たちの理想なのです。私は、これらがチーム、組織、そして企業を率いる時に適用できるものと信じております。

2番目の指針は、あなたが変えられてしまう前に変革を設計せよ、ということです。これは、それまでの体制を維持し続けるか、変化を先取りして新しい体制作りに向かうかという単純な選択です。

最初の選択肢は誘惑的です。どんな企業リーダーでも、同じことを続けながら単純に 大きくなっていくという道を取りたがるものです。しかし、それを永遠に続けることは不可能なのです。

今週、東京モーターショーに行って車の大衆化がどんなに進んだかを是非ご覧になってください。自動車業界は以下のように変遷してきました。

・馬車から手作り自動車
・ヘンリー・フォードによる低価格・高賃金での精密な部品と組立作業
・スローンによる消費者志向の大量生産システム
・デミングの品質チェック・プログラム
・日本の経営革新
・インターネットの出現による供給体制の転換

自動車業界は、その変遷の中で新しい自動車や道路や関連サービス業を作り出しただけではなく、大量の中産階級をも生み出しました。

これまでにはあちこちで大失敗も経験しました。例えばヘンリー・フォードの事業垂直統合の大実験です。それはデトロイト川沿いにあるルージュ・リバー工場で、自動車のみならず鉄鋼、ゴム、その他自動車の材料の全てを生産しようというもくろみでした。

業界の断然首位を行くフォードでさえも、このやり方はうまく行きませんでした。そして今日、自動車産業では、信頼を得た納入業者や提携先がネットワークを作って大企業と仕事をしているのです。

製薬業界の変遷については広く知られていませんが、自動車業界に劣らず劇的なものです。

私たちは、以下のような変化を志向しています:

・健康の供給者から個々の患者へ
・画一的な消費者像から知識を備えた医療消費者へ
・紙ベースからデータベースへ
・制約から選択へ
・対症的な医療から予防的な医療へ
そして
・病気との闘いから健康作りへ

これらの変化のためには業界の大規模な変革が必要です。

幸運なことに、私たちは、長期間にわたる膨大な研究開発の結果生み出された実績への評価を頂いております。私たちのやるべき事は、その科学への専心を企業戦略に活用することです。

私たちには、このことをうまく成し遂げてきた歴史があります。何年間にもわたり、慎重な洞察力を持って、このような戦略を支える経営決断を実際に行ってきました。

私が当社を見てきた期間だけを例にとっても、ファイザーのかつてのリーダーたちは、多くの転換点で英断を下すことにより、当社を業界中堅の一角から、柔軟性を兼ね備えた巨大企業へと成長させました。

・私たちは、業界他社が投資を控えている時にも、大胆な研究開発投資を行いました。
・私たちは、私たちの研究室から顧客や患者へ科学知識を伝達することに重点を置いた営業組織を作り上げました。
・私たちは、本業から乖離したところにある周辺事業を削減しました。
・私たちは、業界首位になるという目標を果たすために、知的・財政的な力を注ぎ込みました。

これらの経営決断は、将来への意志と、ひとつの明確なビジョンに基づき採られたものです:それは、私たちは、ただ単に医薬品を生み出すだけではなく、一歩進んで、すべての人々に、必要な時に、必要な製品が届くような道を切り開いていくというものです。

もし、私たちがこれらの思慮深い方針をもって変化してこなかったなら、今日のような力をもった企業となって、株主の利益に貢献し、また恵まれない人たちを病気から救ったりすることは出来なかったでしょう。

3番目の指針は失敗空学ぶということです。発見というものは、道なき道にある価値を探すことです。私たちはこのことは多くの失敗を意味する、ということを臨床のプロセスから学んできました。

つい昨年のことですが、私たちは、これこそが多くの人々を救うものだと固く信じていた新薬の開発をあきらめざるを得ないことになり、大変な落胆を味わいました。私たちは「虚弱体質薬」と呼んでいましたが、新聞記者は、その薬が、お年寄りの患者の脳下垂体を刺激することにより活力を作り出す作用を持つため、「若返り薬」と呼んでいました。開発のために10年という歳月と何百億円もの資金を費やしたあげくに、臨床試験の結果、私たちはこの新薬開発を中止しなければなりませんでした。

お金で買うことのできる最も優れた科学をもってしても、発見というものは誠に難しいものです。我々が出来る最善の事は、失敗を、何か有用な物事をそこから学ぶ機会と考える事です。

それが、皆様の政府が行っている、失敗を否定するのではなく、そこから学ぼうという勇気づけられる努力である「失敗プロジェクト」、失敗学会による、いわゆる「失敗知識データベース・プロジェクト」の陰にある素晴らしい考え方なのです。

そのデータベースを運営なさっている畑村洋太郎教授は、最近ニューヨークタイムズに「創造は99.7%の失敗である」と語っておられました。私の業界における新しい科学との関わりの経験に照らして申し上げれば、教授が述べられた数字は全く正しいと申し上げます。

しかし、教授が特におっしゃりたいことは、そして我々の研究にもいえることなのですが、失敗の目的は世界を変えることが出来るような創造的な成功を導くことであることを忘れてはならないということです。

4番目の指針は、予期せぬ結果を覚悟しておくことです。私は、主要国の高速道路で、平均走行速度が最も遅いのはどこかを知っておかしくなりました。どこだかおわかりになりますでしょうか。それは、ヨーロッパにある制限速度のないことで有名なアウトバーンなのです。どうして、そこが一番遅いのかおわかりになるでしょうか。それは何台もの車を巻き込んだ大事故が何時間も通行を遮断するからなのです。

ここから学びとるべき二つの教訓があります。第一の教訓は、スピード規制というものは移動にかかる時間を短縮させるべきものであるということ、第二の教訓は、ある政策決定が予期せぬ結果を生じることがあることを頭に入れておくべきということです。

製薬業界はかなり規制で縛られています。もちろん、それは目的を果たしています。私たちは生と死という問題に関わっており、そこには不祥事や無能力などということが許される余地がないのですから。

しかし、市場開放という大きな動きが航空業界、金融サービス、テレコミュニケーションといった他業界に対する顧客の期待を変質させた結果、顧客は価格に何よりも関心を持つようになってしまったため、製薬業界にもその影響が及んでいます。

適正な価格とはもちろん需要と供給を考慮したものです。ですから、その片方だけの規制緩和はうまくいかないのです。その良い例が、供給側が規制されたままで、需要側の規制が緩和されたカリフォルニアのエネルギー市場で起こったことです。

私たちはそうしたジレンマを感じています。

一方には、高度な革新性や、安全性、優れた効き目をもった奇跡的な新薬が次々と開発されることをますます期待している顧客たちがいます。

しかし、同じ顧客たちが、矛盾した要求をする場合もあるのです。

彼らは、最も安い価格で最高の医薬品を求めているのです。

だれが、それを非難できるでしょう。

しかしそうした要求は長期的には、好ましくない影響が出て来る場合があります。

俳人、小林一茶は「蚊いぶしに、やがて蛍も去りにけり」と詠んでいます。

市場原理に対して人為的な操作を行うことにより、驚異的な治療法という蛍がどこにもいなくなってしまうのは悲しいことです。

その観点に立つと、最後に挙げるリングに乗るための第5番目の指針は大変重要なものであります。

5番目の指針は、大衆と直接的なコミュニケーションを持ち情報を提供することです。私たちの世界の大きな地殻変動のひとつはマス・コミュニケーションのもつ力です。しかし、これは本当にコミュニケーションなのでしょうか?コミュニケーションという言葉は、両方向の会話という意味を含んでいます。にもかかわらず、マスメディアの情報の流れは殆ど一方的なものです。特にインターネットでは、誤った情報がまかり通っており、真実よりもずっと速く世界中を駆け巡ります。

そこで、これらへの対応が、経営者側の中心的な関心事となってきました。グローバルビジネスを不当に敵対視する意見に関し、私たちの考えを株主の皆様に迅速かつ慎重にお伝えする義務があるとしているのは、こうした理由からです。

医薬の分野に関しては、処方薬の価格について特に激しい抗議がなされています。価格体系は各地域ごとの問題であるべきですが、その一方で、製薬産業はグローバルビジネスです。地域の市場が製薬産業のベネフィットを享受するためには、そのことを理解しなければなりません。価格に関する議論はすべての事実が情報としてさらされなければなりません。私たちは価格と価値の違いという正当な問題を提起しています。

例えば、東京以外にも建物の高さ制限のあった都市はあります。ワシントンDCです。最も高い建物は555フィート―169m―のワシントン・モニュメントで、市の条例により、それより高い建物は建てる事ができません。

1885年にモニュメントが世界一高い建築物として完成したとき、これを建てた建築家がてっぺんに3kgの純アルミニウムのピラミッドをかぶせました。なぜでしょう。それはアルミニウムが自然界ではまだ稀少なもので、銀よりも貴重だったからです。

しかし、そのほんの数ヵ月後、科学者たちが実験室で人工的にアルミニウムを大量に作り出す方法を発見したため、その価格は一夜にして急落してしまいました。

しかし、そのことによりアルミニウムの価値は本当に下がってしまったのでしょうか。いいえ、そうではありません。

実際、アルミニウムの価値はこれまでにないほど急速に上がったのでした。建築家やエンジニアが、強く、安く、しかも大量に手に入るアルミニウムを利用することにより、さまざまなデザインの機械や飛行機、そしてそうです、高層ビルなどを作れるようになったのです。

日本も同じようにして真珠や絹を人工的に作ってきました。同様に科学は薬を人工的に製造してきました。ニューヨークにあるコロンビア大学のフランク・リヒテンバーグ教授の研究によりますと、今、新薬に2,000円を費やすことにより、あとで、救急治療や入院にかかる14,000円以上を節約できるという結果が出たそうです。

言い換えれば、ヘルスケアに関する消費は健全な投資なのであります。今日の個人の健康への投資、明日の高額な医療支出を避けるのための投資、そして、将来の世代に良い医薬品をもたらすための今日の研究を支えるための投資なのであります。

しかし、人々の耳にはこのような情報が決して届くことはなさそうです。

業界として、私たちは、本当に重要な、価格よりも価値という観点を伝える必要があります。そして、私たちは人々が、必要とする薬を、手の届く価格で、必要な時に手に入れることができるようにすることに基本的価値観を置いています。そして、それは医療に加えて、保険、政策、政府などを加えた複雑な等式なのです。

私たちは、これを総合的ヘルスケアと呼んでいます。その中で、気付いたことの一つは、地域市場の特徴に関わらず、人々の健康に関して長期的な利益を考える場合、それは政策が革新を抑制するのではなく促進するときに、最大限にかなうということです。

ヘルスケアに関する決定により影響のあるさまざまな利害関係者のすべての意見を聴き、また語りかけることが大切です。このことはすべての産業について言えることです。企業は人々に受け入れられて初めて成り立つもので、良いマネジメントとはより密に人にとの話しを聴き、より明解に話しをすることが求められます。

今回、私は地面を揺り動かしている「リング・オブ・ファイア」のお話から始めさせていただきました。この地面を揺り動かす力とは正確には何なのでしょう。

それは圧力です。

そうです。山や川、そしてダイアモンドをも造り出すような圧力です。そのことを念頭におかれたうえで、次のことを考えてみてください。

自動車などの手で触れることができる消費財を扱うビジネスもあります。また、金融サービスやソフトウェアなどより手で触れにくいものを扱うビジネスもあります。

製薬産業はその中間に位置します。私達の製品に形はありますが、それは同時に象徴的なものでもあります。その意味では、少々ダイアモンドと似たところがあります。

医薬品というものを、例えば、錠剤の形状をしたものを考えてみてください。それは、小さくて高価なものです。

しかし、大変な努力が、緩くつながった炭素のように強力な圧力で圧縮されて、この錠剤が出来たのです。

研究開発、製造、安全管理、アクセス、透明性、完全な供給体制、経営、労使問題、通商、教育、政策、購買者、処方箋を出す医師、そして何よりも患者の皆様などへの配慮に時間と資源が注ぎ込まれ、複雑に絡まりあったかたまりになりました。これらが錠剤に圧縮される炭素たちなのです。

したがって、錠剤には、その見かけの成分以上の多くのものが含まれているのです。

そうです。そのように造られた錠剤は貴重なものです。血圧の管理やコレステロールの低下、鬱状態の改善など、その他様々な、昔であれば、かなりの苦痛を与えたか死に至らしめたはずの疾患を抑制するために、毎日錠剤を飲んでいらっしゃる方にお聞きになってみて下さい。

そうです。皆様と同様、私たちも新しい地殻変動の圧力を感じています。私たちの感じている圧力とは、より新しくより良い医薬品を生み出していかなければならないという使命感です。そして、それらの治療が手の届かない真空地帯にあるのではなく、それを必要としている人たちが入手できるようにしなければならないという圧力も同様に重要なものです。

しかし、私たちはその圧力をあえて受けます。喜んで受け止めて、進歩のためにそれを 生かしていきます。なぜなら、私たちの仕事は命のための宝石を製造し、それらを全ての人の手に届けることなのですから。

ご清聴ありがとうございました。


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