武田 國男 武田薬品工業 会長 兼 CEO
開発強化へ「世界本社」

製薬企業の生命線は画期的新薬だが、新薬誕生の確率は小さく、1つの新薬の開発に9―17年、300億円以上もかかり巨額の投資が必要だ。
10年前社長に就任した当時、国内市場は医療費抑制策の本格化で伸びが止まり始めていた。海外ではグローバル戦略が始まっており、国内の一メーカーになるか、日本発の世界企業を目指すかの選択を迫られた。
4つの国際戦略製品や米国の合弁会社も軌道に乗り始め、世界の夢にかけてみることを決断した。しかし、当社が挑戦にふさわしい力を持っているかをみると、営業利益率、株主資本利益率(ROE)など全指標で世界企業と大きな格差があった。特に製造部門の生産性が低く、国内で勝ち残るのも難しいと強い危機感を持った。
指標を悪くしていた構造的原因を分析し、それをつぶしていくのが武田の構造改革だった。しかし、当時は経営指標による管理という意識が薄かった。構造改革をする以前に体質改善、つまり幹部から一般従業員までの意識改革が必要だった。
構造改革の基本戦略は事業の高付加価値化、人員の適正化、経営資源の重点的配分という3点。収益性の高い医薬品事業にヒト、モノ、カネを重点的に投下し、責任の所在を明確にするほか、客観的な指標や基準作りといった当たり前のことを当たり前に進めた。
ぬるま湯につかっていた無責任な大企業病の従業員は計数を冷静に見ることを避けてきた。恥ずかしいことだが、まず幹部から経営指標をたたき込み、評価を徹底することから始めた。仕組みの体系化のなかでは成果主義に基づく透明度の高い人事制度の導入が最も重要だった。
構造改革でROEが7.8%から18.2%に高まり、営業利益率では世界の強豪に匹敵するようになった。今後は研究開発の強化による新製品の確保が最重要課題だ。これができれば世界1位も夢ではないが、なかなか難しい。
米国事業の戦略的重要性はますます高まり、グローバル企業に適した世界本社のあり方や人事諸制度の改革に最優先で取り組む。世界企業にふさわしい効率的な会社にするには5年、10年先を見据えて変化を先取りし、前向きな危機感をばねに改革を続けねばならない。
[10月21日/日本経済新聞 朝刊]
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