中村 邦夫 松下電器産業 社長
顧客重視、聖域なき改革

現在の松下電器産業は日本経済のように苦労しながら復活を目指す途上にある。2002年度に黒字転換はしたが、営業利益率はわずか1.7%。窮地を脱したが、危機は続いている。顧客重視の改革を続けながら21世紀型の製造業を目指している。
松下は1990年代、収益力の低下に歯止めがからず、2001年度には創業以来の大赤字を計上する非常事態を迎えた。20世紀の成功モデルといわれた企業構造が制度疲労を起こしていたのに、おごりや自己満足が社内にまん延し、改革の摩擦を恐れる衰退企業の姿があった。
危機を突破するため企業ビジョンを明確にし、2006年に営業利益率5%達成を最低限の目標に掲げた。成功体験を根底から見直し、まず看板である国内家電流通部門に手を付けた。改革には聖域がないことを徹底するためだ。
雇用やモノづくり、拠点の統廃合など構造改革を進め、昨年度に松下通信工業など子会社5社の持ち株を100%とした。グループで取り組む14の事業領域を明確にし、開発、製造、販売を一体にした組織が顧客に責任を負うようにした。顧客に素早く対応できる経営への転換だ。
最も有効なツールが情報技術(IT)だ。「ヒト、モノ、カネ、情報」に加え、時間の活用が競争力を左右する。経営のあらゆる側面でIT化を推進し、社員が顧客と直接向き合う組織に変更した。今後は社員のスキル向上を重視した人材育成を進め、高い賃金に踏み込んで生産性の向上を図る。
ITで生産プロセスが変わり、中国参入でグローバルな生産モデルも変わった。21世紀の製造業の理想型は、完成品の川上のデバイスと川下のサービスの高付加価値で高い利益を上げる「スマイルカーブ」の相乗効果を高めることだ。
強い商品を作るには、他の企業や国に簡単にまねされないブラックボックス技術が不可欠。徹底した事業の選別と集中を通じ国内の全工場にこうした技術を持たせる。
今も最先端のデジタル機器は日本の独壇場で、モノを小さくする技術も日本特有。松下は1日も早く技術立社、環境立社を実現し、日本のモノづくり復活の一翼を担いたい。
コーポレートガバナンスの議論が盛んだが、組織や仕組みができれば解決できるといった問題ではない。形態がどうであれ大切なのは、経営者自らが経営の透明性を確保し、説明責任を果たし、自浄作用が働く組織とすることだ。経営者に最も必要な資質は倫理観。透明で公正で正直な企業として経営を預かっていく。
[10月21日/日本経済新聞 朝刊]
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