池田 守男 資生堂 社長
信頼こそ経営の原点

ブランドとは一言で「企業活動に対する社会からの信頼」と考えている。個々の商品や品質だけでなく企業の理念、哲学が顧客から愛され、総称としてのコーポレートブランドが評価されることになる。信頼は企業が人格的な価値を備えてはじめて得られる。
初代社長である福原信三は信頼を得るための要点を「商品をして語らしめよ」「ものごとはすべてリッチでなくてはならない」「ブランドは世界で通用しなくてはならない」という3つの言葉で表現した。つまり、商品にこだわり、心の豊かさを追求し、世界の顧客に貢献せよということだ。
この理念を実現するため、2代目社長の松本昇が構築したのが日本初のボランタリーチェーン制度だ。当社の商品だけでなく、理念までも顧客に伝える販売店網だ。
しかし、過去の成功体験に固執していては進歩はない。伝統を尊重しつつ時代が求める革新を断行してこそ、ブランド力が維持できる。
私が社長に就任した時、資生堂は偏在在庫にあえいでいた。このため、100近くあった商品ブランド数を2004年度末までに約3分の1に集約する決断をした。さらに、「店頭基点」という言葉を掲げ、店頭をメーカーである資生堂、販売店、消費者の3者が出会う場所として位置づけた。
商品を通じて日本の伝統的な「おもてなしの心」を伝える手法として、生産現場に「匠工房」という手法も導入した。これはラインで大量生産するのではなく、1人の作業員が充てんから仕上げまで商品を丹念に作り上げるセル生産方式だ。
しかも、単なるセル生産ではなく、出来上がった商品の外箱に作業員の名前を刻印している。作り手の真心と技術のすべてを注ぎ込み、商品を「作品」に昇華させたいと考えている。この外箱を見た販売店店主が作業員に感謝の手紙を送るといった事例も出ている。作業員にとっては何よりの励みになる。
世界の高級ブランドを扱う業界では「愛情を込める」ということが重要なテーマになりつつある。資生堂でも今年を「愛情商い元年」とし、研究開発、生産、物流、販売などすべての活動において顧客との心の触れ合いを大切にしていきたい。この活動を通じてこそ、ブランド力の源泉である社会的信頼を得られると確信している。
[10月21日/日本経済新聞 朝刊]
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