張 富士夫 トヨタ自動車 社長
環境対応進め車の未来開く

ここ20年で自動車産業を取り巻く環境は急速に変化してきた。世界的に環境規制が強化される中で、今や環境対応なくして車の未来はない。新技術への対応を新たなビジネスチャンスととらえ、変革に取り組みたい。また技術革新は日々の「カイゼン」が原動力となる。絶え間ないカイゼンを支えるのは人づくりであり、人を大切にする経営姿勢が新たな変革を可能にしている。
カイゼンではまず問題点をとり出し、なぜ問題が発生するのか、原因を徹底的に追求したうえで問題が解決するまで作業を繰り返す。うまく行くと、それを他の現場にも広げて定着させていく。
変革というのは一度に劇的に変わるのではなく、日々の積み重ねによってある日、こんなに改善していたと気付くものだ。ただ、ニーズのないところにカイゼンはない。高い目標と厳しい期限を設定して、現場の変革を促すのがトップの重要な役割だ。
当社では現場の1人1人が問題に取り組み、当事者自身で解決させるようにしている。自ら問題を解決する能力を持った人材を育てるためだ。知恵を出させることは人間性の尊重であり、一方的に命令するのは人間性を無視することだ。
「モノづくりは人づくり」というが、現場の機械化が進んでも人に頼る分野はまだ多い。またカイゼンを続けるには長期かつ安定的な雇用が前提となる。こうしたトヨタの考え方を海外でも定着させることができれば、変化に対応できる強い企業体質が実現できる。
自動車産業は成熟産業だと言う人もいるが、私はそうは思わない。自動車の保有台数は欧米の先進国では2人に1台だが、アジアでは32人に1台。世界全体でも10人に1台で、普及率は高くない。まだまだ成長の余地はある。
一方、21世紀に入り、世界的な環境規制が一段と強化されている。環境対応で我々が出した答えの1つが1997年に発売したハイブリッド車「プリウス」だ。エンジンと電気モーターを併用するハイブリッドシステムの導入で、従来の車に比べ2倍の低燃費を達成した。
さらに進化した2代目は内外で受注が好調で、他社も同技術の重要性を認め、ハイブリッド車開発に乗り出している。ハイブリッドは究極の低公害車とされる燃料電池車までのつなぎではなく、環境対応のキーテクノロジーと確信している。
生産や販売の国際化などに対応し、迅速な意思決定や権限移譲を可能にするため、この6月に経営体制も刷新した。取締役を半減し、新たに「常務役員」を設置し、外国人や若手を登用した。
国内販売はここ10年、高級セダンの販売が4割程度減る一方、小型車やミニバンなどが3割近く伸びるなど、中身が大きく変わっている。こうした変化を踏まえ、今年2月に現在、5チャネルの販売網を4チャネルに減らすことを決めた。
同時に米の高級ブランド「レクサス」を2005年央に国内でも展開することも決定した。米国での成功を日本でも引き継ぎ、さらに進化させたいと思う。技術、商品、マネジメントなどのパラダイム転換を推し進め、次世代を担う経営幹部の育成も経営者の重要な仕事となる。
国際化など環境の変化に対応して変わることは必要だが、決して流されてはいけないものもある。何を変えて、何を変えないかを見極めるのが経営者の仕事だ。その意味で、当社の人を大切にする企業姿勢は今後も変わらないと信じている。
[10月21日/日本経済新聞 朝刊]
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