第1回日経フォーラム「世界経営者会議」対話・講演・討論の全文
テーマ: 「スタンフォードセミナー― グローバル経営におけるインターネットのインパクト ―」
スピーカー:
ワード・ハンソン スタンフォード大学経営大学院助教授
トーマス・C・ヘラー スタンフォード大学法学部教授
ウイリアム・F・ミラー スタンフォード大学前副学長・経営大学院名誉教授
モデレーター:ダニエル・I・オキモト スタンフォード大学教授/アジア太平洋研究センター名誉所長
日時:1999年10月8日(金)16:30-18:00
場所:東京・帝国ホテル 本館2階「孔雀東の間」
【オキモト】スタンフォード大学はシリコンバレーの革新の中核的な存在であり、このパネリストのメンバーは、インターネットの世界、ハイテクの世界で、企業家精神、ベンチャーによる起業、技術革新といった分野で、中心的な活動をしてきました。
インターネットが非常に興味深いのは、情報革命の主要な手段であり、グローバル化の主要な手段だという点です。ビジネスに対するアプローチの変化の最先端にあります。インターネットのインパクトはまさに革命的なものでした。その重要性の観点から、ラジオやテレビ、その他の重要な技術革新と肩を並べ得るものです。グレイザーさんが、革命的なインパクトを、情報のスピード、範囲、コストの低廉さ、そして大衆が利用することができるという意味で、革命的だと指摘しました。メーカー、ビジネス、消費者との関係そのものを変えると話しました。
ここではまず、ハンソン教授がマーケティングのコンセプトを議論し、インターネットがマーケティング戦略をいかに変えたかについて話してもらいます。続いて、インターネットの企業に対するインパクト、企業組織や企業戦略、人的資源、戦略的な連携、その他類似の問題に対するインパクトという観点から、ミラー教授にお願いします。そしてインターネットの法的、行政的、そして金融、財政、税務的な側面、経済のあらゆる側面へのインパクトという観点から、ヘラー教授にスピーチを頼みます。その後、全員でディスカッションします。
【ハンソン】いかなる技術を見てもインターネット以上の効力を持つものはありません。特にマーケティングでは。私はインターネットマーケティングを教えるという、この革命の中心に存在するという大変幸運に恵まれました。シリコンバレーは、まさにスタンフォード・グラデュエート・スクール・オブ・ビジネスがあるところです。
インターネット・マーケティング・クラスを1996年に立ち上げたとき、これは非常に大きなものになると考えましたが、それでも今日ほどの注目を集め、発展を遂げるとは思いませんでした。 に次の点がグローバルに企業が直面している問題というものを劇的なものにさせました。2つの全く異なった分野の企業が私のアドバイスを求めてきました。この2社の問題を比較をしてみると、世界的に効果的なマーケティングとは何かがわかります。
第一の例は、インターネットコマースにおけるリーダー的な役割を果たしているところが、どうすればよりもっと速い速度で、より満足のできるサービスを提供することができるかという相談でした。インターネットマーケティングでよりよいマーケティングをしたいと質問をしてきたのは、スタンフォード大学と非常に友好的なチャールズ・シュワブでした。チャールズ・シュワブはサンフランシスコにある非常に大きな証券仲介業務をやっている会社です。金額的にも、毎週20億ドルの取引という非常に大規模な取引をし、この分野で最大のマーケットシェアを持っています。マーケットリーダーであってもシュワブはかなり心配していました。シェアは米国のオンラインの証券仲介業務で35%です。フィデリティーが22%です。これは1998年の数字です。この点からみれば、シュワブは非常に成功していました。証券取引のうち70%はすべてオンラインで、インターネット上で取引しています。シュワブが懸念していた理由は、投資家はその他にも色々な情報入手手段があるということです。取引量ではなく、オンラインで情報を収集する際のWebスクリーンの数で、それぞれの企業がどういう状況にあるかというと、アメリカンオンラインが33%、クィックエンド、これは金融ソフトですが14%、シュワブはオンラインの情報という観点では6%しかシェアがないです。これが彼らの懸念事項になっています。顧客とコンタクトし、情報を提供するという観点から信頼を得なければならない。Webサイトにスクリーンを持っているところの方が、より顧客の信頼を得やすく、したがってお客をとられてしまうのではないかという心配をしているわけです。
もう一つは全く異なった問題です。これはロシアの国防企業が防衛産業、軍需産業から一般産業、すなわち戦争経済から平和経済へ転換するために、何かインターネットをうまく使うことができないかという相談です。これはロシアと米国の学者や軍事部門のアナリストと話し、どうすればできるかということを話しました。非常に難しい問題ですが、手助けの方法は幾つかあります。インターネットは全世界の企業に対して、潜在的に非常にコストの低い流通チャンネルを提供できます。ロシアの企業にとって重要なことは、マーケットフィードバックを得ることができ、直接的なコネクションを顧客と打ち立てることができるということがあります。ビジネス間の取引関係を確立できます。これはロシアではまだそれほどできていません。さらに低廉な価格でグローバルなマーケティングのプレゼンスを確立することができます。働く人々に対し、よりよく資源を活用するためのスキルを提供することができます。ロシアにおいて起こらねばならない様々な基本的な変化に比べ、インターネットの重要性はそれほどではないかもしれませんが、企業活動を軌道に乗せ、世界経済に参加するうえで、非常に強力な方法です。
世界中の企業は今、インターネットをマーケティングツールを変える手段として使っています。マーケティングは多くの国々で、また多くの企業で、インターネットを商業化することによって変わってきています。インターネットをマーケティング部門が使うということは、会社組織全体が変わっていかなければならないかということを示しています。
まずマーケティングのツールを変えるということ。私たちはマーケティングのポイントを4Pといっています。すなわちプライシング、プロダクト、プロモーション、そしてプレースという4Pです。これがインターネットによって、それぞれ変化しているということです。第一に、最も重要なのはプライシング(価格)です。あらゆる企業は今、より情報量を多く持った顧客に直面しています。しばしば言うのは、いわゆるイグノラント・プレミアム、要するに顧客が無知で、ほかに何があるのか知らないから、そこで企業が利益を得ることができるという状況がどんどんなくなってきています。さらに企業がますます情報をオープンにしていますので、競争が激しくなっています。第二に、製品についてですが、急速な協力を通じ、ターン・トゥー・マーケットがより早くなっています。シリコンバレーではインターネットタイムと言われ、新たな商品を導入し、協力し、それを市場に普及させることをずっと急速にできます。第三に、プロモーション。これは宣伝、広告です。単に広告費で変化がみられるだけでなく、いわゆるインフォメーョンプッシュの状況、すなわち企業が顧客にメッセージを送る段階から、インフォメーョンプルの方に変わっています。顧客の方が自分たちの欲しい情報を欲しいときに要求してくるという状況にあります。ということは、企業としてはなかなか計画がしにくい、予測がしにくいわけです。ですから全体のやり方を再調整しなければなりません。第四のプレースというのは、セミナーや色々なコンサルティングを通じて行いますが、このチャンネル同士の対立があります。インターネットが直接的に顧客のところで使われると、今度は間接的な流通、そして既存の関係との対立が非常に激しくなります。強調したい点は、ここが最も深いインパクトをマーケティングにもたらしているものであり、いわゆる商品にフォーカスを当てるというこれまでのやり方から、顧客にフォーカスが変わってきているという状況、これが非常に大きく深い変化だと言わなければなりません。
マーケティング部門は組織改革を要求されており、ブランドと製品のマネジャーであることから、顧客のポートフォリオを管理しなければならない存在になってきているということです。それが顕著になっている幾つかの側面があります。アマゾン・ドット・コムその他、利益を上げていないところがあります。彼らが今やっていることの多くは新たな顧客の獲得のためです。彼らの活動はブランド創出であり、顧客の取得に最大限の努力をしなければならないからです。
今、発展が最も活発なのは、パーソナリゼーションの分野です。オンラインコミュニティーを消費者とビジネス、ビジネスとビジネス間でつくっているわけです。いろいろなソースから情報を収集し、企業が顧客と持つ関係をさらに拡大、拡張しています。多くの企業が認識しているのは、いわゆるオンラインで顧客の忠誠心をかち取ることが、非常に深く際立った高度な顧客サポートサイトを持つことによって可能であるということが明確になってきています。オンラインの情報提供を、コールセンターを持つことによって可能にする。オンラインに乗せられたものは、製品の付加価値を高め、機能を高め、ユーザーをサポートし、必ずしもそれに対して料金を取ることはありません。販売量を上げることによって、いずれ顧客の忠誠心をかち取ることよって、コストは相殺することができます。長期的な顧客価値をつくっていかなければなりません。
非常に興味深いのは、顧客のポートフォリオです。プロダクトのポートフォリオではなく、グローバルマーケットは、顧客との関係、顧客とビジネスの関係に非常に大きな変化をもたらします。これは非常に困難な、ダイナミックな複雑な問題であることには間違いありません。私のクラス、またリサーチやいろいろな文献を見ても、インターネットによって根源的に違いが出てきます。それは3点に絞ることができます。既存の、また新たなマーケティング技術をみますと、技術が適しているところと、適していないところとがあります。その経済性はインターネットのクロストラクチャーをつくることであり、そうすることによって適切に利益を得ることができます。要約すると、デジタルであることの基本的な意味をもたらすこと。ネットワークを使うということは何を意味するか、それは個人にとってどういう意味を持つかということが明確になっていくでしょう。
今、グローバルマネジメントについてインターネットの影響というのは、その出発点に立ったところです。私が書いた、いい本があります。1999年9月に出たばかりの『インターネットマーケティング概論』(“Principle of Internet Marketing”、日経から翻訳出版予定)です。インターネットマーケティングがどういう観点からマーケティング部門を改革し、また提携(アライアンス)を構築し、この基本的な力をすべての企業で、すべての産業で、どうして構築していく必要があるかどうして必要か、ということをこの本に詳細に書いてあります。
【ミラー】私はしばしば日本に来ています。日本経済についてはかなり楽観的にみています。私がみる限りにおいて日本は大幅に変わってきたと思います。 ここではインターネットが、経済、組織に対してどんな影響があるかといった話をします。米国ではニューエコノミーという言葉をしばしば耳にします。大学の同僚のローマの言葉ですが、新しい経済というよりも、経済における技術の重要性を新たに理解する方がより重要だということです。結局インターネットというのはこれに尽きます。新しい技術は、経済においてどんな役割をし、組織などにどんな影響をもたらしているのかといったことが大事です。一つ言えることは現在、未曾有のシフトが見られることです。新たなるコミュニケーションへとシフトすると同時に、新しい流通制度の媒体が生まれているわけです。今までの物流のやり方が変わった。商品も変わった。また収入モデルも変えてしまった。こういった変化が見られるのは、結局インターネットの台頭ゆえです。にもかかわらず、このシフトの意味合いが何なのか、長期的な意味合いが何なのかを、私たちはまだ十二分に認識していません。一つ明らかなのは、消費者の大幅なシフトが見られることです。消費者のコントロール権がますます高まってきていることです。
ディス・インターミーディエーションがあると同時に、それが一緒になってディ・インターミーディエーション、そして新たなるインターミーディエーション、この3つが同時進行なのです。会社が垂直統合すると同時に、水平統合をあわせて実施する。また、統廃合も随分みられます。例えば銀行では、トラベラーズとシティコープが一緒になってシティグループをつくった際に、いわばワンストップ・バンキングといった言葉がよく言われました。確かにワンストップ・バンキングができますが、ホームページにおいてもそれができるわけです。ベストのベスト、ウエルスファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、シティコープ、ベスト・オブ・ベストをホームページで全部、ワンストップ・バンキングででき得るわけです。ということは組織自身が統廃合していかなくてはいけないのですが、その際ディス・インターミーディエーション、ディ・インターミーディエーション、インターミーディエーションが同時進行するわけです。では何がこれを引っ張り、なぜゆえにそうなっているのでしょうか。3つのことを覚えておくべきだと思います。一つがモアの法則、これはコンピュータのハードのコストが大幅に引き下げられているということ。もう一つがメットカーフの法則、それは接続の価値を増大させるということ。そしてコースの会社の性質、つまり垂直統合の価値が減少しているということ。最初の2つの法則の結果、このコースの法則が出てくるのです。
例えば1メガビットのメモリーチップのコストを時系列的にみれば、コストがいかに下がったかわかるのではないかと思います。簡単に言えば、コンピュータがどんどん安くなって、だれでも買えるようになった。現在はこんなちっちゃなコンピュータが、大きな会議室の3分の1ぐらいの場所を占めた初期のコンピュータよりもはるかに能力がある。コンピュータがただ単に安くなったのみならず、通信コストも併せて安くなっている。接続コストが安くなったということです。大幅にコストが引き下げられているのです。コンピュータコストと同様に、通信コストが安くなって、それに対して通信帯域が拡大しているわけです。ケーブルもあれば、DSL、ADSL、光ファイバー、無線もあれば…、ということで、いろいろな帯域を活用できるようになった。そしていろいろな帯域を使って接続ができるようになった。これがモアの法則の結果です。
次にメットカーフの法則。メットカーフの法則は、個人にとってネットワークがどのように重要なのか、会社にとってどの程度の価値をもたらすのかということです。ネットワークにおいて加入者が増えれば、その前の加入者は価値をさらに享受できるという法則です。最後の加入者と最初の加入者が同じぐらいであったら直線です。しかし最後の加入者と最初は同じではないので、どちらかというと先細りになってくることを示しています。これは個々人に対する価値です。しかしネットワークということで、AOLだろうと、CNWだろうと、ネットワークとしての総価値を見ますと、どちらかという価値が増大していく格好になります。企業は投資することによって加入者を増やそうとしているわけです。そしてネットワークの価値を高めようとしている。まさしくCNWはそれをしようとしているのであり、投資を大幅にし、加入者を増やし、そしてネットワークの価値を増大させようとしているわけです。加入者が増えればネットワークの価値も増大するということです。ほとんどの場合、インターネットのビジネスの場合、私どもまだ始まりにいるということが言えます。ということは右肩上がりで成長するチャンスは大いにある。
会社、企業の性格の話をしましょう。ノーベル賞を受賞したコースという人は、基本的に企業は取引コストを削減するために組織化されていると言った。取引コストというのは、いろいろな機能間の取引コストであす。その中にはサーチコスト、交渉コスト、その他の会社とのコスト、監督コスト等々があります。これらの幾つかのコストを引き下げるということで組織化していくわけです。社内においてコストを引き下げ、もっと効率的に社内でやっていきたいということを思ってきたわけです。しかし、ここでインターネットが入ってくると、もっと効率的に、外的にしてもらえるようになっていくわけです。社外でできるということならば、マーケット自身がこういった取引をより安いコストでできる、あるいはもう少し社内でやるよりも安くできるということであるなら、垂直統合の意味がなくなるということです。この結果はどうなのか。インターネットの結果でもありますが、会社がだんだん垂直統合化しなくなる。そしてコアの能力が重要になってくると同時に、企業内ではうまくできることだけをやって、他は外的にやってもらえるようなこと、また経済性が同じようなものは、社内で手がけないということになります。
製造については、どんなことになるのでしょうか。ネットにおいて営繕とか色々なことをやっており、そして卸、小売の取引をどちらかというと一般商品レベルに落としているわけです。価格設定についても、これらの取引をどちらかというとオークションに転換している。厳密なオークションではないのですが、価格比較をすることによって価格がどんどん引き下がる。それがいわば一般商品になっていってしまうわけです。その結果、大規模の製造業、商品の製造については、コモディティービジネスになってしまうのです。情報ビジネス、コンテントビジネスの方が付加価値は高い。ソフトとコンテントこそが付加価値のうま味のある将来のビジネスということになりましょう。
一つの結論として、技術というのはただ単に戦略を実施するツールではありません。過去においては戦略ではなく、ツールだと考えていたわけです。戦略というのはしばしばコスト削減をみていたので、戦略的に優位な立場につこうと思っていたわけではありません。今や技術がプラットフォームとなっているのであり、会社としてはそのプラットフォームに立脚してビジネスをさらにテークオフでき得るのです。
経営陣にとってはどういった意味があるのでしょうか。一つは、こうしたディス・インターミーディエーションがあるので、いわば垂直組織がバラバラになっていく。そしてもっと水平化していくことによって、もっと色々な会社を創設するチャンスが増えてくるわけです。新たな会社がどんどん出てくるということです。それをうまくやるということが大事ですが、どういうふうにしたらいいのか。それは企業家精神です。起業家が必要です。起業家がやっていけるような最もいい環境を整備していくと同時に、最もいいビジネス環境を整備し、そこで起業家がやっていけるようにしていかなくてはなりません。では内部の経営陣にとってどういう意味があるのでしょうか。ネットの世界では物事のペースは早いのです。商品の寿命も極めて短命。ほとんどの商品の寿命はせいぜい数年、数ヵ月、今は2、3、4ヵ月に短縮された。どんどん寿命が短くなる環境の中で、トップの人たちは素早く対応する必要があります。これらの企業のCEOは、本当の意味で自らのビジネスを理解していなければなりません。調査してもらうとか、研究をしてもらう余裕はないのです。もしだれかに頼ってこうしてくれということを聞いているCEOがいたならば、その人の意志決定はこのネット社会の中では遅過ぎるということになります。簡単に言うと、ネット世界においてはスピードこそが問題なのです。
ではどういうふうにして人々、社員のやる気を起こさせるのでしょうか。どういった問題点があるのでしょうか。このことは世界的な一つのトレンドとなっています。社員というのは給料だけでなく、株式といったものを保有できるということを求めて働いているわけです。会社としてはイノベーションを社内においてとらえていかなくてはなりません。イノベーションは1ヵ所で生まれるものではありません。今日のイノベーションは、いわばホームページ全体において、またネット全体において生まれてくるのであります。ビジネスとしては、このネットの中のイノベーションをどういうふうにしてとらえられるかを考えていかなければなりません。こういったことが幾つかの重要な側面です。もう一つ大事なことがあります。これは急速にネットに対して価値を創出させることに関連していることです。例えば会社にとってマーケットをコントロールするということは、会社をコントロールすることよりはるかに重要です。マーケットをコントロールすることこそがキーです。人々はしばしば会社をどういうふうにしたらコントロールできるかと考えますが、そうではなく、大事なのはマーケットをどうコントロールできるかということです。
【ヘラー】私はインターネットが提起する問題、すなわち技術によって法律を含めてガバナンスの制度がどういう影響を受けるのかという点を取り上げてみたいと思います。例えば税に関する問題などは、新しい情報技術が一般的に私たちが自らを律し、統治する方法に与える影響の一部だということです。そして情報革命の経験で、どういった違いが出てきているのかということを、次のような形で問題提起してみたいと思います。多くの人はグローバル化が経済のガバナンスのシステム、法律を含め、先進工業国において似通っている、コンバージェンスを起こしていると言うのですが、法律が似通ってきているのか。もしそうだとすれば、なぜかということを問うてみたいと思います。本当に法律が各国間で収斂するのだとすれば、これは米国化ということなのでしょうか。 経済の統合、ガバナンスの方法が多様化した、ダイバージェンスを見せたというのは、経済の歴史の中でも近代のものです。そして政治的なメカニズムではなくて、市場を通じてみずからを統治する、経済を通じて統治をするのは、先進工業国で色々な形で行われてきたことですし、日本、米国、ドイツ等々、いろいろなところで行われてきましたが、市場を通じて統治する、政治によって統治されるのではなく、市場を通じて統治するということですが、例えばコーポレートガバナンスは、株主が議決権を持つということで行われるのか、コーポレートガバナンスを、市場を通じてやるのなら、会社のやっていることが気に食わないなら、株を売って他の会社の株を買うことで代表されるのか。あるいは法律の分野で、日本では樋口さんが「年間司法試験に受かる人が750人になったが、それを2000人にすべきだ。アメリカの場合は5万人だ」と言いましたが、では何人弁護士が必要なのかということはだれも問うていないわけです。米国の場合には、ロースクールに行く人がたくさんいて、その後の司法試験は比較的簡単に受けられるわけです。その場合に、ガバナンスと法律の関係で言うならば、何人が必要なのかという観点からの問いかけも必要でしょう。経済のガバナンスというのが近代社会において異なったスタイルがあるのでしょうか。そして市場をその手だてとするのか、政治を手だてとするのかということによって違いがあるのかということです。本当に法律等の収斂が起きているのでしょうか。ある部門によっては起きていますが、経済のセクターによって違いますし、かかわっている企業の大きさや、どういった法律のことを言っているのかによって違います。国の間で類似性が高まっている面もあれば、そうでない面もあるわけです。第3に最も重要なこととして申し上げたいのは、経済の開放度がこの10年の間に高まってきました。情報技術が引き起こした状況として、市場を通じてガバンする場合の相対的なコストが下がってきたわけです。政治を通じてのガバナンスよりも、相対的なコストが下がったということで、米国でも、欧州でも、日本でも、違った出発点から始まって、同じ方向に向かっているということです。これを米国化と呼ぶ人もいるかもわかりません。歴史的な理由から、米国は常に市場を活用しようとし、そして政治でるよりは市場を活用してきたわけです。一見すると米国化と見られるわけですが、すべてのシステムが同じベクトルで、同じ方向を指向しているということでしかないわけであります。
今申し上げましたことを少し敷衍してみたいと思います。米国ついても欧州についても、非常に抽象的にならざるを得ません。欧米、あるいは西洋ということでアジアと対比いたしますが、欧州の人から見ますと、米国というのは欧州から離れていった子供のようなもので、根は同じだと考えているようですが、近代の世界の中では違いがある。米国におけるガバナンスの違いということを考える場合に、2つの主要な要素があると思います。米国というのはガバナンスの制度づくりとしては非常に奇妙なところでした。多くの土地があり、人口が少ない。そして多くの資源があるところでしたし、150年間は植民地としての経験しかなかったわけですし、国家は基本的に、ローカルな生活に介入する、干渉するものとしか見られなかったわけです。多くの空間があり、そこで国家は抑圧的と見られたわけでして、米国ではそういった特徴を持った制度づくりがなされました。例えば資源の配分などについても、ここは望ましくないというのであれば、他のところに動いて独自のコミュニティーをつくる、そして違った代替案をとるということができました。政治でもって非常に強力なガバナンスの形態ができるよりは、望ましくない場合には出口の可能性が与えられ、ローカルなコミュニティーの方が重要視されたわけです。第2に、米国は銀行に関して非常に難しい歴史があります。国家が制約を与える力だったとすれば、銀行が全国的にも、また地域的にも制約をかける要因でした。またコーポレートガバナンスということでも2つ重要な点があります。まず保護を求めようとしても、あるいは独占のもとでの保護を求めようとしても、持っていく政府がないということ。イノベーションでやらざるを得ないということです。企業は発展した銀行制度から資金を容易に得ることができなかったので、一般の投資家からの資金を確保せざるを得なかった。企業の成長のために不可欠な資源の源としての公共の市場というのを適切に規制せざるを得なかったわけです。労働について、強力な労働運動もなければ、強力な福祉国家でもないというところに置かれていました。米国には大変強力な競争促進法があります。独占力に対抗しなければならないことを強調するものです。競争促進法は政府が施行したというよりは、民間のアクターが訴訟を起こす形で、あるいは弁護士を雇って、そして勝訴をすれば、その代金を得ることができるような、すなわち私的なモデレーションということで行われてきました。政府の弱さということもあって、規制が重要視されなかったということもあります。
申し上げましたことを日本と、また欧州とも比較して頂きたいと思います。欧州の場合には、出口というほどに余計な空間がなかったわけです。国家は既に事前に存在するものであって、その枠内で適応せざるを得なかったわけです。政治は欧州では生活の一環でした。銀行も、国家同様に全国的な銀行として大変強力なものであり、経済の中で政府のコントロールのもとに置かれざるを得なかったわけです。ステークホルダーの参加、ドイツの企業の場合には労使ということで労働者の参加が重要視され、株主がステークホルダーとして持つ立場が弱かったということです。さらにいろいろな福祉制度がつくられて、そして財政的にも難しい問題を起こしています。それから競争促進というのは国家であるとか、銀行の行政を通じて企業の行動がモニターされたということで、競争促進法は米国ほど強力ではありません。日本の場合は欧州により近いと言えるかもわかりません。米国ほどすべて市場で律しようということではないのかもわかりません。
法律を見た場合に、こういった収斂、統合が強くなってきているのは、コーポレートガバナンス、そして金融の分野です。労働だとか、競争促進については、それほど似通ってきていません。訴訟をする前に、プライベートアクションで対応しようとするということ、この違いもあると思います。それから上場について、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場することが、米国外の企業でもより活発に行われることによって、そこでの規制に合わせなければならないということで、類似性が高まってきています。また企業の大きさというものもあります。例えば大企業のほうが銀行による圧倒的な支配から逃れて、資金の調達を他で行うことが容易です。ということは会社法なり銀行法のらち外での活動の余地があるわけです。
次にガバナンスに影響を与える4つの力について申し上げたいと思います。それは後で表示すべきかと思いますが、開放性情報技術が、市場の代替案を通じて統治することをより可能にしてきています。政治で統治するばかりではないということです。また社会サービス、医療サービスなどを見ても、ヨーロッパでは分権化されてきていますし、より競争が導入されてきていますが、そういった公的な部門においても、エネルギーや電気通信といったインフラの分野においてもそうです。私がスタンフォード大学を出る直前に、新しい電力会社ができました。東京電力がその地域の独占をするといったようなことは、少なくともカリフォルニアではなくなってきたということです。独立した当局、金融当局とか、あるいは他の直接的な規制で、経済的なインセンティブで取り仕切ることが仕切れなくなったこと。ミラーが言ったように、工業社会が変わってきたこと。全体的な取引相手に対する情報が得やすくなったことで、さらにいろいろ取引のカスタム化が行われやすくなってきたということです。ウェルチさんも指摘したように、色々異なったサービスを組み合わせることができるわけで、弁護士、会計会社、報酬制度やそういったもののサービスを組み合わせてカスタム化したものをつくり出すこととができるということになってきたわけで、官僚機構がモニターしやすいようなシステムをつくるのがより難しくなってきているわけです。企業の新設、閉鎖がより簡単に迅速になされるようになってきたわけです。それから競争法について、例えばマイクロソフトや電話などのいろいろな訴訟の実際の事例がありますが、それが競争にどれだけ影響を与え、競争を阻害するかという意味ではさして心配しておりません。最後にもう一つ、法律自身は一つの公共財のグループなわけで、政府が法律を提供するものではありませんが、これも少なくなってきています。各層にもわたる情報を使うことによって、相手の行動の予測がやりやすくなってきている。これは系列の組織化のような感じがするかもわかりません。日本は法律が要らない、関係、信頼関係で仕切っているのだから、法律は要らないのだということを言われますけれども、インターネットを通じてパートナーをグローバルなベースで、今までの名声や実績から選ぶことができるようになってきているということがあります。しかしこれは選ぶ対象がグローバルなわけで、一国の中ではありません。
私が色々申し上げたことは、論文にしたためておりますので、ご希望があればご連絡頂きたいと思います。
【オキモト】おのおののパネリストに質問があります。最初にハンソンさんに対してですが、あなたのプレゼンテーションの持つ意味というのは、顧客が力を得る、すなわちインターネットのインパクトを通じて顧客が力を得る(エンパワーメント)の傾向があるということだったと思います。これが特に2つの領域で顕著にみられる。まず顧客が選ぶことのできる選択が広がった。換言すると顧客が色々なオプション間で選択できる余地が増えるということと、第二に退出(エクジット)のオプションが顧客に与えられたということです。この状況を日本に応用してみますと、日本では一般的に、生産者が消費者を常に支配してきたと見られているですが、この状況は顧客のエンパワーメントに対して革命的な影響をもたらしますか、不可避だとお考えですか。
【ハンソン】パワーを持った、非常にオルターナティブについての知識を持ったエンパワーのある顧客のイニシアチブは何かということは、高い品質を企業が提供しなければならないということを意味します。顧客が一番いい製品を出しているのはどこか、値段に対する価値が最大なのはどこか、質と価格の間にトレードオフの問題があります。いい製品、いいサービスを提供できれば将来は明るいということになります。生産指向から消費者指向に動きがもっと激しいのは、流通ネットワークがどういう状況になっているのか。今まではただ立地条件がいい、あるいは独占的な力があったので有利だったということがあったのですが、流通チャンネルこそまさに非常に大きなインパクトを受けます。そういった観点から色々な戦いが出てくるでしょう。インターネットの世界では自分が支払っている値段がすべてわかってしまうわけです。製品やサービスのバンドルというのはありますけれども、インターネットが非常にいいのは顧客訓練に非常に優れているということです。実際に自分が支払っているものの価値は何なのか、そしてどういった製品が非常に価値が高いということがわかるわけです。顧客は自分の支払っている代価が何なのかということが非常によくわかってしまうということがあります。
【オキモト】ミラーさん、あなたはネットキャスト、それから加入者をネットワークに加えていくことがいかに必要かということを言いました。メットカーフの法則として、加入者をたくさん加えていくことが必要だということを言いました。市場において、最初に始める人間である、ファーストムーバーであるということの支配的な価値はあるでしょうか。
取引コストが低廉化するということを言いました。それからディス・インターミーディエーションが生ずる、すなわち垂直的な企業組織が水平的になっていくということを言いました。これはまさにシリコンバレーのエッセンスだと思います。水平的に分断化されていく、すなわち労働の分業が始まっていく等々ということが生じたわけですが、小さな企業がニッチ市場に特化し、特定の製品をつくっていくという状況になると、それは参入のバリアが非常に低くなるということになります。そこで知りたいのは、メットカーフの法則であり、非常に強力なベースを持ち、ちょっと分野が違うのかもしれませんが、非常に強力なネットワークを持っており、参入に対するバリアが低く、水平的なフラグメンテーションがあることになると、どういう状況が生じるでしょうか。
【ミラー】これは両方の効果があると言わなければなりません。参入バリアは相対的に低くなりますし、同時に顧客を追加することについて価値があるわけです。顧客に早く接続すればするほど、その分野で競争に勝てるということになります。マーケティングの分野で非常に大きなプレッシャーが企業に対してかかっています。
どうすればネットワークに人々を取り込んでいくことができるかということ。これは無料で品物を配るとか、ネットスケープが始めたようにブラウザーをネットワークに人々を引きつけるために無料で配布すること。そのためには非常に多くの資金も必要とします。膨大な圧力を、また非常に大きなフォーカスが、十分な資金が必要だということになります。十分な財源がなければこういった勝負には勝てないことを意味します。こういった企業はしばしば資本市場にできるだけ早く行って、顧客基盤をつくるために資本調達をしようとします。早く動くところほど早くそこに入ることができます。競争心は常に後ろにぴったりとくっついてきているわけです。技術的なバリアは高いのですが、参入バリアが低いからです。資金的なバリアも非常に高くなり得ます。
【オキモト】ヘラーさん、第一の質問は、あなたは市場を通じてのガバナンスといった意味で市場モデルの重要性を強調するということは、勝利のための戦略とお考えのようです。それが歴史的な傾向だと考えているようですが、なぜそうなのでしょうか。価格が相対的に下がってきていることから、そこに勝者になるトレンドが出てくると言いました。もちろん競争もこのような状況下ではどんどん激しくなるし、多分非効率性がどんどん排除されていくと思いますが、負の外的要因というのはあるのでしょうか。市場におけるガバナンスということで、何かそれを阻害する要因はあるのでしょうか。
2番目の質問は、日本とフランスの政府、この両国の政府のように、産業政策、行政指導、また金融セクターを厳しく規制してきたと政府はどうなっていくのでしょうか。こういった政策というのはもうアプローチ全体が時代おくれになっており、機能しなくなるとコストが非常に高くつくということを意味していたと思います。かなりドラマチックな政府のあり方の変換を意味していたと思いますが。
【ヘラー】第1点は、私が言わんとしたのは、多くの先進工業国、米国、多くの欧州諸国、そして日本において、歴史的固有の要因ゆえ、こういった国々は一定の政治を通してのガバナンスと、市場を通じてのガバナンスの間にバランスを打ち立てました。これはそれぞれ違うのですが、それぞれが均衡を保つようになってきて、このガバナンスがその異なった均衡を反映してきたわけです。そこで私が言いたかったのは、問題解決をよりよい情報を得ることによってそのコストを削減すること、すなわち競争的な選択肢があるというよりもその情報を集めるコストが低くなることによって、どこにあろうとそういった国々は、価格が変わることによってより市場が増えてくることを意味しております。特定のバランスが出てくることを言っているのではありません。それぞれが出発した歴史的な観点から、価格が変わることによってこれまでよりも市場がより多くなることを意味します。まさにそれこそがグローバル化が意味するものです。と同時に明確なことは、政治によるガバナンスというのもやはり色々な理由で重要です。言うまでもなく集団の財、環境等々といった市場にかかわることは、やはり供給不足になっています。中国には2種類の経済があります。一つは非常に政治的な経済で、あまり変わっていません。これは国有部門です。もう一つは市場駆動型のマーケットです。すなわち郷鎮企業であるとか、中小の企業でありますが、大体汚れ作業が多く、十分な制度ができていません。しかしバランスはありました。だんだんそのバランスが変わってきているわけです。日本については申し上げません。多くの私よりも十分知識のある方がいらっしゃいますから。フランスの場合は、確かにいろいろな意味でよく統治された国家の模範でした。もちろん腐敗であるとか、色々な問題が最近は出てきていますが、しかしフランスは急速に変わってきています。しかもその原動力は欧州での変化ゆえであります。この20年間、欧州で生じてきたことをみますと、ますますガバナンスの力がブリュッセルに移行していったということです。そしてこういった事態が進展するに従って、色々な企業が国籍は問わず色々な選択肢があるということを発見するに至りました。例えば欧州で資金調達しようとすれば、欧州通貨制度が発足して単一通貨ができたことによってかなり変わりました。フランスの企業はフランスの銀行やフランスの大蔵省に縛られることはありません。最近、欧州司法裁判所が、どこに企業を発足させてもいいということを言いました。フランスの企業がほかの国で企業を発足させるのも簡単なわけです。2つの戦略をとっています。第一はブリュッセルの状況に影響される。第二は特定の政策によって支配をすることができるという考え方がどんどんなくなってきているということです。これは欧州全体の状況です。
【ミラー】ヘラーさんが言ったことにつけ加えます。私は日本についてコメントをします。私はいろいろなベンチャー法を研究してきました。そこで何が生じているか、どういった変化が生じているかというのをみてきました。日本では非常に大きな変化がありました。樋口さんが今日話した報告書について考えてみます。経済戦略会議のレポートをみますと、まさに方向性としてはヘラーさんが言っていたような方向に変わってきているようです。規制はますます開示にとってかわられる。そして開示によって得られる情報の方が、直接的な規制によって統治するよりもより効果的であるということが明確になってきました。
【オキモト】それではもう一回質問します。日本の話をしてきたし、この会議を通して日本の将来について語ってきたと思います。経済成長率の2、3%というのと、その水準に行き着くのに何が必要なのかということと、ハイテク分野またサービス分野の競争力なるものを区別したいと思います。なぜあえてそんな区別をしたいのかというと、例えば日本が不良債権の問題を解決し、消費者が自信を回復して消費するようになり、また会社が再投資して新規事業に投資を始めるようになれば、日本経済はその成長率は回復するだろうと予想できます。しかし私どもが取り上げてきた問題の大半に答えることにはなりません。長期的に日本は、果たして付加価値の高いセグメント、つまりハイテク、サービス部門にシフトできるのだろうか。その際、グローバル化に適応し、情報革命に適応しつつ、そこにシフトできるのかということです。日本がグローバル化、インターネット情報革命に適応し、付加価値の高いもの、ハイテクなど、またサービス部門にシフトできるのでしょうか。
【ミラー】日本はできるし、今やっているし、まさしくそっちに行くと思います。300人以上のソフトの若いエンジニアに会っていますが、まさしくその人たちがハイテクの分野に移行しつつあるのをみています。経済に対するインパクトはまだ目につかないかもしれません。しかしシリコンバレーひとつとっても、米国経済に対するインパクトをもたらすようになったのは、やっとここ15年のことです。シリコンバレーは歴史もあって、100年以上存在してきたのです。しかし初期のころは小規模の会社が、ほんの極小企業としてやってきたということです。だからこういった企業がGDPに、経済的にどの程度インパクトをもたらすかといっても、相対的に小さかったのです。かなりの間、こういった小企業の努力はGDPには反映されませんでした。しかし日本は苦しんで、頑張って、法体系を変えることによって、もっと競争しやすくすれば、成功していくと思います。日本はまさしく付加価値の高い方に移行しようとしていると思います。
【ハンソン】ビジネスプロセスのレベルからいって、ある意味で日本は主たるブレークスルーを達成できるところにいます。システムとしても、適応するシステム、例えばインターネットのテクノロジーをアーカイブとして使ったり、単に情報を補完するという形で使ったり、インターネットはビジネスプロセスの色々な部分を代替するようになるわけです。例えば顧客のサポートとか、あるいは技術的な文書を示し、ということです。しかし、インターネットを効果的に使うのは、ビジネスプロセスで何ができるかに基づいて再設計することができ得た場合です。ほとんどの企業は大体第二ステップでとどまってしまう。インターネットを代替物として使い、節約あるいは品質を若干改善するために使う。そこで止まってしまうのです。失敗を恐れるがゆえに、その次のステップまでなかなか行かないのです。いろいろな問題が変わらない限り出てくるということに気づいたならば、インターネットをベストの形で使うと思います。いわばデジタルプロセス、ネットワークを中心にビジネスを再構築する、そうしたならば極めて成功でき得ると思います。
【ヘラー】米国人は同僚相手に議論を吹っかけることで有名ですが、私も若干その覚悟でもう少し違った視点を持ちたいと思います。今、日本で経験していることは、ビジネスの景気循環において、ある構造の中では自然な動きだと言えると思います、構造が変わっているということでもないと思います。一番の難しさとして日本の場合、特に事業を立ち上げる際のコストが高いということです。それは2つの意味があります。片や公的コスト、例えば許認可を得、官僚相手に色々なことをやるのにおカネがかかるわけです。こういったことを経験したのは、京都にスタンフォード日本センターを数年前に立ち上げる際に、自分自身も経験しています。色々な教訓を学び、いかに許認可に時間がかかるかは重々わかっています。モデルなしに日本の官僚を相手にやっていかなくてはいけなかったからです。もう一つはプライベートコストと言いましょうか。息子がサンフランシスコで新た事業を興しています。ソフトをつくっており、もう少しでインターネット会社になると言っています。若干、息子の目を通して言えば、なかなか面白い。3人の子供たちが新しいビジネスをこなし、テクノロジープログラムについてかなり知っていた人たちが事業を始めた。色々なサービスの手助けを受け、例えば弁護士を雇って社員の人事政策はどうするか、あるいは公認会計士を雇って税金をやってもらったり、市場のコンサルタントを雇ってどこに会社を上場したらいいのかということで、色々な専門家の手助けを受けてきたわけです。結局、サンフランシスコじゃなくて一部は台湾でサービスを受け、プログラムのかなりの部分はインドでやったのです。基本的なプログラムをやるのはインドでやった方がいい、米国のシリコンバレーで人を雇うよりいいと思って、インドでかなりプログラム化をしたわけです。外部に委託する。そして自分たちが持っていない専門知識を外部に委託していったのです。全部自分たち、会社内でやろうとすると、とてつもなく高くついてしまう。こういったサービスがネットワーク化されており、競合他社がお互いに競争して、こんなサービスがあるということで提供しようとしているのです。それだからこそ繁栄し、息子たちの仕事はおかげさまで今はとりあえず極めて順調です。それに対して、私の日本での経験はもっと大変だったのです。そういった外部でのサービス、専門家の助っ人を雇おうとしてもなかなか探しにくかった。彼らの場合、ベースはシリコン、しかし、色々なところに委託して、外部の専門家を雇ったわけです。しかし、限られた日本での私の経験においては、まだ規制緩和が十分でないゆえに、サービス部門についてもなかなかそこまで行っていない。それが新た事業の成長のために重要だと思います。
【ミラー】会社を興し、そしてそれを存続させるのはなかなか難しい時代だとも言えると思いますが、これも変わっていくと思います。これを変えるに当たって、色々なプレッシャーもありましょうし、色々なことをやっていかなくてはなりません。かなりプレッシャーはある。そして変わっていくということは言えると思います。一つ私の気に入っていること、特に日本の場合、変わって頂きたいと思うのは、株式、特に創設者が事業を興す際に、もう少し有利な施策があってしかるべきではないかと思います。創設者にとって、初期の段階に会社に参加した人たちにとって、もう少しそれらの努力に報うような制度があってしかるべきだと思います。米国では汗をかいた汗かき代として、こういった創設者の人たちにとって有利な施策があります。証券取引法改正との絡みがあるのかもしれませんが、そういったものが出てくるといいと思います。ヘラーさんと違うのは、そういった変化が出てくると思うところです。
【オキモト】やっと2対1なので、ここでヘラーさんの肩を持たせて頂きたいと思います。グレン・フクシマさんやその他の方々が言われたこととして、歴史的に日本が外的な危機に対応してきた、また適応してきたということをここ100年、150年のことを振り返って言ったと思います。その一つが石油危機。インターネットの機能的な前提条件として何が必要なのかと問うと、結局、制度、慣行、例えば終身雇用制といったところに根があるわけです。併せて社会的な価値、安定性、継続性、ハーモニー(和)と、また平等といったものに相反するものです。インターネットモデルに関して何と言おうと、それを安定性、平等性、和をスピンアウトするといった形では説明し得ないと思います。これから変化が必要だと言われていますが、それが簡単なのか、そして短時間にでき得るのか。公的政策で、例えば政府が法律を改定しなくてはいけないと言ったと思います。そういったものは変わっていくと思いますが、もっと制度的なもの、例えば終身雇用制といった制度、あるいは平等といった考え方はあまり変わらないし、変わるとしても少なくとも短時間には変わらないのではないかと思います。
質疑応答
【質問】インターネットマーケティングの革新について、私の経験からみると、賛否両論あると思います。この会議では、インターネットマーケティングのよい面、賛成の方ばかり言われて反対の方が言われなかったようです。反対の方について話し頂けますでしょうか。
【ハンソン】既存のマーケティング構造のほとんどが、お客にどうリーチするかということを中心につくられています。例えば広範なお客に到達したいのであればインターネットマーケットということになりましょう。ビジネス・トゥー・ビジネスで直接お客に行っているところというのは12%ぐらいで、88%は間接的なディストリビューションを通じているわけです。Eコマースは、考える以上にやりやすい、達成しやすい面があると思います。ということは、それほど競争上の優位性にはならない。競争会社も簡単にコピーできるわけです。個人を個人として対応できる、個人的にそれぞれに対応できるというのは強いところですが、弱みもあります。コンパックやヒューレッドパッカードは大きな会社ですが、1台のコンピューターをコスト効果がある形では出せないということになると、向かないかもわかりません。インターネットコマースで、一つの単位のものを、コスト効果を持って出すことができるかどうか。個々人のお客様一人ひとりに対応できるのは長所ではあるのですが、その裏もあるわけです。
この力をどのように自分たちのマーケティングに活用できるか考えると、例えばコンピューターはどうしても機械です。丁寧に直観的に聞かれたことの裏も理解してとまで教えるのは難しいわけです。コンピューターはぶっきらぼうで、お客様に失礼な対応をしてしまうかもしれないという欠点があるかもわかりません。人間の代わりに機械を使う場合にはその点も配慮する必要があると思います。
【質問】皆さんの前提が、インターネットとかITとか、米国はすごく進んでいるという話で、確かにそうだと思うのですが、製造業でも、日本が80年代にアメリカを追い越したという一時期ありました。インターネットとかITに関しても、10年後には、歴史的にも総合的にも日本がアメリカを追い越す可能性はあるのかないのか、お聞きしたい。
【ヘラー】それはもちろん可能だと思います。10年前、例えばスタンフォードの日本センターを京都に設立したのは、日本に来て学ぶべきだと思ったからです。日本に来て、物のやり方を学ぶべきだと思ったわけです。まだ学ばなければならないことはありますけれども、10年というのは長い期間ですから、今後10年の間に色々なことが可能です。オキモトさんが先ほど言ったように、ある制度的な変革が必要だということです。日本が本当に持っている偉大な技術的な能力を全面的に使って追いつこうとするためには、制度的な変革が必要です。この制度的な変革が難しいかもしれない。不可能ではありませんけれども、難しいし、時間がかかるかもしれないということです。
私が日本との間を往来し始めたのはほんの15年前ですので専門家とは言えませんが、日本に対して私がいつも感を新たにするのは、日本が非常に早くこれだけ変わり得たのも、ある意味では全く変わらないものもあるからだと思います。すなわち日本は、1世紀を振り返ってみても、西欧でみられたような形で社会を抜本から変える、破る、破断するのではなく、徐々に変えてきた。日本社会の中で多くの側面は非常に深く根を張っているものがあります。あまり変わらないということを通じて、大きく変わってきたという変貌の仕方ですから、今インターネットやITで求められている広範な変化を遂げるのは難しいかもしれないということがあります。
日本から多くの留学生、特に女子留学生で、スタンフォードの私のところで勉強している学生がたくさんいます。こういった学生がその能力を生かす機会を、制度的にも、技術的にも与えられれば、日本で不可能なことはないと思います。
【オキモト】パネリストにもう一つ質問したい。単一の支配的な勝利すべきグローバルなマネジメントがあるかということです。これまで敏捷性だとか、適応力、リスクをとるといったことなどについて話してきました。こういったことは言うまでもなく、新しい競争が激しいスピードが速いマーケットで重要なクオリティーですが、しかし敏捷性、適応性といったクオリティーを達成するには異なった組織の形態が必要なのではないかと思います。
特定の部門、例えば自動車製造部門などをみますと、トヨタがより敏捷、より適応力に富み、その進化の過程でこういったことを達成しなければかえって驚きます。経営システムそのものを、ビジネスのアプローチ、企業組織、企業と文化全体に対するアプローチを変えなければならないのが必然ではないでしょうか。金融部門、あるいはサービス部門では、もしかすると組織のあり方を異なったモードにしなければならないのではないでしょうか。そのモードは一つだけとは限らないと思います。組織のあり方のモードで、これが企業組織、企業戦略のあり方でグローバルに勝つ唯一のモードだというのはないと思いますが。
【ハンソン】かなり包括的な質問ですがけれども、答えてみたいと思います。発言の行間をうかがうと「一つのソリューションはない」ということになります。マーケティングで考えてみると、インターネットの主要なインパクト、Eコマースの主要なインパクトは、伝統的なリテールをよりエンターテイニングで、消費者が楽しめるものにしようとすることにあると思います。消費者たちがどうしても買いたくなるような製品群をつくる、非常にパーソナルタッチの商品をつくるということです。ビジネス対ビジネスのかかわりは効率によって影響を受けますが、ビジネスと消費者の会話は効率性もそうですが、文化やエンターテイメントの要素及びその他の要素によって影響を受けます。消費者は自分たちの欲しいものを自由に選ぶと思います。
【ミラー】私も異なるモードがあると思います。人々がモデルということをガバナンスについて話すと、私はちょっと萎縮してしまうのですが、モデルはないと思います。例えばシリコンバレーモデルと人が言っても、そんなモデルはないと思います。やらなければいけないのは、何しろ物事を実現させることです。企業の中でも、2つの似たような会社でも、異なったガバナンスをとっているでしょう。それぞれ違うと思います。もちろん根本的なところで類似点は出てくると思います。例えばコンシューマーパワーに移行していくこと、これは同じような状況になっていくでしょう。しかしそれは色々なシステムによって行われると思います。インターミーディエーションも生じて、それには色々なシステムが出てくると思います。異なったガバナンスのモードにおいて、世界的において、共通性というのは根源的なところであると思いますけれども、違いは非常に大きいと思います。
【質問】全世界の経済で、成長の限界という話が昔あったと思います。資源にリミットがある。一方で人口はどんどん増えている。そうすると配分をどういうふうにするかがこれから問題になると思います。これまで話を聞いていると、情報技術の恩恵を受けるところでは競争が発展し、配分も均等化できるかもしれないのですが、情報技術の恩恵を受けない地域が出てくるのではないでしょうか。その場合、配分の問題についてはどういう答が用意されるのか、もし意見があれば教えて頂きたい。
【ヘラー】難しい質問です。私は自分の時間の80%は気候変動の研究をやっていて、公平性という問題を追求しています。影響の有限性という観点で、今質問した方が言ったような観点から、公平性を研究しています。有限性の問題の解決は、今私たちが話しているようなことで問題の解決が容易になります。例えば新たなエネルギーシステム、汚染の少ないエネルギーは、権力が分散化した状況の中で問題が解決しやすくなると思います。例えば中国ではこういった技術をより急速に導入することによって事態を改善することができます。この25年、30年しばしば討論されてきたことは、情報技術は途上国がその進歩を色々な段階を飛ばすことを可能にすると言っておりました。先進工業国が一歩一歩やってきたこと、社会的にも、環境的にもかなり破壊的なステップを踏まなければならなかったが、途上国がこれをスキップできる。私の研究でも、インドの村落が非常に大々的に情報技術やコンピューターで変容していくのを目の当たりにしました。このプロセスは前進せざるを得ないという不可避性はありますが、私たちが色々なギャップに十分注意を払わなければ、事態の悪化は防げないと思います。そうなると21世紀は困難な状況が続くでしょう。注意を十分払わなければ、情報技術だけでは事態を直す万能薬、あるいは社会的、環境的な正義という観点から言えば十分な答えは見出せないと思います。
【質問】インターネットのインパクトは、サービス産業は強いと思うのですが、製造業の場合は少し違うように思えます。サービス産業におけるインパクトと、製造業におけるインパクトの差がかなりあると思うのですが。
【ミラー】確かにインターネットは異なるインパクトをそれぞれの産業にもたらすと思います。産業によってはその影響がずっと後になって出てくるところもあるでしょう。製造した製品はいずれ流通しなければなりません。流通チャンネルを考えると、コミュニケーションチャンネルもそうですが、両方を考えていかなければなりません。インターネットは多くの製品にとって新たな流通チャンネルになります。製品の周りにサービスが常にあることになります。これはウェルチさんも言ったことですが、製造からサービスにどう移行するかという問題があります。インターネットは非常に大きな機会を製造に与えてくれます。追加的なサービスを製品に加えていくことが可能になります。それによって企業の収益性が上がる可能性があると思います。
【オキモト】終わりに当たり、簡単に小林さんが言った点に言及したいと思います。いわゆる古典的なインターネットの構造等々といったこと、また行政の構造といったことを話した後、最終的には人間が問題なのだということを言いました。質の高い非常に有能な、適応力のある、エネルギッシュな、そして学習能力のある人間が、とどのつまりは重要なのだと言いました。最終的な分析をみますと、やはり人間が非常に大きな違いをもたらすと思います。システムが人々に対し、インセンティブと機会を与え、そうすることによって能力を十分発揮することができるようになれば、非常に大きな意味を持つことになると思います。これは今後数年見守っていく価値が非常に大きいことだと思います。