第1回日経フォーラム「世界経営者会議」対話・講演・討論の全文

テーマ: 「IMDセミナー― 社内組織が競争力強化のカギ ―」

スピーカー:ジャン-ピエール・レーマン 経営開発国際研究所(IMD)教授

日時:1999年10月8日(金)15:40-16:10

場所:東京・帝国ホテル 本館2階「孔雀東の間」

【レーマン】私はフランス人です。日本ではどうもフランス人のイメージというと、無礼だと思われているようです。そこで、私はそれを確認する、確かに無礼だというイメージを裏付けたいと思います。日本に対してしばしば無礼であることで、アンチジャパニーズ、反日と言われるかもしれませんが、それは反日ではなく、皆さんに対して無礼で失礼なのです。私どもフランス人は、同国民以外に対しては無礼です。フランスはカトリック国家です。大半のフランス人がローマカトリック教徒です。しかし実際は、フランスのカトリック教徒の8%のみが定期的に教会に行きます。92%は通常、教会に行かないといえます。私は、92%の一人です。ときたま教会に行ってミサに参加することもあります。出てきたとき、気分はとっても良好です。精神的に豊かになった、ということを言おうとしているのではなく、いい気分になるのは、教会のミサから出てくると、すごく若くなった気分になるのです。フランスのカトリック教徒で教会に定期的に行く8%では、どちらかというと70−80歳の高齢者が多いのです。私自身がまた青年になった気分で、意気揚々教会からと出てくるわけです。何でも相対的な問題です。私自身は1945年生まれです。見かけは若干、年寄りにみえるかもしれません。しかし、気持ちは若く、21世紀のことを語ってきました。

 これから失礼なことを言います。この会議で、日本の産業界からのスピーカーの方々はすべて60歳以上でした。それぞれ素晴らしい業績を挙げてきた方々ばかりです。60歳以上にしては、きわめて皆さん健康です。多くの方々に対し心から尊敬の念を持っています。これらの方々に対して批判していると決して思わないで下さい。言いたいことは、これが日本の今の環境そのものを反映しているのではないか。21世紀を話しているにもかかわらず、これらリーダーの方々の中で、真の意味で21世紀を担う40代の方々がいなかったということです。これはデリケートなことですが、あえて提起しておきます。私が日本の問題とか、年齢の問題とか、を言うと、日本の皆様は、それは日本の文化だ、カルチャーだと言います。確かに江戸、幕末の頃をみても、大名は歳をとっていても国を仕切り、若い侍が仕切っていたわけではありません。そういうことをやってきて、日本は偉大な成果を挙げてきたのも事実です。日本のこれから先、21世紀におけるチャレンジは一体何かと言った場合、2つあるのではないかと思います。一つは、活性化だと思います。もっとダイナミックな動きが、活力が必要です。少なくとも若い人たちにもっとリーダーシップを発揮するチャンスを与えるべきだと思います。ウェルチ会長が素晴らしいスピーカーでしたが、会長は2000年に、約20年、GEのトップとして君臨した後に、退職するわけです。しかし、大半の日本の社長が就任する歳に、退職するわけです。ここに一つ大事な教訓があるという気がします。

 もう一つは、日本の将来にとって、特にグローバル化において不可欠なことがあります。それはグローバル化そのものです。また、ズバリ言わせてもらいます。日本の皆様は、これこれしかじかだからグローバルだ、例えば外国に工場を設けたからグローバルだと言いますが、それがグローバルなわけではありません。日本人にとって、グローバル化は分子であって分母ではない。どうも国内のグローバル化を考えていないという意見が、私以外からも出ています。日産とルノーが協力することは大いに歓迎されるべきことだと思います。そして、ゴーン氏は非常にショービニスティックなフランス人です。この一例をみても、少なくともフランスの方が一歩グローバル化に関して先んじているのではないかと自負しております。1989年以降、私どもはこの10年間にわたって革命的な新たな環境に遭遇するようになりました。この革命的な新しい環境は2つの力によります。一つは、いわばグローバル環境そのものが変わったということ。もう一つは、指数関数的にITが進んだということによります。

 89年以前と比べると、10億人だったのが、60億人ぐらいグローバル市場に参加するようになりました。グローバルの真の意味で、革命的な動きがみられました。例えば、欧米諸国の動きもそうですし、同時に、指数関数的な形で地理的な国境もグローバル化するようになったのです。資本市場の発展についてもそうです。ウェルチ会長が言ったように、こんなことを予測した人は一人もいないし、だれも予測し得なかったということです。ウェルチさんが言ったのは、将来を予測することはできない、大事なことはそれに敏感に反応することです。私は80年代後半に日本で暮らし、その後ずっと、日本に来たり、フランスに帰ったりしていますが、80年代の後半の日本は極めて成功していました。国際的な環境が厳しかったにもかかわらず、技術的な環境が厳しかったにもかかわらず、成功したのです。グローバル化の最初の10年はどうだったか。グローバル化の次の10年はどうだったかということです。ここで指摘したいのは、グローバル化は結局、グローバルのカルチャーを理解することです。色々な文化の人たちを理解し、そしてその人たちと協力することです。もう一つのポイントは、次の10年に大幅に合理化が進み、国だろうと、会社だろうと、勝者と敗者がはっきり分かれるようなことが出てくると思います。

 それでは、革命的なこととしてどんなことがあるでしょうか。その一つとして、グローバル化の結果、競争上のパラダイムが生まれるわけです。一部企業がグローバル・マーケットにおいて競合する。特に投資をねらってです。国も、投資のシェアのために競争していくわけです。IMDで競争力の年次報告書を作成している人も言っていることですが、現在、競争力のある国はアグレッシブだったのではなく、魅力的な国が競争力を持つようになったわけです。どうしたら資金や頭脳、才能を誘致できるでしょうか。最近、英国である会合に出席したのですが、そこで事業を起こすことについて、小林陽太郎さんが言ったのと同じような話がでました。優秀な多くの人たちが日本から離れ、アイルランドだろうとカリフォルニア州だろうと、出かけていって事業を起こすようになってきたのです。これは全体の一つの要素であり、どうしたならもっと魅力的な国になれるのでしょうか。そうすれば、数多くの外国人が来て投資するのみならず、併せて自分たちの資金が国外に流出しないように、優秀な頭脳が流出しないようにしていくことができます。

 歴史、世の中の見方はいろいろあると思います。学者の仕事は、例え物事が変わっていなくても、新しい見方を生み出すことです。幸いにも変化はありました。世の中が進化し、どういった付加価値があったのでしょうか。重さで言えば、トンの時代があったわけです。単位当たりで随分たくさんの原材料を使ったが、コストは相対的に低かった。その次にキロの時代、ここで競争力がさらにアップするわけです。日本イコール日本の企業と考えて頂いてもいいわけですが、トン、キログラム時代には日本は成功してきました。規律とか、勤勉とか、そういったものがここではカギです。しかし、新しい真空の時代に突入したとき、創造性、そしてヒエラルキーの欠如が必要となってきたのです。ここが大事です。ウェルチ氏の一番偉大な遺産というのは、GEが対外的なの3つのショックに対応できるようにしたことです。それは、グローバル化と、サービスへの移行と、インターネットだと言っています。日本の企業はこの10年の間には、この3つの大きな対外ショックに成功裏に対応できなかったことが問題だったと言えます。グローバル化、製造からサービスへの移行、インターネットです。同じようなことを言っているわけですが、トンからキログラム、さらに真空の時代に移るにあたって、競争のカギは何か。米国でのビリオネア(十億万長者)の数が、それぞれの時代に人口当たりどのくらいだったかというと、82年から96年の間に劇的に伸びています。しかし、100万人の労働者当たりの比率でみると、大して変わっていません。それぞれの時代で、例えば石油産業とか、畜産業だったのが、今やインターネット、そして先端産業から出てきているということです。

 これだけ急速な変化があったわけですが、そこから言えることは、時間の軸を1982年から2000年まで取って、変化を縦にとると、1989年に突然情報技術等々の発展があり、また市場の爆発が見られて、そして発展も指数関数的に急速に伸びていったわけです。制度とかメンタリティーが追いつかないほどに伸びました。そして、対外的な経済発展の速さ、技術発展の速さと、それから制度的に適応するプロセス、文化的な適応、人との順応性との間にずれが出て、そのギャップがどんどん広がってきました。社会の適応不能ということもここから出てきたのでしょう。こういったギャップが今あるわけですが、日本の会社を、内部ではなくて外を見て、自分たちのカルチャーをどう外に合わせるかではなくて、外はどうなっているのか。それにどう対応したらいいのかになるわけです。日本の企業にとってのジレンマとして、この10年間、すなわち1990年代は日本にとって失われた10年ということになるでしょう。国家経済にとっても、多くの企業にとっても、すなわち方向性を失ってしまった10年と言わなければならないかもしれません。どこに責任があるかという、十分に速く情報の列車に乗ることができなかったことがまずあると思います。

 グローバル化と日本でよく言われていますが、これも本当には把握することができ切れなかったということがあると思います。企業のリストラ、カルチャーの変化、若返りに失敗したということもあると思います。80年代に日本の状況がうまくいかなかったのならば、90年代にはもっと早く順応したでしょうが、80年代は素晴らしく進んでいるようにみえた。それをちょっと変えればいいつもりでいたのが、急変してしまったわけです。サービス、知識、経済に十分に移行できなかった。それからコスト面での歪曲ということで、競争力を失うことになりました。対内投資、対外投資の比率をみると、色々な理由があって、日本向けての対内直接投資を受け入れることが十分にできませんでした。1980年代、日本に外国企業が参入できなかったのは外国企業側の問題ですが、90年代も日本に入ってきた対内投資は非常に少なく、小規模なものです。対GDP比率でみても、非常に少ないものです。日本国内に、グローバルなプレゼンスがない。外国のプレゼンスがない。ということが日本を外に向かってグローバル化させることを一層難しくしています。そういった相互関係があると思います。

 日本が必要とする問題は何か。まず、革命的な開国が必要だと思います。外から内に向けての開国が必要だと思うのです。常に内から外を見るだけではないということです。外国の多くの企業が日本への進出に成功をおさめることのみならず、21世紀に向けて一丸となった推進力となることが重要です。外国から日本への対内直接投資を大幅に増加させることによって、他の先進国にキャッチアップすることが重要です。外国の企業による日本企業の買収はいいことです。企業にとっても経済にとってもいいことです。今までのところ、日本で買収された企業のほとんどは、救済措置の一環として買収された面が強かったわけです。もっとビジネスの実践的な観点からの買収が活発に行われることが重要です。トップマネジメントも部外の人に対して胸襟を開き、外からグローバルなタレントを採用してくる、活用することが重要です。企業を管理、マネージするのではなく、リードすることが要求されているわけですから、社内の企業家精神を育成すると同じように、例えば私たちの指導者は日本人男性でなければならない、社内の生え抜きでなければならない、と対象を限ってしまってはいけないのです。それではアプリオリに、豊かなグローバルなタレントを利用する可能性を閉ざしてしまうことになるわけです。グローバルに競争しようと思うのであれば、全世界的に最善の人材を採用できるのでなければならないと思います。日本企業に働きたくないとの気持があるのは、昇進の機会がない、十分な機会が与えられないということです。動機付けが重要だと言いますが、今のような現状では、動機付けにならないわけです。日本の企業の中で、常に二流市民扱いしているのであれば、本当の動機付けにはなりません。

 私は教鞭をとっているので、教育の必要性も強調せざるを得ないわけですが、企業の中における教育だけでなく、大学教育も重要です。日本の大学はフランスの大学以上に悪いぐらいで、対外とのネットワーク、対外に対する視野という意味で、適切な教育が行われていません。外国人の教授が招聘されたとしても、外国人でしかないということで、本当には統合されないわけです。私、主要な欧州のビジネススクール、例えばフランスにあるインシアードなどでも仕事をしてきました。IMDとインシアードは競争し合っていますが、カナダ人のジョージ・ベーンという前学長を任命したときに、インシアードはIMDと競争し合わなければならないので、どうしても国内の人を採用するのであれば、この人に代わるよい外国人を採用することはできないと証明しなければいけませんでした。そのくらいに外の才能を取り入れようとしているわけで、日本のようにいつまでも外国人視されることは決してありません。これは日本の環境を変貌させるのに、常に重要なことです。

 フランス人は常にフランス語中心ですが、グローバルな言語ということでは、英語にやっぱりかなわない、英語がグローバルな言語であることは認めざるを得ないことを実感するに至っているわけです。21世紀を論じるのであれば、世界で最も成功をおさめた経営学部のプログラムの中でも、日本人を受け入れるのが非常に難しいという障害があります。言葉の問題です。英語が十分に使えなければ、本当に話のやりとり、意見のやりとりもできないわけです。トップレベルでもアジアの中で北朝鮮に次いで日本が一番悪い成績だと言われるぐらいに、どうも一般的な英語力に問題があるようです。

 ジャック・ウェルチ氏は4つのEと言うことを話しました。あすの日本企業を考えた場合に、4つのC、まずカルチャーの中でどういったものが必要なのか。同じ制度の中で外国人と同僚意識を持ち、同僚としてやっていくことができるか。違った背景を持った人が色々な視野を会社に持ち込み、お互いに豊かにしながら、クロスファーティライゼーションすることが重要です。コスモポリタンということが重要です。クリエイティビティー、創造力が重要です。あえて歯に衣を着せず、ぶしつけに申し上げると言いましたが、そのとおりの話だったかと思います。


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