第1回日経フォーラム「世界経営者会議」対話・講演・討論の全文

テーマ: 「国境を超えて通用する経営スタイルとは」

スピーカー(文中敬称略):ジョン・F・ウェルチ Jr . 氏 ゼネラル・エレクトリック(GE)会長

モデレーター:関口和一 日本経済新聞編集局産業部編集委員

日時:1999年10月7日(木)9:15-10:15

場所:東京・帝国ホテル 本館3階「富士の間」

【関口】ウェルチさんは81年にゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOになられて以後18年間、GEを世界で最も尊敬される企業、高収益な企業に成長させてこられた。当初の売上高は250億ドルだったが、現在では1,000億ドルとおよそ4倍の規模に成功させてきた。一時は大変大胆な経済改革、機構改革を行うことから「ニュートロン(中性子)ジャック」と言われたが、最近では電子商取引、インターネットなど新しい分野に積極的に取り組んでおられて、最近の『フォーチュン』誌によれば、「E(エレクトロン)ジャック」とも呼ばれている。

 この日経フォーラム「世界経営者会議」は、21世紀ベストの指導者になりたいビジネスマンの方々にご出席をいただいている。ジャック・ウェルチ氏、そしてGEは日本にとっても優れたモデルだと見なされており、生の声を聴きたいという声に応えてこの会議を開催した。GEの総売上高は1,000億ドルで、純益は100億ドルを超え、また急速に伸び続けているのが現状である。そこで最初に、GEの経営哲学はどういうものか、GEはなぜこれだけ成功を収めたのか、ご説明いただきたい。

【ウェルチ】冒頭のご説明が、我々がやらんとすることを端的に言い尽くしていると思うが、いかにも英知に満ちたような言葉を申し上げる前に、18年間この職に就いてきた私自身、ありとあらゆる間違いを犯してきたことをお断りしておきたい。稲盛名誉会長のお顔を拝見すると、セラミックスビジネスで真向から競争をしたときに我々は小さなハエのように追い払われてしまったことを思い出さざるを得ない。だから、私のコメントは、長い歴史を通じて多くのことをやろうとしたところからの謙虚の念を持って述べたいと思う。

 我が社の歴史については単純明快なものと言える。すなわち一人ひとりの社員が重要性を持つという考え方である。どの人の頭脳も無駄にしてはならない。必死ですべての人が関与するように努力する。肩に何本の線を抱えた地位の人であるのか、会社の中の地位が何であるかは関係ない。ベストのアイデアというのは毎日の仕事の中から生まれてくるわけで、これが我々のビジネスのとらえ方のカギになる部分である。

 第二、我々は学び続ける組織になりたいと考えている。企業の究極的な競争における成功は、その企業が学ぶ能力を持ち学んだものを実践に置き換えていくこと、すなわち、企業のほかの部分にも伝えて迅速な行動を取り得る能力だと確信している。この会議にご出席のどこの企業を見ても、世界でトヨタより良いものをつくる会社はないのだとすれば、我々はそこから学びたいと思う。ヒューレット・パッカードは製品導入サイクルで素晴らしいものを持っている。我々はそこに行って学ぼうとした。またモトローラはシックスシグマの運動を始めた。そこでシックスシグマの工場に行って学び、我々もそれを広げてきた。

 全世界を通じてGEの社員は毎日目を覚ましたときにより良いやり方を探そうという意欲で一日を始める。こういった基本的な構造と最善の人を採用し続けること、その人々に適切な動機づけを与え、適切な報酬を与え、報いていくことが我々のビジネスモデルである。

【関口】80年代において、日本の経営者、経営方式はよきモデルとして米国で受け止められていた。しかしいまや日本の企業もいろいろな問題を抱えるようになっている。その問題はどういった問題であると受け止められ、どうしたら日本人に解決できると思われるか。

【ウェルチ】こういったことは振り子のように来たりなくなったりする。80年代、米国はいわば死んでいたといった見解があって、日本が世界をビジネス面で制覇したと言われていた。しかしいまや米国人が問題を解決すると言っている。日本の経済、日本のビジネスのプロセスはいまや循環的な変革期を迎えているのだと思う。しかしいまなお教育水準の高い労働力を許し、素晴らしいリーダーが数多くの企業におられる。

 日本にとって若干痛手だったかもしれないのは、急速に変化する能力である。ますますグローバル化した世界において、まして短期間において変化することは日本の企業にとって必ずしも簡単なことではないかもしれなかった。しかし、これは単に一瞬のものであると自信を持って言える。日本はその強じん性をもって変化に対応していくことができると思う。日本の歴史のある文化ゆえに、変化のスピードに若干ミスマッチが生じたが、そういったものも均されていく。そして来世紀早々にそういったものは解決され得ると思う。

【関口】文化的なことに触れられたが、特に我々が直面している問題は雇用の問題である。企業が急速に変革したいと思っても、日本のビジネスのリーダーは人減らしが簡単にできないということがある。ウェルチ会長の場合は17万人をリストラの最初の3年間で減らしたが、日本のビジネスマンがウェルチ会長から学び得るとしたらどういうことがあるか。またそれをどうやって実践に移したらいいのだろうか。

【ウェルチ】人減らしということに関して、どうもかなりの誤解があるような気がする。我々は雇用人数としては10万人以上減らしたが、半導体の企業はほかの会社に売却したし、家電製品の会社も空調機器ビジネス、テレビ製造ビジネス、豪州最大の石炭会社もほかに売却した。だからリストラをして雇用が少し失われた面もあっただろうが、ビジネスを売るという形を取ってきたのである。すなわち我々が持っていても次の10年、20年先に競争できないと思うビジネスに関しては売却をした。弱いビジネスにもしがみつくことはしなかった。ですから日経新聞や読者の方々もリストラとは何かを考えていただきたい。弱いビジネスを見極め、それをほかの会社の強いビジネスに併せて、そこで繁栄できるように処理をしていくことである。

 経営者にとっての最悪最大の罪は、あるいは、あえて言えばほかのところよりも日本でいちばん大きな大きな罪として見られるのは、ナンバー4〜6ぐらいの地位のビジネスでもそれを持ち続け、しがみついていくことである。いわゆる善良な、そして社員にとって親切なマネジメントという傘の下に置き続けようとすることである。それは最も残酷な経営の方式だと思う。皆さんそれぞれが弱い、疲れた、病気になっている子会社で、実績もよく上げていないところに雇われ続けることは残酷なことであるし、それは経営力の乱用であると思う。この地球に生まれて75歳の寿命を持つとすれば、そして40年間を会社の中で働き続けるとすれば、その人を毎日絶望的な状況の会社に送り続ける、すなわち日本の終身雇用の傘の下にそういったところで働き続けさせることは残酷である。そこから外して、より強力な会社と合併させれば、毎日目を輝かせ、ほほえみをもって仕事の場に行くことができるだろう。業績の悪い子会社に足を引きずりながら毎日行って、第4位、第5位、第6位の地位に甘んじる必要はない。皆さんの会社の中のすべてのビジネスを精査していただきたいと思う。敗者を引きずり続けるのではなく、敗者を勝者と合併させて、より大きな力を持たせるようにすべきであり、それこそが親切な経営者と言えると思うし、それこそが良き経営と言えると思う。誤った親切さで窓際に人を座らせたり、エレベーターの運転の仕事に就かせたりというのではなく、もっと実質的な仕事を勝利を収めるような環境でできるようにしてあげるべきだと思う。

【関口】言われることは分かるが、私が例えばGEのある社員で、業績が良くない部門で仕事をしたとしたも、生涯GEで仕事をしていたいし、それを楽しんでいるといった場合、どうすればいいのか。

【ウェルチ】GEの場合だと、もし航空・宇宙分野の優秀な人で、航空・宇宙産業が好きであるということならば、そしてそれに対してエキサイティングであると思って仕事をするならばロッキードと合併させたほうがもっとエキサイティングな毎日になると思う。あるいはヒューズと合併した方がもっとエキサイティングだと思う。そのほうがビジネスそのものがより大きくなり、毎日生き生きと仕事に行くのではないだろうか。

 GEは一連のビジネスが一体化した会社である。一連の人間が集っている会社である。環境としてそういったことをした方がはるかにましである。ひどい環境の中でGEで働いているというよりましだと思う。例えば私がある会社で働く。しかし40年もひどい環境で仕事をしたくはないと思う。良いビジネスで仕事をしたい。だからこそビジネスで仕事をしているのである。だからこそGEにおいてもどんな人間にもそんな気持ちを抱いてほしい。偉大なるビジネス、グローバル市場において勝者になりたい。エキサイティングな仕事で、また社員に対して報酬を与えて、社員が繁栄するようなところで働いてほしい。頭を下げ、笑みの一つもなく、希望一つない環境で働くことはクレージーではないか。それは文化でも親切でもない。残酷さそのものである。

【関口】あなたがGEのCEOになられたとき、すでにどのセクションが勝っていてどのセクションが負けているかは分かっていた。だから選択ができたわけだが、いまや我々は新しい経済、インターネットのような新しい次代に入ってきているので、どのビジネスが将来勝つか分からない。そういう場合にはどう選択するのか。

【ウェルチ】80年代後半に欧州の会社のCEOと会って話をしたことを思い出す。これはオランダの会社で、一見GEのような会社である。そこでワインを飲みつつ食事をして話をした。彼は自分の世界観を話してくれたし、私は私の世界の見方について話した。帰りの車の中で私は、「我々二人のどちらかが今後3年の間にクビを切られるだろう」と言った。すなわち彼の世界観が正しいか、私の世界観が正しいか。両方が真向から違うのだから、どちらかが職を失うだろう。幸運にも私のほうはまだ職についている。

 要するに我々は最終的にはこういった賭けをしなければならない。例えば半導体ビジネスはある人にとっては偉大なビジネスかもしれないが、我々は脱出した。なぜやめたかと言えば、循環の波が非常に大きいことと、資本投下が非常に大きく、GEの資本はもっとほかのところでうまく運用できると思ったからである。つまりGEのR&Dを、発電装置とか航空機用エンジンのようなキーの分野に振り向けることができると思った。日本、欧州の伝統的な競争会社は何十億ドルという資金を半導体に投入して、ほかの既存のビジネスのほうには投資しなかった。そのため我々はかなり水をあけることができた。年によってはほかの会社の業績は素晴らしいものだった。半導体が上向きになると素晴らしい業績を上げたが、半導体が落ち込むとほかの企業よりも急速に落ち込んでしまった。半導体は非常に多くの設備投資を必要とし続けた。

 ということは、この大きな決定が正しかったのかもしれないし間違いだったのかもしれない。これが正しいという答えがあるわけではないが、我々が選んだことは我々にとっては正しかった。20年を振り返ると、これが正しかったと言えるわけであり、また21世紀に進むにあたって、我々のビジネスの中でどのビジネスから撤退しようと思っているのか、どのビジネスを追加しようと思うかと、我々は毎日ビジョンを描いている。

 いままでの90日の間に64の企業買収を行った。ここに参入したいと思うところに1日1件のペースである。昨年は108件の買収を行った。1週間に2件です。それだけやりたいところは分かっているけれども、処分するところもある。10年後、私の後継者がここに座ったときに時間の経過で成否が分かってくると思う。

【関口】どのマーケットにおいてもすでにナンバー1、ナンバー2になっていることは、逆に3位、4位に転じる可能性もあると思う。その場合はどうするのか。

【ウェルチ】ナンバーワン、ナンバーツーになる方策を見出すか、撤退するかのいずれかである。私どもの組織を希望のない環境下で事業展開するつもりはさらさらない。例えばナンバー1がクシャミをすると、ナンバー4の会社が肺炎になってしまう。いちばん小規模の企業に対するインパクトはとてつもないほど大きい。

【関口】質問の仕方を変える。例えばサービスを提供し、すでに全体の売上高の中で60%がサービス部門から上げられており、2000年にはその比率を75%に上げるとも言われている。GEはゼネラル・エレクトリック・カンパニーとして展開してきたわけで、そのイメージがGEとしてあると思うが、会社コンセプトや使命は何なのか。製造会社なのか、金融会社なのか。

【ウェルチ】二者択一という質問の仕方は若干まずいと思う。偉大なるサービス会社にどのようにしてなるのかと言えば、偉大なる技術があって初めてなり得るのである。例えば航空エンジンでGEは11万5,000ポンドのGE90を製造し、これがボーイング777といった新しい飛行機の、最も早い推進力を持つエンジンになっている。発電部門では、Hタービンなるものがあり、最高温、排気量がいちばん低く、効率がいちばん高いものが導入されたばかりである。ライトスピードというCTスキャナーがあるが、これはほかのものよりも2年先である。なぜできたのかというと、研究開発に大金を投じたからこそ、そこまで行けるのである。しかし、技術にそこまで投じたならば、その技術をほかのほうにも移行させ利用することができる。サービス会社であれ、金融会社であれ、知的資本を要する会社であれ、製造会社であれ、それをするにあたって偉大なる技術なくしてはできない。そうでない限り、例えばドライバーを回すとか、缶詰をつくる会社になってしまう。

 テクノロジーにおいてソリューションを見出さない限り、サービス会社にはなり得ない。単に白い服を着てドライバーでネジを回していればいいということでない。サービス会社になるにあたっては技術の裏付けがなければならない。なぜサービスが早く広がるのかと言えば、サービスは皆さんのイマジネーションの幅ほど広がり得るからである。あらゆる機会をつかみ得る。ジェットエンジンをつくる際、例えば204を翼につけ、オーバーホールをする。そして飛行機をリースする。というのは航空会社との契約会社があるからである。またパイロットの訓練もするようになった。こういったことをすることによってサービスのホライゾンが広がったと思う。偉大なる製品をもってそこに行くのである。そして皆さん方のイマジネーションをもってサービスの幅がどんどん広がる。偉大なる製品なくしてはどこにも行けない。

【関口】確かに研究開発に大幅に資金を投入したとしても、GEなりの新しい発明あるいは革新的な技術はここ20年間聞かれていない。トーマス・エジソンのような発明はなかったと思う。

【ウェルチ】過去20年間、偉大な発明とはどういうものがあったか。

【関口】例えばコンピューター、インターネット、あるいはインターネット関連のものだ。

【ウェルチ】我々はインターネットを全面的に利用しているし、実際にインターネット上で何十億ドルという売上高を上げている。インターネットはそれ自身がビジネスではなくて、ビジネスを可能にするイネーブラーである。コンピューターに参入することはやめた。また半導体からも手を引いた。しかしすべての技術を手にしているわけで、130億ドルの企業としている医療機器は10〜15%程度の市場占有率を上げているし、エンジンでは新規エンジンの60%のシェアを持っている。ここに技術を投入しているのである。ここ10〜15年間に新しい高分子の技術が出たというのではなく、いままでの高分子技術の組み合わせだった。従って、我々の研究はすでに最先端を行って、いろいろなものを組み合わせているし、先端をどんどん前に押し進めている。新しいものといった言い方をする場合、そういった新しいものが実際にあったのではなく、既存のものを拡大・拡張してきたのである。

【関口】GEはインターネットの世界ではそれほど大きなプレーヤーではないと思う。例えばマイクロソフトはいまや時価総額にしてGEを超えている。GEにはインターネット経済のリーダーというイメージはない。私が2年前にGEの情報サービスを訪問したとき、「GEは少し遅れている。私たちのボス自体が技術を理解していないのだ」と彼は言っていたのだが、それにどうお答えになるか。

【ウェルチ】疑いもなく、私はインターネットに参入する最初の人間であったわけではない、と言える。マイクロソフトの時価総額は、マイクロソフトが多大な成長率を遂げたことの反映であって、GEとは違う。GEの時価総額は年間25%、18年間にわたって成長し続け、いまや4,150億ドルになっている。ほかのどの企業と比べても遜色はない。

 マイクロソフトは確かに素晴らしい実績を上げているし、心から賞賛し脱帽する。素晴らしい仕事を素晴らしい分野で達成してきたと言えるかもしれないが、我々の比較の対象とは違うと思う。

【関口】きょうのテーマはどのようなリーダーシップがビジネス界において必要なのかということである。ビル・ゲイツ氏とあなたご自身を比較すると、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏はいわば新しいタイプのリーダーで、ウェルチ会長は本当に心から尊敬されている経営者である。二人をどういうふうに比較されるか。

【ウェルチ】彼の方がずっと金持ちで、たぶん、私よりずっと賢いと思う。また彼ほど業界に精通している人はいないと言っていいのではないか。ゲイツさんはパイオニアでもある。素晴らしい人物である。お金持ちにもなったし、彼の下の人もずいぶんお金持ちになった。偉大なるイノベーションをインターネットに導入した彼を賞賛するばかりである。

 確かに数多くのビジネスが私どもにはある。私の仕事はリーダーシップのある組織づくりをすることで、全く仕事が違う。彼の方が賢いし、お金持ちだ。ただ私のほうがゴルフはうまい。

【関口】最近、あなたも同僚にEメールで情報を出し始めたそうだが、こういった新しい技術があなたの経営スタイルにどのような影響を与えるか。

【ウェルチ】我々の経営スタイルすべてに影響を与えると思う。情報が全員に即座に入手可能になるので、全員が同じ事実ベースで会社の中で仕事ができる。従って、知識を握ることが力にはならなくなっている。自分の手元に知識を握り占めていたようなマネージャーが力を持つことにはならなくなった。つまり、すべての人がコーチであり、エネジャイザーであり、人々を励まし仕事をするようにさせていく力を得る。

 私はEメールは二つの目的に使う。一つは一般的な情報ツールとしてで、主要な会議のあとには40万人の社員に必ず情報を送る。会議でどういうことが話されたのか、一時間以内に全世界のすべての組織の全員がファクスを受け取る。また、こういった旅行中にもEメールを使う。ルーティンでいろいろな人とのコミュニケーションをする場合の手段である。いろいろなところに行くたびに情報を出して、時差に関係なく受け取り、発信ができる。

 最も重要なことはペンを取り出し、紙を出して、そこに書き、それをみんなにファクスで送る。しかしEメールは十分な感情移入ができない。つまりパッションがないと思う。私のペンに力がどれだけ入っているか、線がどれだけ強いかで、この問題に関して私がどれだけ強く感じているかを感じてもらえる。その意味ではファクスの方がEメールより強弱がつけやすい気がする。

【関口】経済情勢一般についてお話ししたい。グリーンスパン米連邦準備制度理事会議長が、米国経済は2年前に新しい局面に突入したと言っておられるが、それに同意されるか。また米国の現在の経済情勢をどのようにごらんになっているか。

【ウェルチ】いまどうなっているのかをどのように説明していいのか分からないが、結果を見てみよう。着実なる成長を見ていると同時に、失業率は低水準である。インフレもない。米国の消費者の自信はかなり強力だとも言える。

 従って現在、この時期において私どもとして相対的に低い金利水準を享受すると同時に、9年間にわたって成長期を経験してきた。あとどの程度続くのかは分からない。その中で情報は確かに大事である。しかしどの程度情報ゆえに成長するかは定量化できない。

 聴衆の皆さんにちょっと考えていただきたいことがある。私が仕事に就いたのは1980年12月のことだった。当時、私の名前を知る人はいなかったが、ここにいてジャーナリストに質問されていたとしよう。こういった質問をされたのではないかと思う。質問の第一は「米国の製造はもはや終わったので、日本が世界の製造部門のリーダーになり得るだうか」。第二は「インフレはいまや米国において17%である。2ケタのインフレは米国において永遠に続くのだろうか」。第三は「原油価格はいま1バーレル当たり35ドル。もし確保できたらこれが100ドルになると思う。原油は確保できるのか。価格はどうなるのか」というような質問である。

 そういったことを問う重要性は何だろうか。例えば、3年前に私がこの場に座っていたならば、雑誌社や新聞社の方の質問はどうだっただろうか。「アジアの危機に対してどのように対応するのか」という質問はなかったと思う。だれひとり、アジア危機が到来するなどとは思っていなかったので、そんな質問はなかった。何を言いたいのかと言えば、何を予測するかではなく、どう対応するのか。つまり組織としてどのように機敏に対応できるかで、どんなことが起きようと敏しょうに対応することがいちばん大事である。

 いろいろなものを予測しようとするが、どっちみちアジアの危機など予測できた人はいない。米国経済はこれからも過去9年のように右肩上がりが続くかどうか分からない。確かにいろいろな変化もあった。情報が大事になってきたことも分かる。GE一つとってもより良い会社になったことは分かっている。大事なのは、良い会社というのは瞬時に反応できることである。リーダーも同じである。これから先どうなるのかをとやかく心配するよりも、私どもはどうしたら対応できるかにポイントを置くべきだと思う。

【関口】ただ新しい経済においては、我々が新しい問題に直面することも考えられる。例えば知的所有権の侵害、プライバシーの問題。また投機的資金が全世界を駆け巡って経済に危害を加え、ある国の体制を阻害したり、製造業を傷つけることがあり得ると思う。こういった新経済で投機的な資金はどういうものだろうか。

【ウェルチ】投機資金が運用されるのも、経済における欠陥があってこそである。経済の不均衡を見出して、そこに投資をしようとする。健全な財政金融政策をとっているところには行かないだろう。投機的資金はいわば政府に対する規律の措置である。うまくやっていないところに対してそれを正そうとする咎(とが)だとも言えると思う。政府や地域、そして各国に対してより精査をするものだと思う。

 知的所有権の問題に関しては、我々が農場を離れて産業革命に突入したとき、何百万という新しいことに直面しなければならなかった。確かにプライバシーの問題には直面しなかったかもしれないが、ビジネス全体が一変せざるを得なかった。

 例えばいまの日本における流通産業は全面的に変わるだろう。流通におけるいろいろな非効率はなくなるはずである。日本でそれがなくなるのにどれだけの時間がかかるか分からないが、いずれにしろ流通の3段階を常に経ることは考えられない。ある製品を最終末端に届けるときにあるような3段階の非効率は当然なくなっていくだろう。ということは、職を失うなどいろいろな変化が出てくる。そういう意味では我々の生涯を通じていままでなかったほどの革命が進行中であるし、それに対応しなければならない。全く新しい形での対応が必要だし、まだ理解していないような手段も編み出す必要があるかもしれない。

【関口】政府の役割に対して言及されたが、政府に対して何を期待されるか。いま数多くの活動は政府の手の届かないところにある。例えばGEのソフトの製造ビジネスは30%をインドでやらせていると聞いているが。

【ウェルチ】私どもが政府に何を期待するのかというと、一連の法令・法規だけである。私どもとしては政府に一つの場において何をできるかという境界を設定してくれることを望む。規制を望むときはいつかというと、もし規制がない国で事業展開をしたいならば規制を望む。つまり知的財産権を擁護できないとき、あるいは破産法で自らのビジネスを擁護できないとき、市民的な活動をしても保護がない場合に法令・法規を望むのである。

 結局、政府に対して何を望むのかと言えば、一貫性のある強力な法体系である。私どもが理解できる法令、人間がさっと気分で変えてしまえないような法律である。だからこそ、この危機の最中において私どもは日本に大いに投資をした。日本にはきちんとした道徳観があり、法令が制定されているので基本的には健全な国であると同時に、次の世紀において成長するという自信があったからである。その進ちょくはすでに始まっている。

 ロシアには1ドルたりとも投資しなかった。ロシアに対する信頼感が全くなかったからで、そこでのルールに対して安心できなかったからである。だからこそ政府に対して大きな役割があることは明確である。公平、オープンな環境づくりをしてくれることである。

【関口】しかし民間部門あるいは民間企業の利益と国の利益の間には矛盾があるのではないか。

【ウェルチ】頭のいい指導者は「私の国に進出して国民を雇用し、国民の夢が達成できるように利益を上げてください。我々が税収を得られるようにしてください」と言うだろう。それだけ単純明快なことである。明晰な指導者はそういったことを理解しているし、そのことは実証されてきている。我が国に投資をしてくださいと言って、外国の直接投資の誘致を図ろうとする。そして国民を雇用してください、利益を上げてください、それで我が国政府に税を納めてください、その税金を使って若者の教育ができるようにしてください、と言うだろう。

 

質疑応答

【関口】会場からの質問にお答えいただきたい。まず日本のビジネスのトップに対して何が必要なのか。何が欠けているのか。いまの不況を脱却するにあたって、日本の企業に対して何か提案できることはあるか。

【ウェルチ】私は魔法の公式を有しているわけでもないし、日本に対してどのようにして物事をやれと言う気もない。しかし一つだけ自分の中にある感情がある。それは冒頭述べたように、私がどのように日本企業を相手にやろうとしているかということである。私は若い日本人に対して、ぜひGEに入社しなさいと言う。年功序列で順番を待つ必要もないし、私の年になって初めて要職に就くまで辛抱する必要もない。GEにはあらゆるところにチャンスがある。ストックオプションもあげるし、会社のオーナーシップにも参加させてあげる。もし30歳でビジネスを経営したいなら、うちならばできる。女性であってもいろいろなチャンスがある、と言うのである。私はそういった形で人を採用している。果たしてそれが役立つのかどうか分からないが、とりあえずはうまくいっている。非常に若いエキサイティングな、エネルギッシュな人間が入社してくれて、いろいろな仕事をしてくれている。

 いま当社の日本の社員は1万7,000人いる。そして彼らに対して、素晴らしいキャリアがあるので50歳になるまで待つ必要はないと言っている。それは日本にとっていいのかどうか分からないが、少なくとも私どもが成長するのには役立つ。

【関口】GEの高度成長は海外から出ている部分が多いと思う。その場合、現地の人々に対してGEの価値観なりGEの哲学をどのように理解させるのか。国によって文化、慣習も違うがどのように説得するのか。

【ウェルチ】我々が標榜するものは二つしかない。社員に声を与え、人間としての威信を与えることである。ばかげた仕事をさせることはしない。卑屈になるような仕事はさせない。昇進をするのに年を取るまで待つ必要もない。エキサイトメントを与える。どの国の人でも、例え米国人であっても、インド人であっても、中国人であっても、日本人であっても、自分の属する組織の中で発言権を持ちたい。そして人間としての威信と仕事に対する誇りを持ちたいと思っていると思う。これを我々は毎日売り込んでいる。私は別にお偉いさんではなくて、どの社員とも対等である。いろいろなアイデアや、最善のプラクティスは何かということをどこに行っても対等に話し合う。ということは、何か文化的なものがあってそれを置き換えようと思えば難しいかもしれないが、現地のそれぞれの文化を尊重しながら、働く人に発言権と威信を与えるのである。

【関口】GEはシックスシグマを導入し、完璧に実行したことで有名である。そのメリットと実施時の難しさをご説明いただきたい。

【ウェルチ】シックスシグマの利点は、当初の予想を超えてはるかに大きなものだった。私は海岸に座ってシックスシグマがいかにGEを変えたかとジャーナリストに話したとき、当時のGEは完璧ではなかった。顧客満足度を改善したいし、品質を改善したいというくらいの気持ちだった。そしいろいろ見回すと、TQCなどいろいろスローガンになる運動はあったが、それは定量的なものということで実践してみた。非常に厳しい訓練を必要とするものである。どういった大企業でも誇張をしがちで、我々は最善の人を雇っている、最善の人間しか雇っていないし、それにストックオプションを与え、会社のオーナーになれる、と言う。どういった品質向上プロジェクトにも会計経理担当の人を入れた。つまり、品質の向上が経済的な成果を上げたいと思ったからである。品質向上のための品質向上プログラムだけではなく会社の実績を上げたいと思ったのである。

 最初の落とし穴は、このプロジェクトに最善の人々を割り当てなかったことである。「品質向上プログラミングなんだな」という程度で、大して重要視しなかった。ストックプションのとき、私は品質担当の人にあげることにした。ところがストックオプションが十分にないという電話を受けた。品質担当に最善の人を当てはめたはずではないかと言ったが、そうではなかったということで、3年ぐらい社内のカルチャーを変えるようにした。すなわちシックスシグマのブラックベルト(黒帯)になる人は最高の人たち、つまり最高のセールスマン、最高のエンジニアなのだというふうにした。ということは組織全体で意識が変わったわけで、組織にとって象徴的な動きだったとも言えると思う。

 シックスシグマの結果は、品質向上プログラムをはるかに超えたマネジメントのプログラミングになった。より厳しい考え方をマネジメントのプロセスの中に組み込むことになった。そして単に品質向上プログラムだけではなくて、最高のマネジメントのツールになり得たのである。

 これがなぜ起こったかと振り返ってみると、この全体のプロセスをうまく計画したからなのだ、と手柄話にしたいところだが、そうではなくて、最高の人材がブラックベルトになって、手掛けるべきプロジェクトを考え、いろいろな機能の境界線を超えながら実践をしたからである。我々がマネジメントのプロセスを導入した中で最もクリティカルなツールであり、それが最大の成果を生んだ。

【関口】面白い質問をいただいた。会長は世界のビジネスで素晴らしいリーダーであることは承知しているが、人生の目標は何か。

【ウェルチ】私にとって何がエキサイティングなのかというと、優秀なGEの人たちにとってどんなことが起きているかに目にすることである。GEの社員はかなり株式を保有しており、いまの時価で250〜300億。ということは会社の10%を社員が持っている。GEの社員の3万人がストックオプションを有している。また数多くの人たちが人生を変えてくれた。つまり子供たちが良い学校に行けて、別荘も持つようになった。親の世話もできるし、想像もしなかったようなおカネを持ち、夢にも思わなかったようなことを家族のためにできる。それが私にとっていちばんの報いになる。

 私には十二分におカネがある。しかし私だけではなく社員も同じである。何千の人たちが何百万とストックオプション等で儲けたし、こういったことに参加しているのである。その家族にとってもそのメリットがある。それだけのインパクトをこれだけ多くの社員とその家族に対してもたらすことができた。私にとってこれ以上報いのあることはない。

 インドネシアに問題がある最中に行ったが、その際、インドネシアのGEの人たちはほかのインドネシアの人たちにできないことができた。素晴らしいことである。この精神というか、数多くの人たちの人生を豊かにできた。これ以上この仕事で報いのあることはないと思う。それはみなさんにとっても全く同じではないだろうか。

【関口】いろいろなプレッシャーを経済界あるいは社会から受けることがあると思う。その場合、あなたの健康はどうやって維持しておられるのか。どうやってストレスを解消されるのか。こういうお医者さんからの質問がある。

【ウェルチ】私は仕事をしながら素晴らしい気分になっている。素晴らしいチームを得ていることは嬉しいことである。私は一人、壇上で質問に答えているが、私の下には素晴らしいチームがいる。例えばゴルフの成績がいいと、どうやったらゴルフがうまくなるのかと言われるが、私はゴルフをしょっちゅうやるからである。CEOになる前からゴルフをやる機会が増えていた。私は気が変になったように仕事をして、楽しむときも一生懸命にやる。10年後も同じことを質問されたらいいなという気がする。

【関口】もう一つの質問は、ゴルフはどうやってうまくなり続けているのか。

【ウェルチ】私はグレートプレーヤーとまではいかないが、しょっちゅうゴルフをするし、競争心旺盛である。ゴルフもやるときは一生懸命にやる。その結果、良いスコアを上げ、楽しむことができる。

【関口】私の質問に戻る。CEOを2000年に退任することを公表しておられる。つまり65歳になったときに退任されるということだが、退職する前に何を達成したいか。また後継者としてどなたをお考えか。

【ウェルチ】私自身、会社をトップの状態で、利益も2ケタの伸びを今後とも続けさせたいと思う。またいろいろな人にいろいろなことをしていただきたい。私自身にこれを一つやりたい、あれを一つやりたいというターゲットがあるわけではない。数多くの人たちがいろいろな仕事をしてくれていて、いろいろなアイデアがあるからこそ会社がさらに成長している。だから特に何か具体的なことがあるわけではない。

 私がお願いする人は、すべてのマネージャーにとって必要な四つのEを実現する人である。第一はエノーマスエネジー。12〜14日で8〜10カ国に出張できるようなエネルギーのある人である。またこのように変化の激しい時にあらゆるものに対応するためにはとてつもないエネルギー、エノーマスエネジーが必要である。

 第二のEは、その他の人たちをエネジャイズ、やる気にさせることである。この世においてはみんな同じ情報を有している。となると、どんなCEOであっても次の世紀にみんなをやる気にさせるのは大きなチャレンジだと思う。

 三つめのEは英知である。イエス、ノーをはっきり言う。もしかして、ということではなく、例えば12カ月において128件買収する場合、もう一回見直したいから1カ月後に検討しよう、などと言うことはできない。結局は動かなくてはいけないのである。必ずしもすべての買収が正しいわけではない。私が承認した64件が全部トップの会社になるか、リターンが完璧になるか、そんなことはあるはずもない。幾つかが潰れるし、幾つかはうまくいくだろう。そんなものである。しかし、イエス、ノーをはっきり言って、先に進まなくてはいけない。必ずしも正しいわけではない。ビジネスに関していつも言うこと、また私どもが考えるべきことがある。それは素晴らしいレストランに行くようなものである。素晴らしいレストランに行って料理が出てくる。それが日本料理だったら、盛り付けも素晴らしい。完璧に調理されて、準備も完璧である。しかし、どういうふうに作っているかと厨房に行って見ると、厨房で何がなされているのか。いろいろな試行錯誤をやっている。それがまさしくビジネスである。完璧ではないのである。マスコミの方々が我々のことを書いてくださる際には、自分たちはよく分かってやっているように見えるのである。いわば純粋科学でもないのである。

 四つめのEはエグゼキューション、最後までやり抜く実行力である。例えばシックスシグマのプログラムを始めた。しかし会社全員をエネルギッシュな人員にして素晴らしい成果を持つまで実行していくためには、全社的に大変なエネルギーが必要であると同時に、何度も繰り返して実行する必要がある。

【関口】最後の質問です。子供たちこそ21世紀の立役者になると思うが、知識経済において教育が非常に重要だと思う。我々は子供をどのように教育すべきか。また子供たちに何を期待するか。

【ウェルチ】これは世界の飢餓問題を解決しろと言われるぐらい大きな問題である。最終的には明らかにより良い教育、そしてより情報を中心にしたものを与えていくことが必要である。

 工場の労働者と話をしたとき、自分の子供は自分と同じ仕事を持ち続けるのだろうか、いまと違うのであればどんなアドバイスをしたらいいか、と聞かれた。そこで、ちょうどあなたが読み書きを習熟したと同じように子供に情報技術を習熟させることが重要だ、と答えた。

 情報技術が最終的にはイネーブラーになる。我々のあらゆる取引、ビジネスを可能にするツールである。子供たちにそれを与えることが必要だし、そうなるだろう。そして今後はヒエラルキーの中に置かれるのではなく、みんな同じ情報を手にするわけだから、より一般的な参加型になるだろう。そして頭もより良くなるだろうし、すべてが情報ベースになるだろう。皆さんご自身の子供やお孫さん、3歳、5歳でもコンピューターを操る姿を見てほしい。これは我々が子供のころに小さな本を読んでいたのと同じことであるが、それが全く別のコミュニケーションということで生活の在り方になる。違ったチャレンジで、もっとエキサイティングなものである。

 さらに、よりグローバルな相互対応型の、相互作用をするような社会になっていくと思う。そこでは人々がより大きな機会を得てすべての人の生活水準を向上させ、自らの夢を実現する大きな機会を得ることになると思う。より良くなるのである。より悪くわけではない。より同質化が進み、よりお互いに遊び、お互いに生活をし、お互いに理解し合うほど、より多くの人々が平和裏に建設的な形でより良い生活水準を確保することができるだろう。

 日本の景気も回復しつつある。いままでの3年間よりも陽光さんさんとした日を迎えることになるだろう。素晴らしい日本の回復の実績に関して3年後、お話をし合うことが必ずできるだろう。ご静聴に感謝します。


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