日本を磨く

東芝社長・西田厚聡氏
東芝社長・西田厚聡氏

――日本企業はついに「失われた15年」を脱しました。

 「1990年代に経済のグローバル化、市場化が急激に進んだにもかかわらず、日本企業はマーケティング、ブランド構築などで対応が遅れた。同時にビジネスの様々な分野でデジタル化、ネットワーク化が進んだため、構造変化そのものが複雑になった」
 「日本企業は世界第二位の規模の国内市場に安住する傾向があり、グローバル市場の変化に目を向ける意欲に欠けていた。国内市場が小さい韓国の企業は、サムスンをはじめ早くから世界の市場に目を向け、自己変革を果たした」

▽ジレンマを解く

――グローバル化が成長の糧になる、と。

 「60―70年代に日本企業は製品輸出、工場進出などで海外展開を進めたが、売り上げに占める海外市場の比率などは今とは比較にならないほど低かった。今はまったく次元の異なるグローバル化の時代に突入したとみるべきだ。日本企業もそんな時代認識の下でもっと成長を追求しないと生き残れない」
 「過去10年、東芝を含む日本企業の多くは利益成長率などで、日本の国内総生産(GDP)の伸び率すらなかなか上回ることができなかった。だが、長期的に見て日本は人口減などで低成長時代に突入する。企業には本当に自らの潜在成長力を達成しているのか見つめ直し、成長力を引き上げる努力が欠かせない」

――多くの企業が海外展開で悩んでいます。

 「海外で事業展開する際、日本企業はジレンマに直面する。M&A(企業の合併・買収)であれ、企業設立であれ、現地化することは絶対条件だが、現地に経営を任せるといずれ日本の本社からコントロールがきかなくなる恐れがある」
 「かといって日本人を派遣して経営を任せると、言葉を含め地の利のある現地の経営者と真正面から戦わなければならず、不利な立場に置かれる。日本企業でそんな不利な条件をはね返せる人材は、限られている」
 「東芝は米原子炉メーカー、ウエスチングハウス(WH)を買収したが、東芝の原子力部門との統合は考えていない。WHをそのままうまく統御しながら、東芝の原子力部門と相乗効果を発揮させることで、ジレンマへの解を見いだしたい」

▽汎用品化に対抗

――経営思想も転換期にありますね。

 「高度成長期の日本企業は『シェアか利益か』『コストか品質か』『短期的な視点か長期的な戦略か』など二律背反の目標に対し、どちらかを選べばよかった。シェアを握るため(一時的に)利益を犠牲にするといった判断もできた。今はそんな偏った判断はできず、バランスが必要だ」
 「当社はWHの買収に際しては2050年までの原子力事業を予測して決断した。一方で、(市況変動が激しい)半導体では3年以上の事業計画を立てる意味はなく、パソコンも3カ月で商品が変わる。事業の時間軸は大きく異なる。これをどう組み合わせるかが経営者には問われている」

――日本企業はもっと強くなれますか。

 「世界の製造業を覆うコモディティー(汎用品)化に対抗していかなければならない。液晶やプラズマテレビは革新的だったが、すぐに汎用化し、価格下落の連鎖の中にある。東芝が新しい薄型テレビである表面電界ディスプレー(SED)の開発に取り組んでいるのも、脱汎用化が目的だ」
 「研究開発だけでなく生産、販売のそれぞれがイノベーション(技術革新)を進めれば、相乗効果を生み出すこともできる。事業の様々な段階で業務を革新することで、日本企業は一段と成長率を高めていけるだろう」

(聞き手は編集委員 後藤康浩)=この項おわり

 にしだ・あつとし 早大、東大で政治哲学を専攻した後、1975年に東芝入社。パソコン事業を大きく成長させた。97年取締役、2005年社長就任。大型買収、設備投資など攻めの経営が注目される。62歳。

「もっと強く」登場者