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アジア改革競争の時代
「危機後」の青写真模索
 今年の「アジアの未来」のキーワードは「改革」だった。各国からの参加者はこの単語を繰り返し強調することで構造改革を続けるとの決意を表明した。改革を巡る議論は経済にとどまらず政治や社会のあり方にまで及んだ。成長を競ってきたアジアは2年前に起こった経済危機を契機に、構造改革を競いあう時代に変わったのだ。

 韓国の李憲宰・金融監督委員会委員長は「銀行員の数を3分の1減らし、国内総生産(GDP)の17%に相当する公的資金を一挙に投入することで金融システムを再生させた。現在は企業部門の改革に取り組んでいる」と現状を説明。

 同時に「改革は透明性の確保、インサイダー取引の排除などの5原則の下で実施している」と“国のあり方”も変えると強調した。「銀行や企業の経営を改善するだけでは国際的信頼は回復しない。外から不透明なやり方をする国と見られる限り危機の根は残る」との認識からだ。

 西欧的価値観の押しつけには厳しく反発するマレーシアのマハティール首相も「我々には多くの弱点がある。縁故主義を打破し透明性を高めなければならない」と演説した。

 ベトナムのグエン・タン・ズン第一副首相は、聴衆からの質問にこたえる形で「汚職が外国投資に悪い影響を与えることは十分に知っている。汚職撲滅運動に全力を挙げている」と強調した。

 ちょうど1年前に開かれた前回の「アジアの未来」では「危機の“犯人”は短期資本の急激な移動とそれを許容する国際金融システム」との意見が浮上。「危機に陥った国に問題があった」というそれまでの見方を大きく変えた会議となった。

 ところが今年は犯人を名指しして非難するような議論はあまりなかった。各国が広範な構造改革競争の時代に入った今、改革に消極的な姿勢を少しでも見せれば再建に必要な外資が入ってこない、との危機感からだろう。実際、会議では危機脱出の優等生とされる韓国に対してさえ「財閥改革は進むのか」との厳しい質問が聴衆から投げかけられたのだ。

 もう1つの変化は「危機を乗り切った後のアジアはどう生きていくべきか」という長期的な視点でも議論が活発に交わされた点だ。エストラダ比大統領は「欧州を見習い東アジア共通通貨の有効性を真剣に検討すべき時期に入った」と主張。シンガポールのリー・クアンユー上級相は「米国は情報技術(IT)をいち早く導入しグローバル化を主導した」と述べ、日本を含むアジアの情報産業への出遅れに警鐘を鳴らした。

 「危機で最も被害を受けたのは庶民だ。この人たちの苦しみを直視しよう」(許文竜・奇美実業董事長)、「社会的セーフティーネットを充実させたい」(アラタス・インドネシア外相)といった弱者への配慮を主張する声も相次いだ。貧富格差の問題の妙薬だった急成長が今後は期待しにくくなり、安定した社会を作るには新たな仕組みが必要になる、との問題意識からだ。

 日本に対しては援助を感謝する声は相次いだものの、その改革を積極的に評価した外国人参加者はいなかった。一方、懇談の場では「日本の金融システムは本当に健全になったのか」との質問が日本人に向けられた。他人の前で批判しないのがアジアの礼儀だとすれば、日本は公式の席で語られないことにこそ神経を払う必要があるのかもしれない。(アジア部 鈴置高史)

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