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黒田 東彦氏
大蔵省国際局長
 危機の再発防止へファンド規制強化

 文豪トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の冒頭に、不幸な家庭はそれぞれの理由で不幸だという一節がある。同じことがアジア危機に見舞われた国にも言える。バブル崩壊で金融システムが弱体化していたタイ、財閥が銀行融資に過剰に依存していた韓国など各国それぞれの理由があった。一方で共通の要因もある。膨大な国際資本が短期間に流出入したこと、為替レートが過大評価されていたことなどだ。

 危機の再発を防ぐには国際金融システムの改革が必要だ。具体的には安定的な為替制度、国際資本移動の規制、国際通貨基金(IMF)改革の3点だ。

 宮沢喜一蔵相は新興市場国の為替安定策として、円、ユーロ、ドルなど複数通貨に自国通貨を連動させる「通貨バスケット制」を提案している。アジアは日本、米国、欧州と広い貿易・投資関係を結んでいる。通貨でも単一の通貨に連動させるのではなく、複数の主要通貨との関係を安定させることが望ましい。

 円が日本のアジアでの貿易・投資の比重に見合った程度に使われればアジア諸国と日本にとってプラスになる。

 IMFは危機の当初、タイについて98年の国内総生産(GDP)成長率を3%前後と見込み、財政黒字をGDP比1%とする計画を組んだが、(緊縮政策の結果)実体経済が大幅に悪化したため、今ではGDP比3%の財政赤字を容認している。

 IMFには各国の実情に即した財政・金融政策の追求を求めたい。IMFは改革計画を修正し、それは適切なものだったが、当初の計画が適切でなかったことは否定できない。

 国際資本移動については、先進国が銀行監督の強化や情報開示などによるヘッジファンドへの監視強化をどうするかが課題だ。途上国は資本移動の監視に加え、短期の外貨建て債務のリスク管理が必要だ。また資本の流入規制だけでなく、流出規制についても危機的な状況下ではある程度認めざるを得ない。

 アジアには大きな貯蓄がある。これを長期の資金に誘導するよう仲介する必要がある。質の高い労働力と組み合わせればアジア経済は再び成長する。

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