「アジアの未来」
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アジアに於ける内需主導の可能性
土岐太郎 国際基督教大学教養学部国際関係学科(3年)
 100年に1度といわれる経済危機が世界を混乱させている。この危機を脱するために、成長セクターとの期待があるアジアを取り込もうという動きがある。アメリカの経済力に過剰に依存している輸出主導の経済では、今度のような危機が発生すると、その影響を過剰に受けてしまうからである。

今回の危機の教訓は、「外需依存は危うく、脆い」という事である。いま、アジア域内の経済体制を外需依存から内需主導へ転換しようという機運がある。しかし、マハティール氏が「輸出志向型を内需主導型に切り替えるのは容易なことではない」と述べた通り、外需依存から内需主導への転換は容易ではないだろう。日本は、これまで内需を喚起しようとしてきたが、いまだにそれをなしえていないことからも、困難さは明らかである。

 しかし、東アジアは今では国内総生産(GDP)が12兆ドルで世界の4分の1、人口は32億人で世界の約半分を占める地域である。また、アジアは貯蓄率が世界のどこよりも高い。よって、潜在力は高い。しかし、資本は市場に流れない。問題はどういうように市場に流れる仕組みをつくるかである。

 この問題を解決するのに参考になる事例は、大恐慌時にルーズベルト大統領が取った政策ではないだろうか。ルーズベルト大統領が取った政策は、ニューディール政策として有名で優れていた。もっとも有名なのは、テネシー川流域開発公社(TVA)等の公共工事であろう。しかし、これは経済政策としては失敗であった。優れていたのは大規模な公共工事をした点ではない。優れていたのは社会政策としての点である。ルーズベルト大統領は危機にあたり、より長期的なスパンでものを見、最低賃金制の制定や社会保障を充実させ、労働者を単に労働力ととらえるのではなく、社会保障政策で安定させ豊かにし、労働者を消費者にすることに成功した。これにより中産階級を増やし、アメリカを内需主導にする基盤をつくった。

 このやり方を、社会保障が未整備な経済発展が目覚ましいアジアの国々に応用すべきではないか。貿易促進のためには、人々にお金を使ってもらわなければならない。例えば、成長著しい中国には内需ベースになるためのセーフティーネットが未整備である。安心してお金を使うことができるようにするために、失業保険や医療制度の構築が必要ではないだろうか。

 他にも、アジアが直面する課題は多々存在する。アジアに横たわる問題は、ふと思いつくものだけでも、汚職、行政の非効率性、法やインフラの未整備、政治的不安定性等々あげればきりがない。これらの問題を含め「アジアの未来」では様々な有意義な提言がなされた。

 サラ・クリフ氏は長期的な成長を阻害している数々の要因を取り除くことができるかが課題であると述べ、具体的には人的資本への投資が重要と強調する。夏斌氏は、ドル基軸制度の改革を主張し、アジアとして域内の構造改革に取り組み、経済・金融協力を進める必要があるとする。二階俊博氏は東アジア産業大動脈構想によって物流コストが下がり、物の行き来が速くなり、新しい産業が生まれるとする。人材育成、経済体制の転換、インフラ整備、どれもが内需主導に向けての重要な提言で立派な構想である。しかし、構想だけでは駄目である。各国の政府・研究者・民間が知恵を出し、共に汗を流し具体化していく必要がある。

 アジアは、欧米の植民地として長らく、不条理にも多くの血を流さねばならなかった。しかし、第2次世界大戦後、政治的独立を果たした。そして今、アジアの多くの国々では、経済的な繁栄を得ようと必死になり努力している。経済的繁栄への道は、かつての独立闘争や国家建設と同様、生易しいものではない。こういう時に必要なのは、アジアが一体となり、助け合うことではないだろうか。ズン・ベトナム交通運輸相も「困難の克服には域内各国の一段の連携が必要」と述べている。

 ブアソン・ラオス首相はこう述べた。「試練に立ち向かうことは自分を向上させるよい機会だ」と。アジアは試練に立ち向かい、それを克服してきた。今回もまた、試練に立ち向かい克服する。そして、より一層自身を向上させ、アジアは安定と繁栄を得る。これが「アジアの未来」である。

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