「アジアの未来」
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パネル討論
▼「アジア経済の持久力を探る 〜世界経済危機のなかで」

 小島明・日本経済研究センター特別顧問(モデレーター) アジアの経済はかつて「アジア的停滞」などと評されたが、そんな見方を破って成長した。象徴的なのは主要7カ国(G7)に新興国を加えたG20による金融サミットが開催されたことだ。現在の危機はこうした構造的視点からとらえる必要がある。

サラ・クリフ氏

 サラ・クリフ氏 域内総生産比3.6%の景気刺激策を打ち出した東アジア経済には底入れの兆しがみられる。中国でも回復初期の兆候があり、東アジア全体によい影響をもたらすだろう。ただ、最悪の時期はまだ終わっていない。

 東アジアでは、現在実施中の景気刺激策が短期的な効果をだせるか、同時にインフラのボトルネックや人材への投資など、長期的な成長を阻害している数々の要因を取り除くことができるかが課題だ。

 武藤敏郎氏 中国などによる内需拡大策はアジアや世界の経済を下支えするだろう。長期的にはアジア経済の外需依存構造を改めて、域内消費を拡大させることが望まれる。これからは域内の協力・連携が非常に重要になるだろう。

武藤敏郎氏

 夏斌氏 中国経済はすでに底入れしており、通年でも8%程度の経済成長が実現できるだろう。ただ中国経済は景気回復を支えるしっかりとした基盤がない。景気が回復したとしても、2006―07年のような11―12%の高成長は起こりえない。

 今回の危機では、米国のマクロ経済政策だけでなく、ドルを基軸とする国際通貨制度にも問題があったことが明らかになった。アジア諸国は「脱ドル化」を進める必要がある。東アジア諸国は円や人民元などの通貨での決済を推し進めなければいけない。

 シャンカール・アチャリア氏 今回の危機でインドの国内総生産(GDP)成長率は近年の約9%から、08年10―12月は5.3%に鈍化した。ただ、金融システムでは、いずれの銀行も資本不足に陥るほどの巨額損失とは無縁。銀行間の資金のやりとりも健全に機能している。5%を超える成長率は維持している。

夏斌氏

 今回の経済危機の教訓は、金融自由化については慎重なアプローチが必要だが、資本バブルが発生した場合は慎重な基準をより厳格化する必要があるということだ。今後は財政赤字の削減とインフラ面での障害の克服が必要となるだろう。また、多角的自由貿易体制を維持し、地域の自由貿易協定への可能性も追求していきたい。

 小島氏 今回の危機後の世界経済においては、米国の消費動向が以前のような過剰消費に戻ることがないという前提のなかで、アジア地域需要をいかに持続的に生み出すかが重要になる。危機後の世界でのアジアのあり方やドル基軸体制についてどう考えるか。

シャンカール・アチャリア氏

 夏氏 通貨制度はまだドルが基軸だ。だが、制度を根本的に改革しないとまた新しい問題が出てくる。まず、アジアとしては域内の構造改革に取り組み、経済・金融協力を進める必要がある。通貨体制の改革も主張すべきだ。

 難しいことだが、少しずつ脱ドル化を進めていかなくてはならない。中国政府が取り組んでいるように、出来る限り外貨準備を多様化することなどが大事だ。これには、世界経済の不均衡な状況の是正が不可欠となる。

 クリフ氏 社会保障政策や教育、インフラ整備で構造的な制約を取り払い、成長を実現しないといけない。アジア地域の最大の経済圏が消費を拡大しても米国の規模には及ばない。世界の景気が回復しないとアジアの回復は見込めない。

 アチャリア氏 インドのGDP成長率は9%に戻せなくても、1年で7、8%に戻せればよい。そのためには慎重なマクロ経済の運営が必要だ。各国は世界貿易機関(WTO)のもとで自由貿易体制を整え、保護主義に対抗すべきだ。そのためにもアジアのパートナーと強い連携を取らなくてはならない。

 武藤氏 国際通貨として成り立つためのいくつかの条件を備えたドルが実質的な基軸通貨として機能しているのが現状。このため日本や中国もドル資産を運用しているわけだが、ドルへの依存があまりに高いのはポートフォリオの観点などから問題だ。

 政府、日銀のこれまでの成長率見通しは楽観的すぎた。だが、今年4―6月期はプラス成長に転じる可能性もある。日本は中国と並んで積極的な財政出動をしており、09年後半はその効果が表れる。

 日本のバブル崩壊時も(マクロ経済運営が)後手後手に回ったことは、私は反省しなければならないと思う。だがそこから得られた教訓もあり、今回それが生かされていると思う。

[5月22日/日本経済新聞]

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