第13回アジアの未来
「アジアの未来」
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東アジアの奇跡後の課題と連携の必要性
猪俣章与 慶應義塾大学
 1993年の世界銀行レポートの「東アジアの奇跡」から一転、アジアで通貨危機が起きてから、今年は10年である。東アジアで共同体を形成しようという試みはアジア通貨危機後本格化し、世界貿易機関(WTO)の多角的交渉の困難さ、欧州連合(EU)経済の好調という要因もこれを後押ししたと言われる。そんななかで特に今回は、日中韓の歴史問題も緩和するなかでアジア共同体について話し合われたのが特徴だ。

 そのなかで、共通の問題として、貧困・安全保障問題、環境問題、金融の不安定性が挙げられたが、私は「アジア通貨の今後」についての分科会に参加した。そこではグローバルインバランスと過剰流動性に対処するための各国の金融分野での連携の必要性が話し合われ、共通通貨や共同基金が提案された。セッションでは共通通貨下では独自の金融政策が難しくなり、内政干渉の恐れも出てくるので、共同基金設立のほうが、政治と経済の両面からみて現実的といった印象を受けた。共同基金はリスク対応のための外貨準備を減らすことが可能になるし、それを投資にまわすことで経済成長が期待できる。また、東アジアでの貯蓄過剰も解消されうるだろう。

 一方、共通の問題であるからこそ、フリーライダー問題も生じるのだということも感じた。グローバルインバランスの例では、ドル準備高が上昇を続けている中国に対して元切り上げが求められたとき、余永定中国社会科学院世界経済・政治研究所長が「米国の財政赤字が最初の問題だ」としたのは印象的であった。河合正弘アジア開発銀行研究所長が、「域内で同じ比率の通貨切り上げを許容すべきで、連携して通貨の切り上げ圧力を許容しよう」と言ったのは、その囚人のジレンマ的状況への対処法として、うまく機能するのではないだろうか。環境対策と同様、地球全体の問題に対処するには、各国が連携して行動することが必要である。しかしそのためには、まず信頼関係が築かれていなければならないと改めて感じた。

 会議全体を通して、貿易自由化に関して、経済学的観点からはおおむねポジティブな意見が多かったように思う。特に、竹中平蔵日本経済研究センター特別顧問が述べたように知的交換(intellectual exchange)が進み、イノベーションを促せたら、それが全体の厚生を上げることになるのは明らかである。共同体形成の大きなネックとなっているのは、政治的側面だということを強く感じた。もちろん自由競争は産業の成長と淘汰を引き起こすという意味で、貿易自由化が自動的にWIN-WINの関係になるわけでない。柔軟な雇用制度や淘汰されうる産業への短期的な補償など、適切な国家内での再配分構造が無ければ、自由貿易協定(FTA)の締結は難しいだろう。

 EUが米ソに匹敵する共同体を目指されたのとは違い、アジア共同体の結成にはそれほど強い政治的インセンティブはないと言われる。しかしBRICsに数えられる国を含むこの東アジアは、21世紀に注目される市場であることは間違いなく、各国の経済成長によって得られる厚生を最大にするためにも、各国の協力・連携が必要であると感じる会議であった。

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