「日経アジア賞」
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受賞者紹介

経済発展部門ミーチャイ・ウィラワイタヤ氏
人口と地域開発協会会長(タイ)

科学技術部門張俊彦氏
交通大学名誉教授(台湾)

文化部門ゴーパル・ベヌ氏
ナターナ・カイラリ〔伝統芸術研究研修センター〕所長(インド)


 
 科学技術部門
  張俊彦氏
 交通大学名誉教授(台湾)
 
台湾半導体の礎 次世代育成に力

 「決裁延期」と記された文書を今も自宅に保存している。交通大で電子工学の博士課程に在学中の1964年、海外留学を申請した際に警察当局から来た回答だ。延期は名目にすぎず、その後も許可は下りなかった。

 国民党独裁政権が47年、台湾住民を武力弾圧した「2.28事件」で教師の父親が犠牲に。9歳にして母親とともに父の遺骨を引き取りに行く悲しみを味わった。留学許可が出なかったのは「政治犯の息子」が理由だが「勉強は自分ですればいい。挫折を感じたことはない」と振り返る。  「父親の影響で科学が好きになった」張氏は中学時代に半導体の研究を志したものの、台湾では大学にさえ半導体講座が無かった時代。とにかく専門書を読んで物理、化学などを独学した。

 留学断念後は自ら音頭をとって交通大に台湾初の半導体研究センターを開設。「設備のすべてが手作り」ながら、温めてきた理論を実現する実験室を手に入れた。交流のあった米ベル研究所の技術者らと共同で、65年から66年にかけ、台湾初のICを開発した。

 当時は米インテルの共同創業者ゴードン・ムーア氏が大規模集積回路(LSI)の集積度が3年で4倍になるとの経験則「ムーアの法則」を提唱し始めたころ。当局や大企業の援助のない徒手空拳で、世界級の半導体技術を実現していた。

 民主化が進み始めた79年までは海外出張も許されない環境下で、LSIの集積度や発光ダイオード(LED)の生産効率を上げる研究に従事。二酸化ケイ素で形成するLSIの絶縁膜の性能を亜鉛を混ぜて改善する技術など、取得した特許は70件近くにのぼる。

 この台湾一の研究環境が人材を引き付けた。教え子にはパソコン大手、宏碁(エイサー)を創業した施振栄氏を筆頭に、半導体最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の曽繁城・副董事長、半導体2位の聯華電子(UMC)の曹興誠・名誉董事長らが名を連ねる。

 育てた博士は100人近く、孫弟子を含めると「台湾のハイテク産業の主要人物の6割が教え子」。ハイテクの梁山泊(りょうざんぱく)を活性化する秘訣は「学生に干渉せず、自由に考えさせること」だという。

 台湾の半導体産業が世界シェアの約2割を占めるまでに発展したのは、当局が70年代から推進した振興策の成果とされる。張氏は「東南アジア諸国にも振興策はあった。台湾が成功したのは、我々が育てた人材という基礎があったからだ」と自負する。

 「台湾のシリコンバレー」と呼ばれるハイテクパーク「新竹科学工業園区」は交通大キャンパスの隣接地に位置する。産学協同の世界的な成功例で、現在はナノテクノロジーなどに共同研究の範囲を広げている。

 自らに非のない政治事件で留学の道を絶たれたのは苦い思い出だ。ただ結果的には国民党政権が留学許可を出さなかったことが張氏という頭脳の海外流出を防ぎ、台湾にハイテク人材のふ化器を生むことにつながった。

 交通大学長を退いた今も研究や学生の指導を続ける。「台湾半導体産業の競争力を高めるためソフトウエアの活用をさらに進めなければ」。生涯現役を貫くつもりだ。(台北=山田周平) 

<略歴>
 台湾・高雄県で日本統治時代の1937年に生まれた。47年の「2.28事件」では自らも畳の下に隠れて難を逃れた。父を「政治犯」にされた家の生活は苦しかった。
 好きな理科系で「最も食いっぱぐれがない」と考えた電子工学を志し、成功大学を60年に卒業。中国に複数ある交通大学の流れをくむ理工系の名門、交通大学の大学院に進み、同校が64年に台湾で初めての半導体研究センターを設立するのを主導した。
 70年には台湾の大学で初の工学博士号を取得。2000年には全米科学アカデミーの海外会員に台湾では初めて選ばれた。
 06年7月まで8年間は交通大の学長を務め、その後は同大の名誉教授。3人の息子のうち1人は教え子で、全員が台湾か米国で半導体企業に勤めている。69歳。

[5月6日/日本経済新聞]

[記念講演の模様はこちら]


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