25日の概要
分科会
A:アジア通貨の今後−危機から10年
小島明・日本経済研究センター会長(モデレーター)
アジア通貨危機から10年の教訓は。
ヘン・スイキャット氏
ヘン・スイキャット氏
4つの教訓と変化がある。第1はマクロ経済政策の重要性が認識されたこと。第2に資本取引の自由化が進んだ。第3に企業統治の透明性が重要と認識されつつある。第4に各国の中央銀行や規制当局の協力が不可欠との考えも浸透した。
余永定氏
金融システムは改善し、中国は不良債権が減った。半面、急激な資産バブルに苦しんでいる。外貨準備は1兆2000億ドルに膨れ上がったが、こんなにためる必要はない。
河合正弘氏
各国は金融や企業の改革を進めた。短期債務を減らし外貨準備を増やす取り組みも加速した。ただ一部にはこうした政策が行き過ぎて、通貨が過大評価されるのを避けようと(介入で)為替相場の上昇を抑える国も出てきた。
小島氏
今後のリスクは。
河合氏
世界的な流動性拡大だ。過大な資本流入でバブルが発生、破裂する恐れがある。例えば昨年末、タイ中央銀行が通貨高を和らげるため資本流入規制を発動したところ株式相場が急落。翌日に一部規制を解除した。中国は外貨準備が多いため通貨危機にはならないが、放漫な貸し出しのツケで(1990年代の)日本型金融危機に陥る可能性がある。
余永定氏
余氏
中国には4つのリスクシナリオがある。1つは河合氏も指摘した過剰流動性によるリスク。第2に人民元相場の自由な変動を認める場合に輸出産業を中心に打撃を受ける。第3は資本規制の緩和によって急激な資金流出が起きる。第4は当面危機は起きないが、高齢化で長期的に経済が減速するというものだ。
ヘン氏
世界的な低金利とその反転。金融技術の進歩でカネの流れが見えにくくなっている。国の貯蓄・投資バランスが著しく崩れていたり、資金の出し手がアジアや産油国に偏るなどミスマッチがみられる。
小島氏
国際的不均衡は大きな問題だ。米国が為替調整だけで赤字を半減するには、ドルを3割切り下げる必要があるとの試算もある。
河合氏
米景気減速などをきっかけにドルが急落すると資金がアジアに大量流入する、それを抑えるのは困難なため、各国が協調して同程度の通貨切り上げを受け入れた方がいい。域内貿易比率が上昇した結果、アジア通貨間の変動が小さければ各国経済への影響は限られる。協調できるかどうかの鍵は中国の人民元。相場の柔軟性を高める必要がある。
余氏
不均衡是正には米国自身が貯蓄・消費バランス改善などの赤字削減努力をすべきだ。
ヘン氏
日本の膨大な貯蓄をアジア全体(への投資という形)で活用すれば、域内経済のつながりを強め消費を高められる。実際、ここ数年で日本のアジア向け投融資が増えている。
小島氏
中長期の通貨政策協調や、アジア通貨単位(ACU)など通貨統合への意見を。
河合正弘氏
河合氏
アジア域内で為替を安定させる一方、ドルに対しては柔軟性を高める方向で協調すべきだ。アジア債券市場育成もいい。通貨統合については、リーダー役の通貨が見つからない。ACUのように主要通貨のバスケットを基準にするのがいい。
余氏
政策協調や通貨統合には課題が多い。ACUについては中国にどのような利益があるのか見えない。
ヘン氏
アジア通貨を巡る政策協調には政治的な意志や長期ビジョン、けん引する国が必要だ。
[5月26日/日本経済新聞]
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