「アジアの未来」
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24日の概要
討論
▼統合へ問われる具体策


◆「枠組み論」◆

 岡部直明・日本経済新聞社主幹(モデレーター) 中国、インドの台頭もありアジアはグローバル経済の核になった。持続的成長のカギは域内経済の統合だ。どのような枠組みが考えられるか。

二階俊博氏
二階俊博氏
  二階俊博氏 日本が成長を遂げるためにはアジアのダイナミズムと濃密な連携をとる必要がある。柱は東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓、インド、豪州、ニュージーランドの16カ国が参加する東アジア経済連携協定(EPA)だ。ASEANをハブとした5つのEPAを1つに束ね、包括的なEPAをつくるのが日本の提案だ。今年の東アジア首脳会議で民間の研究報告が行われる見込みだ。統合にはASEANが主体となることが重要だ。

 ロドルフォ・セベリーノ氏 二階氏が指摘した東アジア首脳会議の枠組みは、ASEANがリーダーになって地域統合を図る流れの一環だ。これに並行するのがASEANプラス日中韓。東アジアでは事実上、ASEANプラス日中韓の枠組みで経済統合が進んでいる。推し進めたのは市場の力だ。ASEANプラス日中韓の域内貿易比率は60%に近づいており、北米自由貿易協定(NAFTA)の比率を超え、欧州連合(EU)に迫る。背景にあるのが自由貿易協定(FTA)やEPAだ。

ロドルフォ・セベリーノ氏
ロドルフォ・セベリーノ氏
 ASEANプラス日中韓には「チェンマイ・イニシアチブ」と呼ぶ金融面の協力体制もある。(通貨急落の際に外貨を相互融通する)二国間の通貨スワップ協定があり、最近はそれが多国間の仕組みへ進歩しつつある。狙いは東アジア諸国の通貨に対する投機的な攻撃の防止だ。

 ASEANプラス日中韓にこだわらず、重層的アプローチも重要だ。グローバルに貿易を自由化しようとする世界貿易機関(WTO)の取り組みはもちろん理想的。その下にアジア太平洋経済協力会議(APEC)や東アジア首脳会議、ASEANプラス日中韓、さらには二国間の枠組みも存在しうる。複数の枠組みを同時に推し進めることは可能だ。

 マイケル・マハラック氏 米国としてはまずWTO多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の合意が最優先事項だ。ただこれは米国一国だけでは実現できない。一方で二国間のFTAの役割も重要になっている。米国も最近、韓国とFTA締結で合意した。FTAは二国間に限らず地域レベルでも活発で、特にASEANが積極的。米国もASEANとの連携を強めてきた。

マイケル・マハラック氏
マイケル・マハラック氏
  最善の枠組みは何か。米国はAPECをベースとしたアジア太平洋FTA(FTAAP)の実現を長期目標として掲げている。米国を含むアジア太平洋全体のFTAの方が、(米国を含まない)ASEANプラス日中韓だけのFTAよりも、北東アジアに大きな経済的利益をもたらす。ある経済モデルによると、日本にとっては前者のメリットが後者の2倍に達する。

 二階氏 米国が提唱するFTAAPは、日本も積極的に議論で貢献する決意だ。短期的に実現することは難しいと思うが、長期的な展望として掲げ協力していくことは重要だ。研究を強化して素地を固められれば良い。アジアの未来は米国抜きに語れない。

◆「具体論」◆

 二階氏 東アジアの国の間にはまだ大きな経済格差がある。その解消のために「東アジアASEAN経済研究センター」の設立を今年の東アジア首脳会議で正式に検討したい。日本は資金と人を供給する。本拠地はASEANに置く予定だ。経済協力開発機構(OECD)のような存在が理想。米国のフルブライト奨学金のアジア版「人材資金構想」も進めたい。アジアを舞台に活躍する人材を育て、それぞれの国のリーダーとして活躍する日を期待する。

 会場からの質問 日米間のFTAの実現可能性は。

 マハラック氏 日米は緊密な同盟国だが、日本がFTAを望むなら質の高い合意を目指さないといけない。当然、そこには農業問題も含まれる。日本の政府がその意欲を持つかどうかだ。

 質問 今年はアジア通貨危機から10周年。APECには再び通貨危機が起きた場合の処方せんはあるか。

 マハラック氏 APEC財務相会合がアジア資本市場の進化を検討していると思う。「チェンマイ・イニシアチブ」などASEANプラス日中韓によるこれまでの対策の価値を認め、さらに改善しようと努力している。

 岡部氏 重層的な経済協力関係が築かれていくことは成長の原動力になる。どれが良くてどれが悪いということではない。

 セベリーノ氏 同感だ。様々な地域経済統合の枠組みが重層的に存在することは、アジアの人材を育成・強化する上でも重要だ。それぞれの枠組みが補強し合うことができる。ただ互いに矛盾したり、WTOの精神に反するものであってはならない。

[5月25日/日本経済新聞]

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