「日経アジア賞」
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受賞者紹介

経済発展部門オリビア・ラム氏
ハイフラックスCEO兼社長(シンガポール)

科学技術部門フィリップ・ヨー氏
シンガポール科学技術庁長官

文化部門ソピリン・チアム・シャピロ氏
舞踊家(カンボジア)


 
 経済発展部門
  オリビア・ラム氏 ハイフラックスCEO兼社長(シンガポール)
 
不足懸念先取り“水造り”に尽力

 アジアで「水の女王」と呼ばれる。1989年に水処理会社ハイフラックス(当時はハイドロケム)を興してから17年。「水は他のもので代えようがない」を持論に、シンガポールだけでなく、中国や中東など飲み水や工業用水が足りない地域で、下水の再生や海水の淡水化など“水造り”に取り組む。

 世界の水不足は深刻になっている。国連は2025年に世界で24億人が深刻な水不足に陥ると指摘。3月にメキシコで開いた世界水フォーラムでもアナン事務総長が世界の18%が清潔な飲み水を得られず、毎日6000人が死亡していると警告した。

 ハイフラックスはこうした水不足への懸念を先取りしてきた。背景にはマレーシアに必要な水の約半分を依存してきたシンガポールの苦衷がある。経済発展に水は欠かせない。同社はシンガポール政府が進める「造水政策」にうまく乗る形で事業を発展させてきた。

 注目を浴びたのは01年。下水を処理して工業用水や飲料水として再利用する「ニューウオーター」プラント第一号の建設と運営を同国政府から受注した。翌年に生産を開始。下水処理水をマイクロフィルターと逆浸透膜でろ過して紫外線殺菌し、細菌やミネラルまで取り除いた。いまでは飲料水にも混ぜられて使われている。

 05年には同国で、海水から塩分を取り除き飲料水に変えるアジア最大級の脱塩処理施設(処理能力1日13万6000トン)も稼働させた。ニューウオーターの施設と合わせると、同国の水需要量の約35%を供給している。

 水処理事業を思い立ったのはシンガポール国立大学を卒業し、医薬品大手グラクソ(現グラクソスミスクライン)に入社してから。「処理済みとはいえ、毎日汚水を出していた」と明かす。「使った水をきれいにする再生事業は絶対に成長産業だと思った」

 しかし資金はないし、顧客もいない。やり方もわからない。「失敗したら戻ってきていいよ」。上司の一言が背中を押した。家と車を売って、借金を払った残り2万シンガポールドル(約140万円)で89年に事業を始めた。

 当初の従業員はわずか3人。ろ過装置などの販売を手掛けたが、技術開発に重心を移し、ろ過装置に様々な工夫を取り入れて逆浸透膜と関連技術開発に力を入れた。1ナノ(ナノは10億分の一)メートル程度の粒子も通さない逆浸透膜では東レの協力を得たが、独自技術を獲得するため「今でも研究開発に売り上げの6―7%をかけている」という。  プラントの設計・建設や運営まで幅広く手掛けるようになったハイフラックスは01年にシンガポール証券取引所に上場。05年の売上高は前年比48%増の1億3150万シンガポールドルに達し、約700人の従業員を抱えている。

 同社の市場はシンガポールから海外に広がっている。今月10日には中国の江蘇省大豊と遼陽で工場用や飲料向けの水浄化プラントを30年契約で受注した。07年には天津で中国最大の脱塩処理施設を稼働させ、翌年には日量15万立方メートルまで拡大する予定。05年の売上高の約56%は中国事業が占める。

 05年には中東のドバイで事業を開始。インドにも連絡事務所を開設し、「次はインド」と意気込む。

 「将来は誰もが飲み水に困らないよう携帯型の水製造装置を作りたい」。水を巡るラム氏の夢は尽きないようだ。(シンガポール=野間潔)

<略歴>
 1960年、マレーシア生まれ。孤児としてマレーシア人の貧しい家庭に養女として育った。小遣いを稼ぐため市場でアイスクリームや果物の行商をし、「7歳の時には学校から食堂の一角を借りてパンを売った」という。
 中学生のころに科学が好きになり、シンガポール国立大学で化学を専攻。医薬品のグラクソに入社した。「技術とビジネスを結びつけるのが面白い」というラム氏の才覚は幼年時代に培われたようだ。
 苦学したラム氏だが、ハイフラックスの成功により、いまや資産2億4000万米ドルを保有。05年フォーブス・アジア版ではアジアの富豪の39位に名を連ねた。03年には地元女性誌の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、05年にはシンガポールの地元経済紙から女性としては初めて最優秀ビジネス・エグゼクティブに選出されている。独身。45歳。

[5月24日/日本経済新聞]

[記念講演の模様はこちら]


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