「アジアの未来」
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26日の概要
太田 泰彦
日本経済新聞社 国際部編集委員兼論説委員

 「共同体、理念より機能で」

  欧州最大の食品企業ネスレのアジア市場への取り組みを示す地図がスクリーンに大写しになると、会場に「おや?」と首を傾げる顔が見えた。

 1人当たり所得や人口増加率をもとに「アジア」を13の地域に分割した戦略地図。そこには日中韓と東南アジア、インドだけでなくトルコ、アラビア半島、イスラエルまでが含まれている。

 共同体づくりの機運は急速に高まっている。だが、その「アジア」とは地球儀のどこを指すのか。欧米の多国籍企業の目から見れば、アジアはアフリカ大陸を除く「非欧米」を意味する。日本には、イランやイラクまで「アジア」に含めるサッカー国際試合の地域区分に違和感を覚える人が多いのではないか。

 今回の会議で浮き彫りになった課題の一つがここにある。米欧から与えられた「定義」や米欧への感情的な反発からではなく、現実に機能する地域共同体をどう築くか。アブドラ・マレーシア首相の「共同体をつくるのは東アジア人だ」という決意表明は象徴的だ。

 米国の双子の赤字が拡大し、ドルの信認が揺らぎ始めている。アジア共通通貨をめぐる議論が初めて熱を帯び、ドル依存からの脱却が強調された。原油価格の高止まりを受けて、エネルギー開発での協力や消費国の連携が具体的な政策として取り上げられた。

 早急に取り組むべき課題が目の前にある。FTA網の充実や各国内の構造改革など、地域経済の安定性を高めるための共通の問題意識が絞り込まれてきた。理念よりも機能面について互いに協力し、注文をつけ合う枠組みづくりへの要請は既に高まっている。

 欧州連合(EU)の経済統合は独仏両大国の政治意志で、トップダウン方式で進んだ。対照的に、アジアの共同体は経済の実態を政治が追いかける形でボトムアップで築かれるはずだ。その方向が「アジアの未来」で明確になったといえる。

 日中韓は、歴史問題などをめぐる不和の解消を急がなければならない。ぎくしゃくした3カ国の関係が続けば、運命共同体である地域全体の安定が損なわれてしまう。

 中国の立場を語った王毅駐日大使の表情が昨年と全く違っていたのが印象的だった。近隣国との平和的な共存を強調しながら「靖国問題」への具体的な言及を慎重に避けた。「ポスト小泉」を意識し、日中関係の“軟着陸”を模索する中国の微妙な姿勢変化を感じた。

[5月27日/日本経済新聞]

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