「アジアの未来」
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講演を聞いて
日本経済新聞社編集委員 太田泰彦

 「共同体」夢から具体論に

 今年の第11回国際交流会議「アジアの未来」は波乱を予感させる出来事とともに開幕した。23日の特別セッションで講演した中国の呉儀副首相は小泉純一郎首相との会談を直前に中止して帰国。対立色が一段と濃くなった日中関係の行方は、その後の会議を通して焦点の一つとなった。

 主要テーマである東アジアの経済統合をめぐる講演では、政治的側面に言及する首脳が目立った。シンガポールのリー・シェンロン首相が「日中は和解に向けて努力せよ」と語り、マレーシアのアブドラ首相は「アジアが分断されていた時代に戻ってはならない」と地域の連帯を訴えた。

 背景には今年12月に第1回開催が迫る東アジア首脳会議(サミット)がある。地域の枠組み作りは1年前には予想できなかった速度で進んでいる。その現実味が会議場の雰囲気を引き締め、欧州連合(EU)に模して共同体の夢を語るユーフォリア(陶酔感)はすっかり薄れた印象だ。

 昨年まで会議で各国が競って発表した実現性不透明な“地域協力構想”も鳴りを静めた。だが、これは地域統合を目指す潮流の「後退」と解釈すべきではない。議論の具体性は逆に格段に高まり、共同体を築くために国家や企業が乗り越えるべき様々な壁が明らかになったからだ。

 最大の課題は北東アジア地域の安定だ。ぎくしゃくする日中・日韓関係、北朝鮮の核開発、台湾海峡の緊張など同地域には外交上の難問が山積する。東アジアが世界経済の成長センターであり続けるためにも、政治が果たす役割と責任は重い。

 韓国の鄭東泳統一相や中国の王毅駐日大使が日本との歴史問題に鋭く触れるなど、安全保障をめぐる講演、討論は緊迫感にあふれた。その一方で舞台裏の控室では、固く握手を交わし、小声で話し込む中国の李東生TCL集団董事長総裁と台湾のモリス・チャンTSMC会長の姿が見えた。

 企業家は政治の“障壁”を超え、国際分業を進めつつ活躍の場を広げている。政治主導で進んだ欧州統合と異なり、東アジアの一体化を支えるのは実体経済の融合だ。

 歯車は元に戻らない。今回浮き彫りになったのは、地域安定に向けた各国の対話努力が待ったなしであるという現実だ。

[5月27日/日本経済新聞]

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