「アジアの未来」
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フォーカスセッション
「東アジア経済統合と世界―― FTA/EPAを土台に」


 ――東アジア共同体実現に向けた最大の懸念は何か。

フィリピン財務相のプリシマ氏
 プリシマ財務相 大国でないフィリピンの将来は経済統合をいかに深化させていくかにある。繁栄は歴史的問題を乗り越え、統合速度を上げられるかにかかっている。東南アジア諸国連合(ASEAN)の指導者はその重要性を認識し、2020年までの経済共同体実現に努力している。

 昨年11月に原則合意した日比の経済連携協定(EPA)は自由貿易協定(FTA)の手本だ。2国間や地域のFTAはグローバルな利益につながる潜在性を秘める。経済統合に伴い域内の相互作用が強まることから自国の問題を他国に転嫁しないようにすることが大切だ。フィリピンは国内の財政再建を進め、投資家に魅力的な国であろうと努力している。

 張蘊嶺所長 東アジアの地域協力には2つのメカニズムがある。1つはASEANと日中韓という政治まで含む協力枠組み。もう1つは2国間FTAの進展だ。アジアの地域協力は欧州のようにまず合意があるのではない。各国が2国間で実情に合った合意を交わしながら、将来統合していくという方向だ。2国間FTAと並行して東アジア全体の協力構築に向け動いている。

首相補佐官の川口順子氏
 川口順子首相補佐官 東アジアでは貿易、投資、IT(情報技術)、金融、環境、テロ・海賊対策、安全保障などで協力を積み重ね利害を共有するのが適している。短期的に負の影響はあるが、長期的にFTAやEPAの効果を追求するのをやめてはいけない。

 域内最適分業体制ができれば東アジア地域の競争力は増す。日本はFTAやEPAでモノだけでなく投資やサービスを含めた形を重視している。企業行動を促進するうえでは、各国の制度が調和され、共通ルールが構築されるのが重要だ。

 ――域内の格差をどう調整していくのか。

 プリシマ氏 多様性のある東アジアの協力はゴルフのゲームのようだと考えている。ハンディキャップという考え方を取り入れなければならない。能力の違うプレーヤーが同じように競うことができるようになる。

中国社会科学院アジア太平洋研究所所長の張蘊嶺氏
 張氏 中国は格差を解消するため(内陸部や東北地域の振興など)均衡の取れた地域開発に乗り出した。国内総生産(GDP)のみを重視する成長モデルも変える。

 川口氏 日本は政府開発援助(ODA)でも協力している。日本はODAを85億―86億ドル出しているが、その6割はアジア向けだ。ラオスなどASEANの後発参加国への支援も実施している。

 ――企業の動きなどについて各国内の調整も必要ではないか。

 プリシマ氏 グローバル化では民間企業の役割が大きい。そこから利益を得ている企業は資産配分を一部に集中させないよう考慮するなどの責任がある。企業と政府が協力することで、アジアの統合を継続的に進められるようにする必要がある。アジア域内からは欧州連合(EU)や米国市場に多くの財やサービスが流れている。サプライチェーンが域内で完結することが重要だ。

 川口氏 FTAの背景には、企業の投資行動を通じた相互依存関係の深化がある。例えばトヨタ自動車はタイでエンジンを作り、マレーシアではステアリング、ギアを作るなど分業体制を網の目のように築き、それが域内諸国の中小企業の育成につながっている。  マレーシアと大筋合意したFTAでは自動車分野の扱いが問題となったが、マレーシアの自動車市場の拡大に日本の業界も協力することを項目に入れた。

 張氏 自由化の過程では大企業が最も利益を得る。東アジア協力では自由化で利益を得る側がコストを払うべきだ。利益を平等に配分するのは難しい。個々の国の間でも調整し、弱いパートナーをどう支援するか考えなければならない。

 中国はあまりにも輸出に傾斜した経済成長の原動力を変えることが必要だ。国内成長でより多くの人が利益を享受できるようにする。物質的なものだけではない価値観も導入すべきだ。成長と自然環境の保護などのバランスを取る必要がある。

 中国の成長はこれまで外国の対中直接投資に支えられてきた。今後は外資を拒否するわけではないが、従来とは別の成長モデルを選択することになるだろう。

[5月26日/日本経済新聞]

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