25日の概要
リー・シェンロン氏
シンガポール 首相
講演するシンガポールのリー・シェンロン首相=25日午前、都内のホテル
日中、冷静な関係作りを
1980年代の東アジアは先進国の日本を新興経済国・地域が追随する「雁行(がんこう)型」で発展してきた。今や東アジアはすべての国が(経済的に)離陸した。地域の成長と繁栄を維持するため今後、取り組むべきことは4つある。
第1は中国を秩序ある形で、互いに利益を得られるように東アジア経済に組み込むことだ。アジア諸国は中国の台頭を大変好ましく受け止めているが、中国は競争相手でもある。
第2は(中国以外の)東アジア諸国の相互協力を強めることだ。東アジア経済は中国をハブ(車軸)とした構造ではなく、(中国以外の国々が相互に結びつく)より多面的な格好であるべきだ。年末にマレーシアで開く会議では、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳がそろい、アジア地域の将来像をまとめた憲法的枠組みとなる「ASEAN憲章」の起草を宣言する予定だ。
ASEANと日本の関係も重要であり、双方の関係を緊密化する包括的経済連携(CEP)の進展を加速すべきだ。
第3は東アジアが域外に開かれた経済圏となることだ。アジアは米国と戦略的に重要な結び付きを持ってきた。第2次大戦後、米国は60年以上にわたり平和と安定のとりでだ。主要な国際問題は米国抜きでは解決できず、(アジアだけでまとまることで)太平洋を分断することはできない。
第4は東アジアの経済統合は安定した安全保障環境に裏付けられなければならないことだ。日中両国がその影響力を増すにつれ、両国間に摩擦が生じるのは不可避だ。日中は戦後、独仏が行ったように歴史問題で和解していない。だが、日中とも協力による利益を認識しており、ともに衝突を望んでいない。日中は国家主義的な感情を沈静化すべきだ。
北朝鮮が核兵器を入手したら、北東アジアを不安定にする。6カ国協議は事態を打開する枠組みだが、北朝鮮の瀬戸際政策によりこう着化している。北朝鮮の協議への早期復帰に向け、中国は強い影響力を行使し得る。
東アジアの安定はより広い国際秩序の安定にかかっている。国連安全保障理事会の拡大は、今日の国際社会の多様な利害を正しく映すものとなろう。シンガポールは日本が常任理事国になることを支持する。ただ、新常任理事国への拒否権付与は、意思決定を複雑にするので現実的ではない。
東アジア首脳会議(サミット)はまずインドやオーストラリア、ニュージーランドを交えた上で協力の地固めをすべきだ。米国に参加してもらうのはその後になろう。
[5月26日/日本経済新聞]
一覧へ戻る >>
Copyright 2005 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.