─それぞれのソーシャルビジネスの取り組みの現状を伺いたい。
熊野:アミタは非鉄金属の1次問屋からスタートした。第2次石油ショックを機に資源リサイクル事業を立ち上げ、現在は攻めのCSR企業として持続可能社会の構築を目指している。具体的には廃棄物を資源としてよみがえらせる地上資源事業、環境のリスクを低減する環境ソリューション事業、自然資産の活用を目指す自然産業創出事業などを手がけている。また「部分最適ではなく全体最適を提供する」という企業思想を基に、各業態の環境負荷低減への取り組みを展開。その一環として、森林認証、漁業認証の審査サービスを実施している。
ホール:ダノンでは創業以来、「できるだけ多くの人に、食を通じて健康を届ける」を使命と考えている。そのための取り組みとしてフランスの銀行と共同で投資ファンドを設立。その資金の10%をソーシャルビジネスに投資している。現在、5つのプロジェクトを展開しており、その1つがバングラデシュの「グラミン・ダノン」で現地の人の健康改善に貢献している。現地で取れる原材料によるヨーグルト生産事業で、現地の人が実際に参加し、毎日給料を稼ぎ、生活向上に貢献できる形を目指している。重要なのは収益ではなく、現地の平均給与を上げること、多くの人がこのビジネスモデルに参加できるようにすることだ。
新田:ユニクロでは今、バングラデシュで「グラミンユニクロ」という合弁会社の設立を準備中。衣服を現地で製造・販売するビジネスモデルで、雇用機会を増やし自立を促すことによって貧困や不衛生などの問題を解決することを目指している。具体的には、農村部などに入り込んで人々と一緒に生活しながらニーズを発掘、商品企画をして、素材から縫製、販売まですべて現地の人の手で行う。地元の工場とタイアップして余剰生地を安く調達するなど、現地に受け入れられる価格実現に努めている。1年目に10万点、3年後に100万点の販売を目指すが、あくまで現地の生活改善が最優先のテーマだ。
山口:マザーハウスは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を目標に2006年にスタートした。バングラデシュの大学院に留学した際、国際援助が求める人に届いていないことを実感、またいいものを途上国から発信することがその国のイメージ展開につながると考えたのが設立のきっかけだ。現在、バングラデシュとネパールに工場を持ち、日本に6つの直営店舗を展開している。主な商品はバッグ。現地の人と一緒に企画デザインや製造を進める中で、時間をかけて人を育てている。やはりいい商品をつくるには、いい人材といい労働環境が必要。そのため給与も水準の2倍以上支払い、厚生面でも配慮している。
─企業としての収益性と社会的リターンのバランスについては。
熊野:社会的課題は先進国と途上国では違う。特に先進国では精神的貧困がはびこっている。そんな地球規模の問題を企業のポテンシャルで解決するのがGSRだ。社会のニーズを形にして顧客を見つけ、収益につなげるという意味で理念と収益は全く矛盾しない。
ホール:みな悩んでいるところだ。企業としては、株主から預かった大切な資金を投資する以上、十分なリターンを得なければならない。収益が出る形をつくり上げれば、再投資によって事業展開をスピードアップできる。結果として問題をより早く解決できれば、それは成功だと思う。
新田:ビジネスと社会の価値創出は両輪だ。ビジネス活動の結果としていい商品ができたり、より効率的な生産体制が生まれたりする。その成功を他の地域に生かせば、相乗効果としてビジネスに役立つし、社会的な価値も創造できる。
山口:社会的リターンを得るためには、経済的利益が必要不可欠だ。重要なのは持続的にオーダーすること。それにはきちんとした購買力を確保することだ。欲しいと思ってもらえる商品の企画・製作ができる供給体制を整え、国際競争力のある製品をつくっていかなければならない。
─ソーシャルビジネスを進める上での課題と、それをどう克服するか。
山口:社会的な理念と経済的な成功は本当に両立するのか疑問に思っている人は多い。それがソーシャルビジネス分野でまだまだプレーヤーが少ない理由だ。現状を改善するにはやはりモデルケースをきちんとつくること。それには自分たちが頑張らねばと思いつつやっている。
新田:正直、まだ本当に良い商品、お客様が求める商品がつくり切れていない。世界に向けもっと情報発信していくことも大切だ。ビジネスには拡大再生産が不可欠だが、世界中の多くの人たちを巻き込んでそれを可能にするような仕組みをつくっていきたい。
ホール:地域にいる人たちの生活がよくなっていく仕組みづくりを進めているが、それは1民間企業では難しい。10年前ならダノンとユニセフがパートナーシップを組むというようなことはあり得なかったが、今後は政府やNGOなどとのコラボレーション展開を考えていく必要がある。
熊野:社会事業を行う上で最も重要な要素は人。しかし会計上、モノとカネは資産だが、人は経費になる。欧州連合(EU)などでは非財務指標でCSRの公表を義務化している国が多いが、日本にも企業の価値としてCSRを評価する基準が必要だ。生協のように「共感市場」をつくることに出資するという形を洗練させ、社会的企業として新しいビジネスモデルを構築したい。
環境、貧困など地球規模の解決を要する問題が山積している。企業はこの問題の解決に何ができるかを問うのがGSR研究会だ。シンポジウムではGSRとソーシャルビジネスの連携に光を当てた。突っ込んだ議論が行われたのはよかったと思う。今後もいろいろな角度からGSRという企業の行動基準を考えていきたい。
