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原 良也氏
大和証券グループ本社社長兼CEO
【冒頭挨拶】
大和証券グループ本社の原でございます。
本日は、このような機会をいただき、光栄に存じます。

【日本のゼロ金利がおよぼす海外投資の動向】
現在、日本の証券会社では、オーストラリアが大変な話題になっています。と言いますのも国内個人投資家の皆さんの間で豪ドル建て債券投資の一大ブームが起きているのです。世界の為替取引の65%を占める米ドル、ユーロという二大通貨建ての資産への投資であれば、これは当然でありまして、話題にもならないのでしょうが・・・。

この背景には、日本の個人投資家の皆さんが、長きにわたる低金利の状況下で少しでも有利な運用を求めて、外貨建て資産への投資に積極的になってこられた現実があります。本来、個人投資家の皆さんは、投資商品に対する選別の目がとても厳しく、リスクに敏感な方々です。このブームは、豪ドル資産に対する高い信認と将来への期待の表れなのでしょう。たとえば大和証券では外貨建て債券の残高が、この2年間で、2.5倍になっています。うち豪ドル建て債券は10倍にもなっています。

もっとも、個人金融資産に占める外貨建て資産の割合はまだ1%、金額で13兆円程度に過ぎません。外貨建て金融資産への投資は、まだ始まったばかりなのです。私は、将来的には金融資産の10%、現在の金融資産で言えば、140兆円ぐらいまで増加していくものと考えております。オーストラリアは、その健全な財政、安定成長を続ける経済から、トリプルAの格付けを取得しています。その上、金利水準にも大変魅力のある豪ドル建て資産への投資は、今後、ますます拡大することになるでしょう。

【大和証券グループとオーストラリアとの関わり】
当社は、1985年に、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)との合弁会社をメルボルンに設立し、オーストラリア資本市場に本格的に参入しました。89年には全額出資子会社とし、現在、引受け、ブローカレッジ業務を中心に証券業務を展開しております。

その間、80年代後半には、世界最大の資源会社BHPと、世界有数のメディア企業ニューズコープの東京証券取引所上場の主幹事を務めたほか、90年代後半には、通信会社テルストラの民営化に際してのグローバル・オファリング(世界同時売出し)で、日本における公募主幹事を務めました。また、投資信託では、当社が、「パン・パシフィックファンド」という株式投資信託を1986年に日本で初めて販売したほか、現在、個人投資家の皆さんに大変ご好評頂いている、毎月分配型の豪ドル建て債券投資信託も初めて開発いたしました。

BHPやニューズコープのようなオーストラリアの有力企業の多くは、早くから国外に目を向け、グローバルな成長戦略や資本調達などあらゆる面で国際化を遂げていたと言えましょう。

当社は昨年度に、約4,000億円の豪ドル建て債券の発行をお手伝いいたしました。冒頭に述べました日本の豪ドルブームは、オーストラリアの州・企業の資金調達にもお役に立っています。ちなみに、日本の個人投資家が保有する豪ドル建て債券の資産額は、およそ1兆7,000億円と推計されます。また、同じく豪ドル建て資産で運用する投資信託の残高は、約5,700億円、合計で2兆3,000億円が豪ドル建て資産に投資されていると推計できます。

【アジア・オセアニア経済圏の形成と資本市場の役割】
さて、これからの日豪両国のパートナーシップはどうあるべきか、何を考え、また、実行していかなければならないのでしょうか。

経済のグローバル化、企業間の国際競争が激化する一方で、地域経済圏、ブロック経済圏といったものの形成が急速に進展しています。これは、経済的な面では、もはや一国レベルではなく、近隣諸国との共生、さらには経済統合によって、競争力の優位性を獲得していこうという国家政策の証左であります。皆さんご存知の通り、EU(欧州連合)は、その最たる先例でありましょう。日豪両国が位置するアジア・オセアニア地域もまた、経済的には否応なしに一つの地域経済圏という枠組みになると言わざるを得ません。

現在、EU、米州、そしてアジア・オセアニア地域の3つの地域は、基本的な経済力に関してほぼ拮抗しており、この状態が今後30年程度続くといった分析もあります。この3つの経済圏のうち、特にアジア・オセアニア地域は、域内諸国の経済の発展段階のみならず、文化、言語、社会風土といった面で他のどの地域経済圏よりも多様であるため、一つの経済圏を形成していくために乗り越えるべき課題も少なくありません。しかしながら、3つのブロック経済圏を比較しても、その潜在性がもっとも高い地域であり、これからの取り組み如何によっては、最も競争力の高い地域経済圏になるのではないでしょうか。

この地域の主要国である中国の経済発展のスピードには驚くべきものがあります。当社グループでも、中国の企業と様々なビジネスを展開し、その規模、広がりが急速に拡大しております。私も仕事で中国を訪れる機会がありますが、訪中する度にその勢いがさらに加速していると実感しております。

この中国を加えた、アジア・オセアニア地域経済圏の成長・発展には、言うまでもなく更なる域内交易の拡充、活発化が求められています。EUにおける域内貿易比率は6割を超えると聞きます。

それでは、この地域経済圏内の貿易、通商をさらに進めていくためには何が必要なのでしょうか。私は、それらをしっかりと支える経済インフラ、とりわけ「金融・資本市場の整備」が不可欠であると考えます。1997年のようなアジア通貨危機を再来させてはなりません。わが国の個人金融資産に代表されるような域内の潤沢な貯蓄をスムーズに、高い成長性をもちながらも資金を必要としている域内の国々や企業に供給し、そのなかで還流させる仕組みがない限り、域内の交易の活発化も、持続的な成長も実現しません。

今、域内資本市場のインフラ整備が大きく進もうとしています。日豪も重要なメンバーである「東アジア・オセアニア中央銀行役員会議」(EMEAP)や、ASEANプラス3の財務相会議では、「アジア債券市場」の創設に向けた取り組みが急ピッチで進んでいます。このアジア債券市場の創設については、将来の経済統合、共通通貨の発行を視野に入れた、アジア地域のバスケット通貨建て債券の発行も予定されています。

アジア債券基金の創設やアジア信用機構の設立など、様々な具体的施策が検討されていますが、このアジア債券市場の創設に向けて、日豪が積極的な貢献をし、域内の本格的な債券市場の基盤作りをともに進めていくべきではないでしょうか。

また、債券市場と対をなす株式市場を見てみますと、オーストラリア証券取引所における様々な先進的取組みが、大いに注目されます。オーストラリアの株式市場は、国内GDPとほぼ同等の時価総額を有し、通信、金融などサービス産業をはじめ、様々な業種の資金調達の場として有効に機能している魅力的で、洗練されたマーケットです。

豪州では、87年に各州に存在する6つの取引所がオーストラリア証券取引所の名のもとに1つに統合されたほか、98年10月には取引所が会員組織から株式会社に移行するとともに、世界で初めて、自らの市場に自社の株式の上場を果たしました。これらは、国内に厚みのある証券市場を構築する、上場会社の模範となるような取引所自体のコーポレートガバナンス体制を整えるといったものがその狙いであります。また、証券取引のコスト低減や効率化を図るために、99年には全面的な株券のペーパーレス化といった決済制度の改革も実現しています。

地域経済連携の観点からは、オーストラリア証券取引所とシンガポール取引所が、クロスメンバーシップと言われる証券取引所の会員権の相互開放を一昨年末に実現しました。クロスメンバーシップとは、両国の取引所会員業者に、それぞれ相手国の取引所での取引資格を認めて、クロスボーダーの株式取引を活発化させようとする仕組みです。現在、東京証券取引所でもこの両取引所のクロスメンバーシップを参考に、両取引所をはじめとするアジア・オセアニア諸国の取引所とのリンケージについて検討が進んでいると聞いております。

このようなオーストラリアの先駆的な改革の実例を見ますと、それらが、日本国内の制度改革やマーケットのあるべき姿に大いに示唆を与えることはもちろん、これからの域内全域におけるの資本市場のインフラ整備、プラットフォームの共通化といったところに、日豪両国が様々な技術的な協力を果たしていくことができるものと思います。

【結論】
世界経済は、国と国との競争から、地域経済圏レベルにおける競争の時代に入りつつあります。域内経済圏の競争力の源泉は、モノ、サービス、ヒト、資金、情報といったあらゆる面における制度インフラの発展度合いによるところが非常に大きいと思われます。

「金融・資本市場の整備」が不可欠であると私は申し上げました。その具体的な施策の例として、アジア債券市場や共通通貨市場の形成、さらには取引所間のリンケージについて触れましたのは、このような取引メカニズムの共通化、あるいは市場そのものの単一化が、何よりも資本取引、通貨取引にかかるコストの大幅な低減に繋がるからです。

「交換、ヘッジ、金利」といった金融取引にかかるコストを徹底して低減する。これこそが、これからのアジア・オセアニアの金融・資本市場、ひいては地域経済圏の産業競争力の源泉そのものなのです。金融というお金の流れは、すでにボーダレスに展開しています。また、その流れは、貿易といった各国の通商政策そのものを支える基盤です。日豪両国が、その制度金融について、いろいろなアイディアを出し合う、そして、域内諸国と連携しながら「アジア・オセアニア地域共通の金融・資本市場の枠組み」を創っていく。これが金融先進国である両国の役割であり、使命ではないでしょうか。

皆様ありがとうございました。

以 上
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