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トレーサビリティー(追跡可能性)」に関する論点
〜世界情報通信サミット・ネット会議及び3月31日の月例会を受けて〜

慶応義塾大学の國領二郎教授  
トレーサビリティーについて議論した月例会(2003年3月31日 (月)・東京都千代田区の新丸コンファレンススクエア)  
無線ICタグの実用化で「物理的な世界とデジタルの世界の融合」が一気に加速。モノや情報をどこまでも追跡できる「トレーサビリティー」が注目を集めています。我々はこれまでのPCとWebを中心とするインターネットではできなかった様々なアプリケーションに夢を膨らませる一方、インターネットやIT社会をめぐる未解決の問題が、より顕著な形で提示されることになったという事実にも真剣に取り組んでいきたいと考えています。

最も重要な課題として誰もが直感的に意識する「プライバシー問題」は、ユビキタス時代にどうしても避けて通れない議論です。一方、今はまだ、新しい技術の「マイナス」の部分をさほど強調すべきではない、との意見もあります。ではどの程度のマイナス面であれば許容範囲なのか?という基準も存在しません。確かなことは、トレーサビリティーが実現することによる世の中の変化があまりに大きく、起こり得るメリットとデメリットの全体像を、今の時点で誰も示してくれていない、ということです。

日経デジタルコアでは今年中ごろをめどにこの問題の全体像を描くことを目標に、技術、法律、ビジネス、ユーザーなど様々な立場からの参加者で議論を重ねていきたいと思います。

これまで、1月末からのネット会議、3月31日の月例会での国領二郎慶大教授の問題提起によるブレーンストーミングで、この問題についての論点がいくつか出てきました。以下に「利用イメージ・ビジネスモデル」「プライバシー」「技術・標準化」の各視点に分けて、これまでの主な意見を掲載します。まだまだ議論の濃淡がありありますが、まずはこれらの論点を共有し、今後具体的な議論を進めていきたいと思います。

日経デジタルコア事務局

…利用イメージ・ビジネスモデル
…プライバシー
  ─所有権が移った時点で、情報のコントロール権も移るべき
  人間の認知能力の限界を超えた情報環境
  不正使用を法律で取り締まることは可能か?
  IDと個人情報とプライバシー侵害…何が本当の危機なのか?
  ビッグブラザーからリトルブラザーへ:万人が万人を監視する社会
…テクノロジー・標準化

利用イメージ・ビジネスモデル

応用範囲の多様性が究極の魅力
  • ロジスティクス、資産管理、食品・医薬品安全管理、リサイクルなど。
  • 宝探しなどの「遊び」にだって使える。
  • PCなど大学の備品管理の悩みから開放される。
  • 温度・湿度センサーが周囲の情報を記録すれば在庫管理に役立つ。情報を収集するタグの普及に期待。
  • レシートにICタグを入れ、冷蔵庫で読み取って食品管理。
  • 音楽CDに個人が後付でIDタグをつけて管理。
  • むしろ無線ICタグのみを購入し、音楽データはサーバーから認証を受けてその都度ダウンロード。
  • 個人利用に関する学生のアイデア「身の回りの物にタグをつけておき、玄関のセンサーを通過するときに忘れ物があれば教えてくれる」。
  • 消費者が「モノ」と「知識」のトレースバックをできるように。料理する時、携帯電話などで「生産者、飼料の種類、屠殺地、加工地…など、バリューチェーンの川上まで、追いかけられるとよい。一方で、モノの処理に必要な「知識」(この場合はレシピなど)についても同時に検索できることが重要。ただ、競合他社に生産情報が見えてしまう可能性もある。
  • 個人利用は当面進まない(需要不足、コストとセキュリティー面で)。企業や国が先に使い出すだろう。
「可視化」できることでパワーバランスが変わる。
  • POS、バーコードが、「目に見えなかった」商品流通を見えるようにし、チャネル間のパワーバランスを崩し、川下の力を増大させた。無線タグはそれを一段進めて家の中まで可視化することになる。これは何をもたらすのだろうか。
個別商品の「差異化」によって利益を生む仕組みも考えられる。
  • 商品の一つ一つがユニークなものになりうる。差異は利益の源泉。(例:「xxファームのxx番の木で取れた果実を○○さんが絞ったジュース」)
コスト回収のためのビジネスモデルを描けるか?
  • バーコードより高価な無線ICタグ導入のインセンティブは?
  • 「タダノリ」可能〜タグ付けのコスト負担者と受益者のバランス。
  • しかしタグ読み取り防止技術を外す行為を違法とする規制が出てくるかもしれない。
  • 無線ICタグは日本の競争力を高める。今は普及を第一義に考え、タグの利用をオープンにすべき。
  • タグ導入のコストメリットは、店頭のみならず流通全体のコスト削減効果を考慮しないとわからない。コンビニの店員は半分以上の時間を在庫管理などにつかっている。セブンイレブンは人件費と在庫管理で年間数百億円の経費がかかっているらしい。この部分の合理化効果は大きいはず。
  • タグの生産価格は、ロットが保障できれば安くなるだろう。ウォルマートはタグ1つ10セント近くで実験。1つ「何十円」の単位に落ちてきている。
タグに付随する情報の洪水に、利用者の判断能力が追いつかない。
  • 例えばタグが食品の生産場所を表示しても、地名で品質を判断できるか。与えられた飼料が明示してあってもそれが何を意味するものか消費者に判断できないだろう。表示情報そのものの信頼性はあっても、情報をもとに判断する能力が追いつかないのではいかがなものか。
  • 難しい単語から、解説のある辞書などにリンクさせておくなどで解決できると思う。
  • その商品の価値を総体的に把握したい人には、それらの個別情報をトレースする必要はない。むしろ邪魔になる。こういう人にどう対処するか。
公正競争上問題はないか。
  • バッタ屋が成り立たなくなるなどが考えられるが、問題が起きるのではないか。
プライバシー

所有権が移った時点で、情報のコントロール権も移るべき

管理範囲を超えたらIDを消すようにしたい。
  • 例えば店を出るときに消すデータと、残しておくデータを分ける。製品番号は管理される範囲を出たら消す。シリアル番号は残しておいて良い、などのルールをつくってはどうか。
  • シリアル番号だけでも、精度は低いがある程度は追跡できるかもしれない。ただ、「これはペットボトルである」という属性だけ残してあと消すということはできるだろう。
  • 5W1H情報とイベント情報をどう切り分けるか。消費者への情報開示も重要。
  • タグを無効にするために「レンジでチン」しないといけないのか?
発信機能、デフォルトはオフ。「後でオン」にできるような仕組みでないと受け入れられない。
  • 意識しなければオフにできないコントロールはユーザーに不利。デフォルトがオフ。後からオンにできるようなシステムにすべき。本の万引き防止も、本屋で買ったらオフにしたい。善意に期待するしくみは無理ではないか。
  • 書き込み可能なRFIDもあるので、書き換えてしまえばよい。ただ、コストが上がる。
別の名目でタグがついてきて結果としてタグに囲まれる、という事態も想定される。
  • リサイクルや薬の管理目的で実際導入が始まっている。リサイクルという名目でペットボトルにタグが入っていても、「事実上」追跡可能な状態になる。公的な目的のものはなおさら避けられない。
IDを自分で変えられるようにできないか。
  • IDはワンタイムで、変更可能なIDにしておくべき、ということを法律で規定できればよいが。
  • ボタンがついていて、変えたい時にIDを何度でも変えられるようにすればどうだろう。Webのクッキーと同じように、番号を変えたとたんにサービスをストップできるようになる。
シリアル番号をグローバルユニークにして管理する方が安全か。
  • シリアル番号をランダムかつグローバルユニークなものにする。オートIDセンターではそうなっている。
  • データベースを一つにして、アクセスログをとれば犯罪をトレースできる。
  • アクセスの際になりすましされる危険はある。
IDを2048ビット程度長くすれば手元で番号を変えてもグローバルユニークなIDになるのでは。
  • PKIは1024ビット。偶然同じIDが存在しても問題にならないくらいランダムにしておけば、ID管理のためのセンターもいらない。ボタンを押してその場で発行。当然万引き前にそれが可能だと意味がないが。
ダミーのIDを一人が一万個くらい持っていたら不正読み取りを防止できる。

人間の認知能力の限界を超えた情報環境

タグが貼ってあるということをユーザーに明示すべき。
  • RFIDは無線で見えないもの。情報弱者に対して、何がついているか、どういう処理がなされるのかを明示する必要がある。
  • オートIDセンターではRFIDをはったことを明示する、というルールになっている。
  • 明示できない場合もあるだろう。いくらタグのプライバシーポリシーなどを宣言しても、タグが遍在し、使う側が意識・理解できなければ意味がない。
ユーザーがもっと直感的に判断できるインタフェース必要。
  • タグがついていることのメリットとデメリットをその場その場でユーザーが確実に判断できるような仕組みがつくれないか。
個人情報の自己コントロール権が全ての場合で正しいとは言えない。
  • 「個人の判断にゆだねて同意を取る」というこれまでの手法が通用しなくなってきている。監視カメラも同意をいちいち取っていたら意味がなくなる。同意が個人情報保護のキーワードとして重要だが、同意が取れない場面でも守るべきものを守る手法考えよう。
  • DMがくるのはいやだ、というのならDM禁止法を作ればいい。ひとつひとつ、利用シーンを議論すべきだろう。
不正使用を法律で取り締まることは可能か?

RFIDは個人が気軽に使えるため、法律で不正使用を制限することが困難。
  • 今までになかったのは「オープン化」問題。汎用機としてRFIDセットが使えるようになるだろうが、法律で規定される「個人情報取り扱い業者(5千人以上)」にあてはまらない、小規模の通信は法律で縛れない。一人一人が一人一人を追跡できる。音楽の楽曲紹介サイトもボランティアでやっていたのが大きくなった。
  • 無線LANのアクセスポイントを検出するボランティアの地図づくりサイトがある(「ワールド・ワイド・ウォードライブ」)。既に2万5千箇所のアクセスポイントが集まっており、今後さらに増えるだろう。このように、個人単位では小さな力でも、ネットで終結されると大きな影響力を持つこともある。家の前にリーダーを置いたりして集めた個人情報を集約するサイトが出てくるなど、今は想定しえない脅威が生まれるかもしれない。
  • 銃は普通皆持ってない。それは不法所持の罰則が厳しいから。無線ICタグの不正利用についても、しっかりした処罰システムがあればよいのでは。
  • 銃は売る方も規制している。
  • 実際無線リーダーは誰でも作れるという意味では無理だろう。
  • 「ユビキタスの未来」を語る人は街中センサーで埋め尽くされた新しい未来型サービスの「楽しさ」を強調する。彼らは、センサーの取締りに反対しそうだ。
IDと個人情報とプライバシー侵害…何が本当の危機なのか?

IDそのものは個人情報ではない、という人もいるが、どこかでそれらが関連付けられるため、問題はある。
  • ベネトンが服にRFID付をけるという。ホテルなど住所指名を記入せざるを得ない場合で服もスキャンされると、IDと服の情報が結びついたとき、服の情報から今度は人のIDがわかり、トレース可能になるかもしれない。
  • Suicaで二重課金問題が発生した際、SuicaのID番号が駅に掲示された。もしSuicaをコンビニなどでも使うようになって、その人のIDを知った店員が別の駅で掲示された番号を見つけると、その客がその駅の利用者とわかってしまう。確かにIDはどこにもついているが、電波で飛ぶということが問題。
  • おそらくタグがついていて情報を取られたり効率よく処理される承認の方が安く提供されるだろう。プライバシーを売るという考え方もある。経済的問題として考えることはできないか。
個人情報保護とプライバシー保護は別物。個人情報そのものはプライバシーではない。名寄せして集めたり不正利用した時点で侵害となるのだから、個人情報の活用全てに反対するのは新たな技術や産業の芽を摘むことになる。
  • どういうことをしたら誰が泣くのか、誰がどう血を流すのか、をつきつめて考えないと、単純に個人情報が絡むものはすぐやめよう、ということになる。技術の進化を止めるのではなく、まず本当に危険なモノを見極めよう。
  • 一方で、これは単なるIDだから危険じゃない、という「雑」な議論もあり、両極端。
「ここまでなら権利侵害にならない」というコンセンサス作りは可能か。
  • 基準は個人の価値観によっても変わるので線引きは難しい。しかし、技術で何がどれだけ危険か、素人にはわからないから判断もできない。
無線ICタグがついているのは「ただなんとなくいやだ」という消費者の心理を尊重しなくて本当にいいのか。
  • いやである、という明確な理由はなくても拒否できるはず。むしろタグの導入側にメリットの説明責任があるのでは。
意図を持って犯罪者が埋め込まない限り本当の脅威はあるのだろうか?
  • 今はよくても、後から悪用することができる世界が来るかもしれない。
ビッグブラザーからリトルブラザーへ:万人が万人を監視する社会

既に今携帯電話でも位置情報を取られている。無線ICタグだからといって心配しすぎているのでは?事業者はそんなに信用できないものなのか。
  • 携帯電話はクローズドな技術で数社の信頼できる事業者がやっているから許されるが、無線ICタグは万人が管理できる世界。ビッグブラザーに全て管理してもらったほうがむしろ安心だ。しかし誰もが参入できる無線ICタグでは、信頼できるところとできないところをどうやって確認するのか?
  • 病院など重要な情報を扱う場所が信頼できるかどうか。CRMをやっている会社が実は名簿屋だったりする。これらの行為は法律で厳しく罰則する必要がある。 情報を取ることが目に見えないため、悪意を持った人が乗り越える壁を低くしている。顔の見えない犯罪者を生みやすい。 自分が持っているタグを全て発信不能にする機械が必要では。万引きできてしまうが。
IDによる過剰な管理は消費者に受け入れられないかもしれない。議論より、まず運用しないと問題が顕在化しない。
  • インテルが全てのチップにシリアル番号をつけてOSと関連付けることで違法コピーを防ぐ方法は、業界から反発があった。フェアユースができなくなることは結果として消費者から嫌われるかもしれない。運用しないと問題がわからない。一般消費者巻き込んだ後には簡単に解決できないので、業務用でまず使ってみたらどうだろう。
  • それまで待つのかおっかなびっくりやってみるのか。
テクノロジー・標準化

標準化一つとってもいろいろなレイヤーがある。
  • タグの物理的な仕様、タグにどんな情報を格納するかといったことなど。
タグ読み取りの精度で効果は大きく変わってくる。
  • 信頼性の問題。99.9%の認識率でも後から2重チェックするコストを考えると0.1%でも大きい。
  • 皿のICタグで清算する寿司屋では、皿の下に銀紙はると大丈夫と聞いた。
  • 寿司屋は総枚数をチェックされているので皿を隠すしかない。
  • 電波が回り込むので皿を銀紙で覆うことになるが。
  • セキュリティーと同じで、100%安全が保障されなければ導入しない、というのでは技術は全く普及しない。99.9%でも採用するという判断はありうる。個別のエラー率ではなく、システムとしてのコストパフォーマンスの問題だろう。
新しい技術を前提に議論すべき。
  • 今の寿司屋は古い技術を使っているので精度が低い。エイリアンテクノロジー社のUHFタグだと、日本では使えないが、1ワットで2メートル読める。アメリカは4メートルまで読める。これを使うと、棚にしかけなどなくても、スキャンで読める。
  • Suicaの技術も古い。1ワットでも周波数次第で部屋全体はスキャンできる。数年先は距離の長いRFIDになるということを前提に議論すべき。
タグの大きさと飛距離の問題。周波数は高ければよいというわけではない。
  • タグは2種類に分かれる。一つは近づけてスキャンするもの、もう一つは流通業などで使う、1〜2メートルはなれてスキャンできるもの。後者はいくらチップが小さくなっても、名刺大のアンテナが必要。将来的にも小さくて1メートル飛ぶ、というタグは無理。
  • タグはモノのどこについているか一定ではないので、電波はモノの周りをスキャンする。周波数が高ければよいというものでもない。
周波数割り当ての国際的な問題。
  • 米国、ヨーロッパでは800-900MHz帯を物流などに使用予定。日本はその帯域が携帯電話などで埋まっている。
  • アプリケーション次第で必要な周波数帯は変わってくる。
End