日経デジタルコア・CANフォーラム共同企画「地域情報化の現場から」


 「ところ変われば品変わる」−−という言葉があるが、野山にある、タダの葉っぱが、都会の高級料理店でツマモノとして使われる。それを情報ネットワークで結んでビジネスにし、さらに高齢者や女性の「やりがい」につなげた町がある。

 徳島県勝浦郡上勝町。徳島駅から車で1時間のところにある、人口2,200人程度の小さな町がそれだ。年間販売額2億円超に育った「いろどり事業」を町の産業として確立した背景には、独自の工夫による自律的な供給調整のしくみと、「いろどり事業は福祉事業」と語るJA出身の横石知二氏(現・第三セクター「株式会社いろどり」取締役)の存在があった。

 上勝町は地域資源の有効活用と雇用確保を目的に第三セクターを活用しているが、その一つがいろどり事業を推進するために1999年に設立された株式会社いろどりである。上勝町が70%を出資している同社は上勝町役場の一角にオフィスを構え、取締役の横石氏を含めた3人の社員でいろどり事業の心臓部である情報ネットワークシステムの運用や、受注情報の管理や情報発信による市場開拓など、当事業の実質的な運営を一手に引き受けている。

CATVをADSLに乗り換えた町

上勝町の棚田   上勝町役場  
美しい上勝町の棚田と上勝町役場

「この料理についている葉っぱ、かわいいね」「持って帰っちゃおうかな」−−。
女性の何気ない一言を耳にしたとき、横石氏は「葉っぱという資源」が身近にあることに気がついた。

 上勝町を訪れると、まずはその美しい自然に魅了される。総面積109.68kuの85.1%を山林が占め、耕地はわずか1.9%という典型的な山間の町だ。山間地であることから上勝町は棚田や段々畑が多く、一区画が狭く機械化が困難だ。高齢者(人口の45%が65歳以上のお年寄り)にとっての農作業は重労働だ。
 上勝町はもともと木材とみかんの産地として発展してきたが、木材市場の衰退や異常寒波によって大打撃を受けた。またみかん栽培は重労働なため、高齢化が進むにつれ生産農家が減少していた。これに危機感を抱き、新たな産業の開発に立ち上がったのが当時農協職員だった横石氏。横石氏はしいたけやキウイフルーツなど様々な農産物の生産に挑戦した後に、ある都会の料理店で耳にした会話からツマモノに目をつけた。

   
ツマモノと使用例 (株式会社いろどり提供資料)  

ツマモノとは、葉類(紅葉、柿、南天等)や花類(梅・桜桃等)、笹葉で作る器や箸置き、ユキノシタや葉わさびなど食用の山野草、プリムラや金魚草などの食用花、松葉や稲穂などで作った祝膳用の飾り物などのことで、同町ではツマモノを「彩(いろどり)」というブランドで出荷している。

 

生産農家さんと談笑する横石氏(右)  
素人目には分かりにくいが、これもツマモノ畑である  

 上勝町にたくさんある葉っぱが産業として確立できれば、町を救うことが出来ると考えた横石氏は、1986年に数軒の農家の協力を得て試験的に出荷を始めた。当初は葉っぱが売れるなどは夢物語にしか思われなかったが、横石氏の研究と栽培技術の向上により上勝町の葉っぱの商品化は成功、ツマモノという産業が生まれたことで、町の約9割を占める山林が宝の山となった。

地域の情報化に賭けた会社

ツマモノが事業として成り立つには主に2つのポイントがある。まず1つめは、商品開発だ。ツマモノは料理に添えて季節感を演出するものであり、色かたちに洗練された美しさが求められる。さらに季節感を出すには季節をやや先取った時期の出荷が必要であり、自然に任せた生産では商品にならない。そこで横石氏は、器にあったツマモノの大きさ・美しさ、季節感の表現方法等の商品知識やノウハウを習得すべく、約2年間料亭に通いつめた。その研究と農家の努力による栽培技術の向上の結果、葉っぱはツマモノという付加価値商品として顧客に受け入れられるようになった。

  2つめは適切な生産体制の確立だ。ツマモノビジネスにおいては、需給のマッチングが成功して初めて市場が生まれる。例えば消費者が南天が欲しいと考えている時、紅葉の葉は何の意味も持たないが、南天であれば多少高値でも購入する。かといって必需品ではないから、あまり高価だと敬遠されてしまう。さらに需要以上に南天を供給するとこんどは値崩れし、皆の利益が少なくなる。絶妙なバランスの上にこの市場は成り立つのである。そんな中で売上げを上げていくためには、消費者が欲しいタイミングで、欲しい商品を、適切な量だけ供給できる体制を確立することが重要だ。そのためには市場の出荷量や商品ミックスに対するニーズに柔軟に応じられ、しかも供給するタイミングや量を調整する機能が必要である。上勝町では、この体制を独自の情報インフラ「彩ネットワークシステム」と、その上で提供される情報によって実現している。

補助金制度で県も後押し

  ツマモノの出荷までのプロセスはこうだ。
  市場から上勝町のJAに入った注文は、「彩ネットワークシステム」の同報ファクシミリ機能を使って全生産農家に対し一斉に送信する。注文に応じられる生産農家は電話でJAにエントリーし、先着順で注文を取り付ける。エントリーをした農家は、必要なツマモノをケース詰めし、生産者番号と商品番号のバーコードをつけ、その日のうちにJA上勝の選果場に自分で持って行く。選果場ではスタッフが無線ハンディターミナルでそのバーコードを読み取り、出荷情報として「彩ネットワークシステム」上で管理・共有する。ツマモノは選果場から専用トラック「彩号」と航空便で京阪神や首都圏の消費地市場に運ばれ、翌朝の競りにかけられる。競りが終わると入札価格が「彩ネットワークシステム」に入り、各出荷者の売上が確定する。

ツマモノ出荷風景   ツマモノ出荷風景  
ツマモノ出荷風景

  この彩ネットワークシステムにはいくつかの注目すべき点がある。
  まず生産農家を訪れて驚くのは、高齢者がパソコンを楽々と、それも嬉しそうに使いこなしている姿だ。
  ツマモノ生産を担う高齢者に、馴染みにくいパソコンをどうしたら使ってもらえるようになるかが大きな課題だった。そこでシステム構築を担当した宝城通信株式会社は、入力デバイスとインターフェースの改良と、頻繁なユーザー講習会で対応した。入力デバイスについては、トラックボールと数字のテンキーだけを抜き出したキーボードを特注した。この特製入力デバイスは、操作方法が分かりやすくパソコン初心者でも使いやすい。
  さらにパソコン画面の表示にも工夫をこらし、IT(情報技術)の複雑なしくみを理解していなくとも直感的に操作が出来るようにしている。例えば、ログインすると自動的にイントラネットに接続するようになっていたり、文字が大きいことだったり、カタカナ語を排した操作ボタンなどだ。
  システムの使い方やネットワーク上で提供されるデータの見方などを理解してもらえるよう、講習会を頻繁に開催している。これらの努力によって「使えるシステム」を作り上げているのだ。

  上勝町役場  
特製デバイスとPCを使いこなす生産者。(株式会社いろどり提供資料)

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  しかし彩ネットワークシステムで特筆すべきなのは、「競争」を利用することでさらに一歩進んだ「使いたいシステム」となっている点だ。
  同ネットワークシステム上では激励メッセージやニュースを毎日更新して頻繁なログインへの動機付けを行っているだけでなく、生産農家にとってお得な情報がたくさんちりばめられている。このネットワークシステム上では、株式会社いろどりの提供する販売動向予測、過去の出荷数量と単価の比較表などとともに、各生産農家の出荷実績や市場でついた価格、また月の売上金額累計を順位付きで見ることができるのである。
  最初はパソコンに近寄ろうとしなかった高齢者も、パソコンが示すデータが自分の損得に直結していることを理解すると、今日の売上げはいくらだったのか、自分の今の売上高は上勝町中何位なのかを確認しようと、一日に何度もパソコンを覗くようになった。

 順位が分かると、今度はそれを上げたくなるのが人間だ。生産農家は頭とデータを使うようになった。ネットワークシステム上の販売動向予測や過去の出荷数量と単価のデータを参照し、「この状況であれば価格が高いが引き合いの少ない南天よりも、価格は低くても引き合いの多い紅葉を出荷した方が結果的に儲かる」や、「今は青紅葉の単価が高いから青紅葉に専念しよう」などの出荷戦略を各々が考え、実行する。その出荷戦略にあわせて生産計画も立てる。

 全体の状況が見える環境を作ったことで、特定のアイテムに出荷が集中して価格下落を招くということも少なくなった。つまり情報によって各プレイヤーが自動的に調整を行うようになっており、参加者全員の効用最大化、上勝町全体が儲かるような仕組みが構築されているのだ。
  他にも、市場からの注文に対するエントリーを「先着順」つまり早い者勝ちで受け付けていることも興味深い。生産農家は注文を知らせるファクスが流れると競い合ってエントリーをするため、生産農家にも集荷場にも活性が生まれる。注文の送信と同時にJAの電話が鳴り響き、にわかに活気づく風景は上勝町の日常になっている。

 公的事業はサービスの享受にあたり公平性が重視される。そして多くは受益者間の公平性も重視される。しかし上勝町のシステムは、機会の公平性を確保した上で「売上額の順位」「早い者勝ち」という形で受益者間に競争を持ち込んだことで、生産者間の程よい緊張感や活気を生みだし、品質の低下も食い止めている。
  受益者を保護ばかりしていると甘え体質が醸成されるため、事業としての持続性を保つためには透明性を確保した上での競争は有効なのだ。

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 このような洗練されたしくみは、当然ながら一朝一夕にできたものではない。
  「彩ネットワークシステム」の開発には、二つのフェーズがあった。
  第一フェーズとして、上勝町にもともとあった市町村防災行政無線設備と、家庭のファクシミリを生かしてネットワークを構築し、双方向に受発信のできる同報ファクシミリ・システムを開発した。この同報ファクシミリ・システムによって市場からの注文情報を生産農家に対して一斉に送信し電話連絡を受けて受注とする仕組みができ、注文に対する迅速で柔軟な対応が可能になった。

 このシンプルな仕組みは、インターフェースがファクシミリであることもありユーザーである生産農家に比較的抵抗なく受け入れられた。ツマモノの生産農家の担い手の多くはパソコンを触ったことの無い高齢者であるため、最初からパソコンなどの複雑なITデバイスを導入していればおそらくユーザーにこのシステムは根付かなかったであろう。また既存の公衆回線を活用することでインフラ部分への投資を小額に留めている。

 しかしシンプルであるがゆえに機能面でも限られており、情報の加工や処理という点では限界もあった。そこで次に第二フェーズとして、パソコンを利用したより高度な情報ネットワークシステムを構築した。
  1999年に当時の通産省から総額1億円あまりの実証実験事業を受け、集出荷ケースをバーコードで管理するネットワークシステムを構築するとともに、高齢者の多い生産農家でも操作ができるよう、ユーザビリティの高い専用デバイスと特製インターフェースを開発した。

 ネットワークシステム構築の際に重視したのは、「必要な人に、必要な情報を届ける」ということで、コンビニエンスストアのPOSシステムを参考にしたそうだ。このネットワークシステムによってツマモノの出荷情報の一元的な管理と活用が可能になった。
  この彩ネットワークシステムは、今まで山間部に散らばりそれぞれ孤立した存在であったツマモノ生産農家を繋げ、情報の共有と連携を可能にした。またネットワークシステム上でニュースなどの情報を日常的に得ることで、田舎の高齢者とは思えないほど社会全体の流れにも敏感になっている。

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  上勝町役場  
菖蒲さん宅にて、パック詰め作業風景

 このいろどり事業を担う生産農家の5割が60歳以上で、その多くは女性だ。
  もともと横石氏は上勝町の主な労働力である高齢者や女性ができる商売はないかと考えて、ツマモノを見いだした。トレー50個が指一本で持てるほど軽量で、トレー1つの末端価格が500円程度という高価がつくツマモノは、耕地面積が狭く大量生産のできない上勝町で高齢者や女性が扱うには最適だった。

 上勝町のおばあちゃんたちは、いろどり事業を始める前はみかん栽培などに従事していたが、重労働なうえ利幅も薄くお金に苦労することもあったという。しかし今ではツマモノの販売を通じてかなりの収入を得ており、月に100万以上を稼いだり、ツマモノの儲けで新居(通称「葉っぱ御殿」)を建てるお年寄りもいる。
  ツマモノビジネスを通じて、お金儲けの楽しさだけでなく社会の役に立てる喜びを取り戻した高齢者は活き活きとしている。頭と情報を駆使してお金を稼いでいる上勝町のおばあちゃんたちは、80歳を過ぎても非常に元気で若々しい。何よりほんとうに楽しそうな笑顔で仕事をしている。

  そんな元気なおばあちゃんの1人、菖蒲増喜子(しょうぶまきこ)さんは月に70万円を稼ぐ80歳。いろどり事業の初期から携わっている。
−いろどりの何が楽しいですか?
「仕事自体がおもろいんよ。どんな料理につけてくれるんかいなとか、どんな人のところへ行くんかいなとかいろんなこと考えてな。外でごはん食べててツマモノがついてくると気になります。これいいなとかこれ悪いなとか思う」と嬉しそうに話してくれる。
−いつまでいろどりの仕事を続けようと思っていますか?
「前は80歳まではやろうと思うとったけど、もう80やねぇ。そやねえ、生きてるうちはずっとかな。」

笑顔が素敵な美馬さん   笑顔が素敵な美馬さん  

笑顔が素敵な美馬さん

美馬フジエさん(78)は、TBSの「全国笑顔が一番大賞」の第二位に選ばれた生産農家のおばあちゃん。その肩書きに恥じない素敵な笑顔に思わず惹きつけられてしまう。
−いろどりをやっていて楽しいことは?
「ほらぁ楽しい(笑)荷物がな、きれいにできてお金が儲かるのがおもっしょうてかなわん(笑)。(品物が)高い時は何出そうか考えて朝の2時や3時までしよるわいだ、わはは(笑)。寝るまない(笑)」 
−いろどりをやっていてつらいこととかないですか?
「ほらぁ無い!あっはっは(笑)ほらぁ安い時くらいじょ。面白うてしゃぁないけんなぁ。(笑)全然ないわぁ。けんど何やな、畑の木を鹿が皮むいて食べたりして、みなやられてしもうた時はつらかったなぁ。もう大変じょ。食われんように柵張って対策しよる。」

西谷さんの葉わさび栽培ハウス   西谷さんの葉わさび栽培ハウス  

西谷さんの葉わさび栽培ハウス

西谷吉雄さん(62)は彩の葉っぱ類だけではなく、葉わさびも栽培する生産農家である。
−彩をやっていて楽しいことは?
「ほうじゃなぁ、市況を見る時とか、品物があいじょう(しっかり)できた時とか。まぁ楽しみって言っても何が楽しみかなぁ。彩も何じゃな、会社行っきょんと同じで、日に日にやんりょったら段取りとか分かるようになって、そういうとこかな(笑)やりがいって言うんかなぁ。どこいっても気になったり、夏やかい夜中でも風吹いたりしたら心配でなぁ。まぁ子育てみたいなもんやなぁ(笑)」
−彩の収入はどんな風に使っていますか?
「ほとんどほらぁ、生活費やけんど遊びにもちっとは (少しは)使うかなぁ(笑)けんど、分けては使わんでぇ?(笑)入ってきたらみな大体一緒やけん。(わはは)あんまり貯金もしよらんし、遊びって言うても機械もん好きやけん、パソコン買うたり、スポーツも好きやけん社交ダンスしたり、ソフトバレーの道具買うたりかな(笑) 最近は特に社交ダンスに凝っとうわ(笑)」

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生産農家さんと談笑する横石氏(右)  
生産農家さんと談笑する横石氏(右)

「自分のやったことが確実に自分に跳ね返ってくるという仕組みを作ると、人間は持てる力以上に頑張れるものです。いろどりを通して、今は何でも自分でものを考えるという習慣が町の中に広がって、よりよい循環に繋がっています。私が好きな考え方として、『人は誰でも主役になれる』ということがあります。一人一人が一番活躍できるものは何かを明確にし、それを演出してみると同時にその場面を作り出してあげることです。この『いろどり』という事業活動を通して、『ここでなければ出来ない商品が、自分たちにはある』という自信が町の人たちの心の中に生まれてきました」

 このいろどり事業の立役者である横石氏は、上記のように語る。
  横石氏は徳島市内出身、JAの職員としてここ上勝町に赴任しいろどり事業を育ててきた。「よそ者」だった横石氏は、地元の農家との信頼関係を築くのに3年はかかったが、逆にしがらみが無いことで思い切った策が打てたともいう。
  横石氏はこのいろどり事業での功績が評価され、32ヵ国で開催されている国際的な起業家表彰制度「Entrepreneur of the Year」の日本大会において、2002年の特別賞(ソーシャル・アントレプレナー賞)を受賞している。徳島県の地域活性化に貢献しているというのがその選出理由である。

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 地域の高齢者が活力と生きがいを取り戻し、元気な高齢者が増えると町全体も元気になる。いろどり事業への注目が高まるにつれマスコミに取り上げられることも多くなり、いろどり事業が町の自慢と自信に繋がった。高い収入を得る仕事のある上勝町にはUターン者やIターン者が多く、そのための町営住宅も完備されている。都会で働いていた息子がUターンしておばあちゃんのツマモノの仕事を継ぐというケースも、昨年度で4件発生しているそうである。
  この記事の読者の方々にも、ぜひ一度、上勝町に足を運んで欲しい。そこでは、ITが、経済が、地域の人の笑顔に繋がっているのだということがはっきりと見て取れる。誰のための、何のための情報化なのか。「人を笑顔にする情報化」とも言うべき事例がそこには存在しているのである。高齢化が加速する日本において、この事例は多くの可能性を我々に示してもくれる。


(国保祥子 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程)



評価と課題
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 「いろどり事業」を私が知ったのはNHKの番組だった。
  「なかなか面白いビジネスだ」と思いながら、表面的な映像だけだったので、「しかけ」が不明で、「こういう事業は永続出来るのか」と思ったが、国保さんのレポートをいただいて、疑問は解消した。
  なによりも、この事業は横石氏が「ツマモノ」という、高級料理店が欲しがるモノの素材が山間の町にふんだんにあることを発見したことが大きい。
  しかし、当然日本中の山村に紅葉も笹葉もあるわけだから、コスト競争、安定供給の競争に負ければ、即座に無くなってしまう。
  ここを商品の質と、受注即出荷の体制で上勝町は乗り切っているわけだ。
  何よりも興味深いのは、自分の売上高が町内で何位かがわかるとか、販売動向予測、過去の出荷数量と単価の比較表などの情報を株式会社いろどりが積極的に提供しており、それのよって、各生産農家が、戦略を持ちながら生産・出荷に参加していることだ。
  インターネットの運営は「自律・分散・協調」と言われるが、それに似た仕組みを取ることで、生産農家のやる気を引き出していることだ。
  私は、自著『マルチメディア組織革命』(1994年、東急エージェンシー刊)の冒頭にこう書いた。
 
  やる気を失っている人に、生気を吹き込むのは「責任」である。
情報を収集する自由と道具を与え、判断を尊重し、成果を配分することを告げれば、人は生き生きとして働く。
情報を与えず、責任もなく、成果の配分のルールもなければ、いい仕事はしない。
「心を燃やせるかどうか」−−経営の質、従業員の働きがいは、この一点にかかっている。

「いろどり事業」は、まさにその実例だ。
「地域情報化の現場から」では、情報の透明化によるサプライチェーンを成功させた鹿児島建築市場(第14回)や、畑の中にかんばん方式を持ち込んだ愛媛県の「からり」の事例(第17回)を紹介してきたが、「いろどり」も情報をふんだんに供給し、自律判断を助けることで、メンバーが活性化するという事例を見ることが出来る。
  横石氏が「人は誰でも主役になれる」というのは、お題目ではなく、まさにIT(情報技術)という土台があることでそうなるというお手本だ。
  片方に、ITの力、片方にそれで元気になった高齢者たち、その両輪がシナジー効果を出したときに、永続可能なビジネスモデルになっていくのだろう。
  つくづく、「地域活性化はアイデアと根気から」ということを考えさせられる事例だ。




(坪田知己=慶応義塾大学大学院教授/日経メディアラボ所長)


Data

<参考>
株式会社いろどりホームページ

注1)美馬さん、西谷さんのインタビューと写真は株式会社いろどりのホームページより転用
注2)横石氏インタビューはNPO法人教育倫理プラザ情報誌「響」第三号より抜粋



本企画記事の背景について
 e-Japan計画でIT先進国を目指す日本だが、地域でのIT化は置きざりにされている。過疎地にブロードバンドを提供する、地域おこしにITを活用するなど、現場での取り組みが重要だ―――日経デジタルコア事務局と、CANフォーラム(公文俊平会長)はこのような認識で一致し、地域情報化の先端事例を取材し、各地での実践の参考に供したいと考え、本企画を連載します。
月1回を原則に、現地取材を報告します。


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