日経デジタルコア・CANフォーラム共同企画「地域情報化の現場から」

第9回 地域ポータルサイト0563.net〜花火屋の親父が街を変える〜


 千葉県館山市を中心とする南房総地域で、IT(情報技術)による地域おこしが盛り上がっている。きっかけは市役所の地域情報化計画策定だが、そこに「よそ者」「バカ者」「若者」と自称するコネクター(人と人とをつなぐ人)が加わり、地域のITのプロたちが加わって、インフラ整備、地域コンテンツの充実、リテラシー向上(ITを活かせる人づくり)を三本柱に、大きなうねりになりつつある。人口減少を食い止めるため、地域をどう活性化するか――どこの地域でも抱える問題への解答が一つ出来つつある

335人が参加して「ネットデイ」開催

北条小のネットデイでは335人が力を合わせた
北条小のネットデイでは335人が力を合わせた
工事班の主力はお父さん達だ
工事班の主力はお父さん達だ
児童たちは「ネットデイありがとう」の絵を描いた
児童たちは「ネットデイありがとう」の絵を描いた
テスターで両端をテストする成端班の女子児童
テスターで両端をテストする成端班の女子児童
昼食はお母さんの作ったカレー.
昼食はお母さんの作ったカレー
  2003年11月23日。勤労感謝の日の朝。千葉県館山市の北条小学校に、三々五々、児童・父兄や地域の人たちが集まった。男性の中には作業着の人も。女性はエプロン姿も。計画が持ち上がって半年、子供たちが待ちに待った「ネットデイ」の日だった。
  9時からの開会式に続いて、工事班、成端班、受付班、昼食班、お土産班、託児救護班、清掃班、記録・広報班の8班に分かれてミーティング、早速作業にかかった。集まったのは総計335人。
  主役は工事班のお父さん達で、天井や壁にケーブルを張っていく。子ども達は脚立を押さえている。子ども達が多いのは成端班。ケーブルの端の被覆を剥いて、先をそろえてジャックに差し込み、専用のペンチでかしめる。両端をテスターでチェックすると完成だ。
  昼食班のお母さんたちは、大鍋でカレーを作る。45キロのお米が必要だったが、地域に呼びかけたら120キロも集まってうれしい悲鳴。お肉は校長の寄付。学校の畑で取れたニンジンも入れて豪快に煮ている。
  記録・広報班は、デジカメで作業の様子を撮って、ホームページ作りだ。「キャサリン、これわかんないよ」と声を上げると、班長の板東美砂子さん(あだ名がキャサリン)が飛んでいく。
  お土産班は、沖ノ島の海岸で拾った貝を磨いて紐を付けてペンダントにする。「これは世界にたった一つのプレゼント、ネットデイありがとう」と自筆のお礼状を添えて封筒に入れていく。
  事前に壁に穴を開けておくなどの準備が整っていたこともあって、作業は順調で、昼過ぎには最終チェックに入った。
  最後のケーブルの端にジャックをとりつけていた6年の渡辺祥広君は、線の先が不揃いで、「ダメだ。やり直しだ」真剣な顔でつぶやく。そばにいた父兄が、「待て、検査してみろ」とテスターを差し出す。それに差し込んで、テストランプの点滅を注視する。1から8まで、順々にオレンジのランプが点灯。「やった。大丈夫だ」と子ども達が歓声を上げた。
  午後3時過ぎには、体育館に全員が集まって開通式だ。各班の活動報告は子ども達が主役だ。1年生の女の子もお土産作りのおもしろさを話す。子ども達は、「ネットデイの歌」を合唱する。



北条小ネットデイの歌(「参観日のうた」の替え歌)

今日はネットデイだから、やったね!
ちょっとウキウキしてる だから
子どもたちニッコニコ 大人もニコニコ

今日は特別な日だから
とても活やくする お父さん
お母さん、先生、子どもも はりきるよ

北条小のネットデイだから
バッチリきめるつもりさ
たくさんパソコン使えるようになるね
ワクワクドキドキ ヤーッ

 (作詞 3年 佐藤真璃菜さん)


  最後に、6年生の羽山諒君が「これまではパソコンルームでしか繋がらなかったインターネットが、どの部屋からでも繋がります。お父さん、お母さん、地域の皆さん、ありがとう」と挨拶すると、感激で涙を流すお母さんも。
  仕掛け人の石井博臣さん(館山市教育委員会生涯学習課社会教育係長)も「こんなに盛り上がって、地域の人たちと子ども達が一体になれるとは思わなかった」と興奮の面持ち。安西迪彦校長も「創立130周年のこの学校にとって歴史的な日。皆さんのご協力に、感謝、感謝です」と父兄達とがっちり握手。

生みの親・育ての親は花火屋の親父

仕掛け人は館山市職員の
仕掛け人は館山市職員の
石井博臣氏だった
最後まで頑張った渡辺君
最後まで頑張った渡辺君
南房総IT推進協議会の理事長
南房総IT推進協議会の理事長
伏原氏
 この北条小のネットデイは、南房総地区では3校目。2002年2月に館山二中、2003年6月に小湊小で実施した。館山ニ中と北条小にネットデイを持ちかけたのは、石井博臣さん。子供が北条小の5年生であり、この学校なら、先生や地域の人の協力が得られると考え、2003年5月に安西校長に持ちかけた。
  北条小は、千葉県内でも教育の伝統校として知られる。校舎も、広い廊下の半分が、子ども達の自習用にもなるワークラウンジだったり、体育館も舞台上が広く、階段が観客席になるなど、工夫が凝らしてある。
  全国的にも珍しいのは、「カリ管(カリキュラム管理の略)」と呼ばれる部屋だ。個々には学年別、教科別、月別の指導案や学習資料が660の棚に分類されて収められており、これを参照することで、より深い指導が出来るという仕組みだ。1960年代から蓄えられ、北条小の文化財でもある。
  ところが、この資料はすべて紙ベース。先生達はパソコンやワープロで指導案やテスト用紙を作る。そのデータが共有されていれば、わずかな修正で、次年度も使える。そうした発想で、「デジタル・カリ管」への移行が北条小の課題だった。すべての教室でインターネットが使えれば、その利便性はグンと上がる。安西校長はそう考えて二つ返事で引き受けた。
  石井さん達は、早くも5月にPTAに呼びかけて実行委員会を結成し、北条小ネットデイ専用のメーリングリストを立ち上げた。このMLには、石井さんとはじめ北条小PTA、先生方、卒業生、一部の児童、ネットデイの先輩である館山ニ中や小湊小関係者、さらに姫路や伊丹のネットデイ先駆者や船橋・千葉・横浜の人たちまで加わって、ネット上でも準備のための知恵の交換が繰り広げられた。8月と10月には予行演習のミニネットデイを催して別棟のLANを整備し、その経験を踏まえて本番に備えた。また、9月の体育祭では、北条小ネットデイMLの地元メンバーがボランティア募集のための大々的なPRを行った。これらの準備活動の様子は、逐次、「ネットデイだより」としてPTAに告知され、北条小ネットデイ専用Webサイトにもアップされた。地域コンテンツの充実という点でも、ネットデイの貢献度は高い。
  ケーブルの費用は市の予算だが、工事は地域の人たちのボランティアで行い、LAN工事を契機として学校と地域との連携を深める――というのがネットデイの趣旨。みんなで汗を流してインフラを整備し、地域との連帯感をベースにネット環境を整えようという運動だ。このために、準備段階から、オンライン・オフラインを通じて、活発な活動が続けられた。

車で30分以内が地域ポータルの適正エリア

 実は、このネットデイの伏線は、石井さん達が作ってきた、南房総の情報化の活動だった。
  石井さんは、「2000年4月6日から人生が変わった」と話す。
  館山市企画部情報化推進室の職員だった石井さんは、館山市総合計画の中で、2003年から向こう15年間の情報化推進計画の立案を命じられた。「何をどうしていいか、全くわからなかった」という石井さんは、「ヒントをいただければ」と千葉県庁の情報政策課を訪ねた。そこで紹介されたのが、柳田公市さんだった。
仕掛け人は館山市職員の
「よそ者」として人脈と知恵を
持ち込んだ柳田氏
南房総IT推進協議会の理事長
ソフト会社社長の鈴木聡明氏
  柳田さんは元セゾン・グループで商品開発を担当していたが、独立起業して、各地の地域活性化のリーダーを結びつける「人間接着剤」として活躍している。
  「4月6日に幕張(千葉市)のNTTのビルで会いましょう」という柳田さんからの知らせに、石井さん達、館山市の職員3人が訪ねてみると、20人近いメンバーが待ちかまえていて、様々なアイデアを出してくれた。
  「これからは、メーリングリストで議論しましょう」ということになり、館山の地元プロバイダーの「安房ネット」をホストにしてメーリングリストがスタートした。
  その安房ネットの経営者が、伏原芳安さんだ。伏原さんは広島県出身で、自衛隊のヘリコプターのパイロットだったが、奥さんの縁で、館山でプロバイダーを始めた。
このメーリングリストに南房総内外の地域情報化のキーマン達、南房総地域の活性化にコミットする人たちが次々と集まった。鈴木聡明さんもその一人。日立製作所、JRでシステムエンジニアを務めて、故郷に帰って、パソコン通信「館山ネット」を始め、現在はソフトウエア会社を経営している。
  石井さんは、メーリングリストのメンバーの助けで、「館山市総合計画」(平成12年度策定)の新世紀発展プランの中で、「情報都市館山への挑戦」として情報化に対するプランをまとめあげた。その一方で、伏原さんを理事長に「南房総IT推進協議会」が設立され、2002年6月には、NPO法人化して、NPO「南房総IT推進協議会」となった。
  南房総IT推進協議会は、インフラ整備、地域コンテンツの充実、リテラシー向上を3本柱に、活動を展開中だ。
インフラ面では、ADSLやFTTHサービスが提供されない、いわゆる「ブロードバンド過疎地域」注)への対応策として、館山市中心部に独自にアンテナを立てて1.5Mbpsの地域無線LANシステムを構築し、その後、パワードコムの回線をバックボーンとして、無線も駆使して11市町村に月額7万7000円でブロードバンドサービスを提供する広域イーサネットの仕組みを作った。「地域の情報が、一旦東京のIXまで行って折り返して来るのはおかしい。情報が地域で循環する仕組みが重要。」(伏原氏)ということが理由だ。さらに2004年1月には総務省の補助事業として、地理的条件等によって館山市内でADSLが繋がらない地域に無線中継でブロードバンドを供給する実験を始める。
注)2003年11月末現在、館山市では中心市街地等でADSLサービスの提供が開始されている。
地域コンテンツでは「タウンズ安房」という地域ポータルサイトを運営しているほか、地元の歴史や自然を百科事典形式で表現する「南総たてやま発見伝」(古典の「南総里見八犬伝」に似せた名称)を市から請け負って制作している。館山市博物館が所蔵する八犬伝の錦絵をデジタル画像化してWebサイト上で公開するプロジェクトも、伏原さんを中心に行った。このように、インターネット上に地域コンテンツを積極的にアップし、情報発信に努めている。
  リテラシー向上(ITを活かせる人づくり)の面では、2001年に全国規模で開催されたIT講習会の開催を受託し、結果的に数百人が受講した。さらに、この中で育った人たちが講師となって年賀状作りの有料講習会を開いたり、週一回火曜日の午前中、生涯学習センターでITヘルプデスクを開催して、IT初心者の疑問や質問に対応している。有料のIT講習会の開催も始めている。
  もちろん、ネットデイはインフラ整備とITを活かせる人づくり(教育)の二正面作戦だ。

過去4年は地域ポータル構築の実証実験

 石井さんは「私が市の職員になった20年前の館山市の人口は5万6000人。現在は5万1000人で、65歳以上のお年寄りが3割以上になっている。地域で就職できる場を増やして行かねば、地域はさびれていく」と危機感を募らせる。
  地域おこしに大事なことはリーダーの情熱だ。石井さんは「思い込みを強くすると、人や事象に偶然出会える」という。その思いは伏原さんや鈴木さんも同様だ。
  柳田さんも事あるごとに館山を訪れている。ネットデイの前夜祭には、意欲的な教育で知られる東京・渋谷区立中幡小学校の杉原五男校長を呼んで講演会を開いた。柳田さんは「地域おこしには『よそ者』『若者』(気の若い人)『バカ者』(体裁を気にせず、バカに徹することのできる人)の連携が必要」というのが持論だ。そして、自分はよそ者の立場を担う。
  南房総の地域情報化の将来は楽しみだ。資金は決して潤沢ではないが、リーダーの伏原、鈴木、石井の3人はまるで兄弟のように緊密に連携し、お互いを支え合っている。この3人が核になって、地域コミュニティの活動を牽引している。
  石井さんは「南房総の全小中学校でネットデイを実施し、インターネットの素晴らしさを、子どもや地域の人に伝えたい」という。
  北条小には、ネットデイのために、父兄達や地元企業から中古のパソコン20台が寄付された。先生達は「ネットデイはスタート。これからも応援してほしい」とメーリングリストにメッセージを投げた。善意の輪によって敷設された校内LANを活かし、地域が協力して情報化教育を推し進めようと「アフター・ネットデイ」活動が始まっている。



(日経デジタルコア事務局 坪田 知己)


評価と課題
ポイントは「継続」と「連携」

 偶然の出会いから始まった南房総IT推進協議会のこれまでの活動は、地方自治体が中央省庁の補助金を得てトップダウンで大がかりなインフラ整備を行うこと、同じく政府の補助事業として期間限定で行われる各種アプリケーションの実験プロジェクトとは一線を画している。それは、「インターネットを生かして自分達の地域を少しでもよくしたい」という地元有志の自発的な思いと、彼らの志に賛同し、知恵の供出を惜しまない「よそ者」たちとの出会いと善意によって、地道に積み重ねられてきたものである。換言すれば、「価値が高まること」の積み重ねである。そして、南房総IT推進協議会メンバーがITリーダーとなり、地元住民の賛同者を増やしながら、一歩ずつ着実に歩を進めてきたのである。
 冒頭で紹介した南房総IT推進協議会の三本柱、インフラ整備、地域コンテンツの充実、リテラシー向上(ITを活かせる人づくり)は、米国バージニア州ブラックスバーグで展開されている「ブラックスバーグ電子村」をモデルとしている。独自のネットワークインフラ整備とインターネットアクセスサービスの提供、ローカルコンテンツが充実した地域ポータルサイトの運営、インターネット利用者が全人口の80%以上を占めるに到った各種リテラシー向上策、これらすべてをNPO「ブラックスバーグ電子村」が担い、米国屈指のIT先進地域となった町である。
 南房総IT推進協議会の正式発足前に立ち上がったメーリングリストのメンバーに、「ブラックスバーグ電子村」を現地取材調査した「よそ者」がいて、たまたまその話を紹介したところ、伏原、鈴木、石井の3人が賛同し、南房総IT推進協議会活動の目標に据えられたのである。
 そして、海外の先進事例に倣いつつ、補助金に頼らず、知恵をしぼって、限られた資金を有効活用しながら、できる範囲で地域無線LANの整備、インターネット上での地域コンテンツの発信、ITヘルプデスク等による地域住民のリテラシー向上(=ITを活かせる人づくり)を進めてきた。さらに、行政側(市や教育委員会)との関係保持にも注力してきた。このような南房総IT推進協議会の活動に賛同する人の輪が地元でも少しずつ広まって行き、それが見事に具現化したのが北条小ネットデイである。
 しかしながら、南房総IT推進協議会活動は、決して順風満帆ではない。独自に整備した広域イーサネット・ネットワークのユーザー数を増やさなければならない、資金の不足により花火大会の模様をインターネット上でライブカメラ中継を継続的に行うことが難しいといった問題が顕在化している。さらに、南房総全域で多くの地域住民や地元企業がインターネットを活用するようになるために普及啓発活動も必須であるが、この点で多大な効果をもたらすネットデイの実施校がまだ少ないなど、普及啓発は充分とはいえない。従来、複数のサイトに分散していた南房総の地域情報を一元的に発信するためのポータルサイトの整備・拡充も課題の一つだ。
 このような課題を抱えつつも、「よそ者」メンバーによる人間接着剤効果等によって、南房総IT推進協議会の地道かつ自発的な活動は中央省庁にも評価されるところとなり、平成15年度には、総務省、経済産業省、国土交通省が実験プロジェクトのフィールドとして南房総エリアを選定するに到った。そして、前掲した課題解決に資するべく、無線アクセスによるラストワンマイルとセキュリティ実験、コミュニティビジネス、道の駅による地元観光情報の発信に関する3つのプロジェクトが展開されつつある。ブロードバンド過疎地域での、セキュリティにも配慮されたラストワンマイルのブロードバンド環境整備と利活用、コミュニティビジネスによる地域活性化、道の駅利用者等来訪者に対する地域密着型の観光情報の提供といった各プロジェクトによって、南房総IT推進協議会の志が一気に開花しようとしているのだ。特に、総務省が行っている「無線アクセスによるラストワンマイルとセキュリティ実験」は、実験期間終了後も、ユーザーが継続的にブロードバンド環境を利用することを目指している。これは、自らの手でブロードバンド過疎地域を作らないように心血を注いできた南房総IT推進協議会が、大切なインフラを守り続けていきたいという意気込みを示すものである。
 前述した北条小では、校内LANを授業やカリキュラム管理等で生かすべく、「アフター・ネットデイ」活動が始まっている。ネットデイで繋がり合った人と人の善意の輪が、校内LANを生かすための知恵の輪として広がろうとしている。北条小で培われた知恵、人の輪は、ネットデイ・リレーとなって、来年以降も南房総の各学校に伝播していくに違いない。
 これらのプロジェクトやネットデイを根底で支え、これらに関わる人々をつなぐ役目を担うのが、南房総IT推進協議会である。人々の善意の輪で繋がった手作りの情報化によって、来年の夏頃には、南房総地域は大きく前進していることであろう。


(未来工学研究所 片瀬 和子)


本企画記事の背景について
 e-Japan計画でIT先進国を目指す日本だが、地域でのIT化は置きざりにされている。過疎地にブロードバンドを提供する、地域おこしにITを活用するなど、現場での取り組みが重要だ―――日経デジタルコア事務局と、CANフォーラム(公文俊平会長)はこのような認識で一致し、地域情報化の先端事例を取材し、各地での実践の参考に供したいと考え、本企画を連載します。
月1回を原則に、現地取材を報告します。


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