問題提起1:ニフティ関連判決とプロバイダ責任法
松沢栄一氏(ニフティ法務・海外部課長)
個人情報保護法案は、継続審議になったが、プロバイダ責任法は、勉強する暇もなくあっけなく国会に通ってしまった。重大な過大が突きつけられることになった。
プロバイダ責任法に密接に関連した判例を紹介する。
名誉毀損事件の判例
「現代思想フォーラム(FSHISO)名誉毀損事件」
事件の概要:会員A(被害者)は、ニフティの現代思想フォーラム(FSHISO)スタッフの一員で、フェミニズム会議室を主催していた。そこへ、会員B(加害者)が会議室の運営を批判、議論がエスカレートし、会員Aを人格攻撃した。結果、現代思想フォーラムを主催しているシスオペ、および、シスオペにフォーラムの管理運営を委託しているニフティが、名誉毀損で訴えられた。
1審(平成9年5月26日、東京地裁判決)では、シスオペとニフティは敗訴。理由は、名誉毀損の発言を具体的に知ったとき、必要な措置(発言の削除)を講じなかったため。
2審(平成13年9月5日、東京高裁判決)では、発言の削除は義務ではないという逆転勝訴の判決。理由は、削除の義務が生じる要件が満たされていないというもの。
この2審判決では、シスオペの次の対応が評価された。
・削除にあたるような発言も、直ちに削除せず、会議室利用者間の議論の積み重ねにゆだねようとした。(議論の質を高める、というニフティの運営方針による。)
・発言者へ注意喚起を遅滞なく行った。
・削除権限の行使が、著しく遅れたとは言えない。
「都立大学名誉毀損事件」
事件の概要:大学自治会のグループの主導権争いが発端。C(被害者)が傷害事件を起こして逮捕された、という文章がホームページ上で公開され、D(加害者)、および、管理者である都立大学が、名誉毀損で訴えられた。
東京地裁は、名誉毀損は成立しているが、大学に削除義務はないという判決を下した(平成11年9月24日)。理由は、ホームページが、被害発生防止義務が生じるような内容ではなかったから。(逆に、このことから、違法性が一見明白、緊急に対処が必要と判断される内容は、削除しなければ問題となりうる。)
事件の教訓
現代思想フォーラム(FSHISO)名誉毀損事件の当事者として、次のことがわかった。
・事前の監視は不要
・被害者の訴えを無視しないこと
・加害者とされている者へ速やかに連絡すること
・当事者間の解決を依頼すること
・紛争を対等に継続している間は静観できるかもしれない(ニフティのような運営方針の場合)
・違法性が一見明白、緊急性を有するような書き込みは加害者の反論がない限り削除してもよい(都立大学名誉毀損事件の教訓)
ただし、ニフティは会員制のサービスなので、オープンな情報発信スペースでは、次の点をどう考えるのかが課題となるだろう。
・発信者への連絡が取りにくいこと
・約款の効力が無効とされるおそれがあること
発信者情報開示に関連する判例
「本と雑誌のフォーラム(FBOOK)事件」
次に、発信者情報開示に関連して、ニフティの、本と雑誌のフォーラム(FBOOK)を舞台に起こった事件を紹介する。
概要:会員X(被害者)が、匿名で情報発信している会員Yと論争になる。会員Yは、会員Xの本名をもじったようなハンドルネームを使うようになった。
会員Xは、プライバシー侵害、名誉毀損で損害賠償を請求するにあたって、ニフティに会員Yの情報公開を求めたが、拒否された。また、ハンドルネームの使用中止要求も拒否された。
そこで、ニフティだけが訴えられ、会員Yの契約者情報の開示、および、損害賠償を請求された。シスオペと、加害行為を行った会員Yが訴えられていないところがポイントとなっている。
請求根拠は、ニフティが発信者情報を秘匿していることは、原告の名誉権回復機会を妨害しており、人格権に基づく差止請求権、あるいは、不法行為に基づく妨害排除請求権により開示請求が可能というもの。
また、会員Yに対して処分を行ったり、紛争解決に向けた協力を怠ったので、損害賠償請求が可能というもの。
結果、原告の請求は棄却された(東京地裁、平成13年8月27日)。理由は、そもそも会員Yの会議室での発言には違法性がないので、それを前提にした請求の判断は不要、というもの。したがって、発信者情報開示の請求は成り立つか、という重要な問題は棚上げとなった。
現代思想フォーラム(FSHISO)名誉毀損事件、本と雑誌のフォーラム(FBOOK)事件ともに、共通の3者構造(会員、シスオペ、ニフティ)がある。
現代思想フォーラム(FSHISO)名誉毀損事件では、会員の間での名誉毀損は認められたが、シスオペとニフティには責任が問われなかった。
他方、本と雑誌のフォーラム(FBOOK)事件では、そもそも会員の間でのプライバシー侵害、名誉毀損が認められなかったため、シスオペ(もともと訴外)、ニフティには責任が問われなかった。
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