夏野 剛氏(エヌ・ティ・ティ・ドコモ iモード事業本部 iモード企画部長)
 |
 |
夏野剛氏
(11月1日、日本経済新聞社 大会議室) |
司会(坪田)今年はADSLのブロードバンド元年と言われているが、それ以上にインパクトがあるのが、モバイルのブロードバンド化である。バンド幅が広がる時に、今後の発展の方向や、日本のユーザーにとってどのような形が望ましいのかが、大きな関心事となっている。
まずはモバイル系のインターネットについて、最新の話題の提供から。トップバッターは業界のリーダーであり、iモードの提案者でもあるNTTドコモの夏野剛氏にお願いする。
夏野氏今日のプレゼンテーションのタイトルは「iモード・フィロソフィー」とした。私がこのビジネスを手がけてきたのは、新しいマーケットを創造したいと考えたからであり、われわれでバリューチェーンを囲い込もうとしているのではない。
資本主義社会においては、きちんとマーケットを創造できるかどうかが、最も重要であるという原点を、まずはお話しておきたい。
欧米と日本のモバイル・インターネット市場の違い
モバイル・インターネットの海外と日本の市場を比べると、際立った違いが見られる。たとえば503iシリーズは、日本ならどこでも手に入れられる携帯電話の機種だが、カラーのLCD、Java搭載、着メロのダウンロード、HTMLブラウザなどの機能があり、バッテリーの持ち時間は250時間から400時間。このような機種を海外で買おうとしても、手に入れることはできない。技術的には欧米でもできるにもかかわらず。
日本でだけこのような携帯電話が手に入り、モバイル・インターネットにアクセスするユーザーがいる。同じような時期に取り組み、欧米ではうまくいかなかったのだ。その理由を探っていく。
現在、iモードのユーザー数は、2860万人。iモードのサービスをスタートしたのは、2年8カ月前。その間に、小さな携帯電話から多くの人が、インターネットにアクセスするようになった。現在、提携しているコンテンツ会社は1078社。多彩なコンテンツがあることが、多くの方に使っていただいている理由だと考える。
今年の1月からはJavaを搭載し、既に現在827万人が利用している。
私どもは技術の選択において、欧米と全く異なるアプローチをした。欧米ではワイヤレスは特殊な環境だから、特別な技術を決め、それをコンテンツプロバイダーに押し付ければ済むと考え、WAPを作り、失敗したのである。
一方、われわれはコンテンツがなくてはダメだと考え、デファクトスタンダードのオープンの技術を採用した。もちろん、パソコンと同じHTMLを載せるわけにはいかないので、チューニングはしたが、出来る限り誰もが参加できるように仕様を作った。
ユーザーサイドに立ったマーケティング、ビジネスモデル
ビジネスモデルも同様である。基本的にはわれわれが儲かることを第一に考えるのではなく、コンテンツが儲かる仕組みがないと、ビジネスが成り立たないと考えた。そこで情報料徴収代行システムを最初から作ったのだ。ポジティブフィードバックが重要であり、単にオープンなHTML技術を採用するだけは広がらないと考えたためである。
他には、ユーザーが理解できるマーケティングとして、ユーザーサイドに立つこと。ITはツールであって、目的ではない。例としてわれわれの携帯電話に搭載されているJavaを、他社のJavaと比べると、全く異なることがわかるだろう。
HTTP、HTTPS通信機能を載せたのは、インターネット上のサーバとやりとりできるようにオープンにしようとしたためだ。また、誰でも利用できるように、機能を絞った。
このような努力の結果、市場が大きくなり、ユーザーの数が増えたのだが、それでも最初の100万人に利用してもらうまでに、6カ月かかっている。新しいマーケットは、最初に土台を作り、クリティカルマスのユーザーを獲得するためには、かなり努力をしなくてはならない。これを誰がするかが、非常に重要なのである。
iモードのバリューチェーン
iモードは、バリューチェーンである。端末、ネットワーク、ゲートウェイとサーバ、ビジネスプラットフォーム、マーケティング、コンテンツ。これらが端末の画面の裏側に全部あり、全部のバランスが取れていないと、成り立たない。
ワイヤレスでインターネットにアクセスするなら、大きな画面の方がいい、と言われているにも関わらず、欧米ではほとんど出てきていない。これは何故か。
欧米では、メーカーがすべてであり、事業者が望むサービスや、コンテンツへの要望は基本的にはほとんど聞き入れられない。バリューチェーンが分断されていることが理由だろう。
本来は、コンテンツ、スペック、インターフェイス、ビジネスモデルは全て相互に絡んでいるのである。その端的な例がキャラッパや着メロで、著作権を守り、データが外に出ないようにしている。つまり、携帯電話事業社がバリューチェーンのコーディネーションをしているのだ。われわれ、J-PHONE、KDDIの事業者間では、バリューチェーンの競争をしているのである。
さらなる事業者間の競争を
ユーザーの立場に立ったバリューチェーンの構築がない限り、新しいマーケットは生まれない。既存のプレーヤーを中心とした競争マーケットを作れば、市場が大きくなる。既存のプレーヤーの強みは、リスクテーカーになれることだ。
今後、さらなる発展のための新たな競争環境のあるべき姿は、今の競争環境を土台にし、さらに競争が激しくなるようにすることだろう。より良いサービスを提供しようとする事業者間の競争が、現在の状況を生み出したのである。
|
 |
|