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グローバルなサプライ チェーンにおけるCSR調達

CSRの展開をサプライヤーに対しても求める CSR調達が、日本企業の間でも始まっている。欧米企業では、スポーツ用品会社やアパレル会社を中心に1990年代からサプライチェーンマネジメントでの労働・人権配慮が進められている。

CSRを推進する理由として、SRIによる投資家の評価や消費者による社会・環境問題の指摘などの外部からのドライバーが考えられるが、顧客企業からのCSR配慮の要請はビジネス上最も強力な引き金だろう。最近、日本のエレクトロニクス産業がCSR調達に動いているのも、彼ら自身が欧米企業へのサプライヤーであり、CSRの要請を受けたことが大きい。

CSR調達に求められる要件

CSR調達は、先行してきたグリーン調達の対象を広げたものと考えるとわかりやすい。つまり、「調達先であるサプライヤーに対し、何らかのCSRにかかわる調達基準を提示し、それに対する遵守を要請していく行為」である(*1)。グリーン調達では、納入品であるモノとサプライヤーの経営の仕組みの両方を対象とするが、CSR調達は仕組みやその実績を対象にしているところが異なる。CSR基準の中に含める要求事項には、遵法、人権・労働といった分野を含めることが一般的である。

例えば電子業界では、アメリカ企業が主導となって電子業界行動規範(Electronic Industry Code of Conduct: EICC)を発行している(図表1)。この業界の世界基準となりつつあり、これを受けて日本では電子情報技術産業協会(JEITA)が「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」を2006年8月に発表した。JEITAのガイドブックには、EICC項目のほか品質・安全性や情報セキュリティー、そして温室効果ガスなど日本での関心の高い項目も含まれている。

図表1 電子業界行動規範の概要
A: 労働者 B: 安全衛生
  1. 自由意志による労働者の採用
  2. 児童労働の禁止
  3. 差別の禁止
  4. 残虐行為の禁止
  5. 最低賃金の遵守
  6. 労働時間の遵守
  7. 団結権の容認
  1. 機器のセーフガード
  2. 労働環境衛生の確保
  3. 労働環境安全の確保
  4. 緊急事態への準備
  5. 労災・労働疾病への対応
  6. 危険作業への対応
  7. 寮および食堂の衛生管理
C: 環境対応 D: CSRマネジメント
  1. 製品環境対応
  2. 有害化学物質管理
  3. 排水・廃棄物
  4. 大気汚染
  5. 環境法規制・行政報告対応
  6. 汚染防止と省エネ省資源
  1. 会社のコミットメントの明言
  2. 経営者の責任の明確化
  3. 法規制と顧客要求への対応
  4. リスク管理対応
  5. PDCA管理
  6. 教育訓練
  7. コミュニケーション
  8. 従業員の意見収集
  9. 監査と評価
  10. 是正処置活動
E: 企業倫理  
  1. 贈収賄・恐喝・横領のゼロ化
  2. 情報公開
  3. (ワイロ等の)不法対応
  4. 公正な経営・広告・競争
  5. 内部告発者の秘密保持
  6. 地域への貢献
  7. 知的財産権への対応
 

CSR調達の展開

実際にCSR調達を展開するには、行動規範を策定した後それをサプライヤーに提示し協力を求め、その後、実施されているかのチェックとして監査・モニタリングを行う(図表2)。監査といっても第三者監査が要請されるわけではなく、まずは自社のスタッフがサプライヤーの現場に行って実態をチェックすることが必要である。

図表2 CSR調達の展開ステップ

図表2 CSR調達の展開ステップ

途上国での行動規範展開の難しさと実質的な改善活動

日本国内では全く問題がなくても、途上国の操業では実行が難しいという項目が多い。例えば、次のような問題が先行する欧米企業の間から指摘されている。

  1. 児童労働排除の難しさ
    最低年齢の設定ひとつ とっても、簡単にはいかない。企業側で高い年齢を設定することは可能だが、現地ではその年齢で多くが働いている場合もある。また監査をしてもIDの年齢を偽造することはよくあることで、徹底運用が意外に難しい。
  2. 賃金設定の難しさ
    法定最低賃金が地域ごとに異なるうえ、自社での最低額を決める場合にはどのような計算方法にするかが困難。また法定最低賃金が事実上「最高賃金」になっていることが実状でもある。さらにピースレート(出来高賃金)を適用すると最低賃金に満たない労働者も出てくるため、その配慮も必要。
  3. 労働時間管理の難しさ
    一般的な行動規範では週48時間労働+週12時間の残業までとしているが、実際に守られていないことは多々ある。中国でも同等の法律があるものの、例外が多発し規制は有名無実化している実態をどう考えるか。さらに労働者の多くは残業代で稼ぐために、できるだけ長く働きたいと要望する者が多く、無理に労働管理をすると他の工場に移ってしまう。

こうした事態でありながらも、サプライヤーの労働実態を改善していく必要がある。それには、監査や体制を強化するだけでは限界があり、サプライヤーの能力を向上させ、事業にプラスをもたらす実質的な改善を働きかける必要がある。これをキャパシティ・ビルディングと呼んでおり、以下のような対策が欧米の調達側企業の間で取り組まれている。

  • CSR対応による顧客拡大
  • 労働時間の遵守による生産性向上
  • 個別のサプライヤーのみならず、地域全体の状況改善に向けた取り組み

日本企業の途上国でのCSR調達はこれからであるが、欧米企業の失敗や経験を学びながら展開していくことが必要だ。

(参考)

*1
『グローバルCSR調達: サプライチェーンマネジメントと企業の社会的責任』
藤井敏彦 ・海野みづえ共著(日科技連出版社刊 、2006年10月)
写真 海野みづえ
海野 みづえ (うんの みづえ)
創コンサルティング代表取締役
1985年千葉大学大学院修了。ハイテク分野の市場および製品の調査会社、中央クーパース・アンド・ライブランド社、ローランド・ベルガー社(独系企業)を経て、96年創コンサルティングを設立。
東京大学大学院新領域創成科学研究科非常勤講師、法政大学大学院環境マネジメント研究科非常勤講師。主な著書に『SRI社会的責任投資入門』(日本経済新聞社、2003年6月=共著)、『CSR経営』(中央経済社、04年8月=共著)、『CSR企業価値をどう高めるか』(日本経済新聞社、04年11月=共著)、『グローバルCSR調達:サプライチェーンマネジメントと企業の社会的責任』(日科技連出版社、06年10月=共著)など。
創コンサルティング http://www.sotech.co.jp
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