CSR調達
サプライチェーン内での調達の位置は、その役割や範囲を広げている。それは多くの場合外的要因に依存する。すなわち、CSRが調達活動に深く関連する事実を示している。次表は、調達に関連する用語で最近よく耳にするテーマを集めたものである。「CSR調達」を含め、さまざまな調達の手法だが、こうしてみると調達業務は近年の社会政治経済動向と非常によく合致していることがわかる。
| グローバル調達 | 世界最適地調達、地球規模の調達活動 |
|---|---|
| プロジェクト調達 | 長期のプロジェクト建設工事などで調達計画を実行する |
| グリーン調達 | 環境に優しい部材の調達 |
| 公共調達 | 政府自治体にて発注する資機材・用役の調達 |
| 資源の安定調達 | 希少金属、地政学上偏在する資源を安定的に継続調達する |
| CSR調達 | 社会的視点から調達する |
| 現地調達比率 | 海外進出した国や地域で地元企業から購入する割合 |
言うまでもなく、企業にとって原材料などの購入、入荷を含む調達活動は非常に重要なものである。これまでそれぞれの標語が付けられてきた。CSR調達もその一つである。しかし、真の意味での定義は企業によってまちまちかもしれない。一般的定義には調達基準の中にCSRに係る項目を組み入れることとされている。現在かなり普及されてきた環境に関する基準などがその一部であるが、CSRとなると、その広がりはもっと大きい。とりわけ、生産活動や流通業での仕入れ活動がグローバル化するのに伴い、海外でのオペレーションに当該国に合った環境基準以上を求めるだけでなく、法令順守、雇用・労働、安全、人権問題、財務的責任、そして、多様性(ダイバーシティ)まで、求めるようになってきた。下図はサプライチェーン内の調達部門の新たな役割を示している。以降、個別に述べてみたい。
1.法令順守・公正取引
企業として当たり前のコンプライアンスが、外部からの資材調達にまで及ぶと、その監視範囲は相当な広がりを見せる。サプライヤーと呼ばれる供給会社は上場企業1社当たり2000社とも3000社ともいわれる。それに、そのサブサプライヤーを加えると掌握する範囲はさらに広がる。ここでは、下請代金支払遅延等防止法に象徴される「サプライヤーいじめ」という低次元の問題でなく、企業が真に公正な取引慣行を実施しているか、通常取引しているサプライヤーが法規制を順守して事業活動を行っているかを問題視している。例えば、互恵取引はバブル時代に一般的慣行であったが、かなり以前から独禁法に触れるものである、など。海外サプライヤーの場合は、その先が見えにくいため相当な努力を要する。
2.雇用・労働
新興国での操業を実施している日本企業は、当該国のサプライヤーの労働安全・衛生に関するリスクを重視しなければならない。もちろん、その前に自社内の労働力に対するケアがしっかりと求められる。購買取引相手のサプライヤーの財務内容のみならず、日ごろから同社員は十分な訓練を受け雇用に関する不平や不満などの問題が出ていないか、児童労働や強制労働が実施されていないか、きちんと監視・監督することは実際問題として非常に難しい。しかしながら、特にグローバルに活躍していこうとする企業はその監視活動をないがしろにすると必ず自社の事業活動に悪影響を及ぼすことを意識すべきである。
3.人権問題
人権は日本でのみ操業していれば、それほど意識しないかもしれないが、グローバル視点で活動する場合、避けて通れない問題である。卑近な例では、サプライヤーの差別が歴然として存在する。また、会社内での人道的な扱いが薄弱になっている点も指摘されよう。人権については、購買する側と供給する側の2つの方向から考える必要がある。3年前の研究会のアンケート結果から「サービス残業なし」「セクハラなし」という回答があった。記名式回答の場合、「あり」とは書けないが、信頼性は乏しい。さらに、大都市の通勤地獄は人権問題にほかならない。ワークライフバランスが問われているが、往復の通勤時間に3時間以上かけている企業勤務者で、早朝から深夜まで自宅外で過ごしている事態こそ、人権そのものである。日本の業界団体でも途上国における労働・人権問題はまだこれからのようである。
4.多様性
この用語と「女性問題」を混同している経営者は多い。日本国民が単一民族とは言わないが、ダイバーシティには多くの要素が含まれるし、また増殖している。高齢者、障害者、少数民族、女性労働者が従来の多様性を象徴するものであったが、退役軍人(ベテラン)、バイセクシャル(BS;両性愛者)も含まれるようになった。つまり、性差別・年齢差別・人種差別・身体上の違いの差別、さらには、戦争経験、生まれつき持っている相違点を、ことさらに取り上げないことを意味する。それらは、基本的に企業活動と関係ないというマインドセットである。今後は、これらの違いを企業のビジネスに生かす努力が社会的に求められているということである。
5.環境問題
日本企業は相当な努力をして現在の環境世界水準まで高めてきた。法律上の規制以上に先手を打ってきた点は評価できる。海外オペレーションでも同様に環境に関する活動は維持している。しかし、グローバル視点での調達に関して、どうだろうか。全社の環境への取り組みと、サプライヤーとの環境取引は異なるように見える。社内が万全でも、サプライヤーの環境基準まで手が届いていないのが実態であろう。CSR調達から言及すると、外部の供給源、サービスプロバイダーの企業にも、環境水準を守る指導・相互教育が求められる。それは、必ず自社が購入する資機材・サービスに返ってくるからだ。
以上のように、CSR調達は多岐にわたっており、また今後も容赦なく要求基準が増えてくる性質のものだ。それには、企業人としての教育が欠かせない。人事担当者が面接する側の教育を受けていないばかりに、セクハラもどき質問をしたという事実は枚挙にいとまがない。調達者も同様に、サプライヤーとのインターフェースとしての力量が問われるのはまさにこれからである。
- 上原 修 (うえはら おさむ)
- 大学卒業後、資源エネルギー会社にて資材調達部門に勤務、仏ブザンソン大学留学、コンゴ鉱山会社駐在、本社購買部参事、ニューヨーク事務所長歴任。外資系企業にて常務執行役員・購買本部長を経て、米ISM日本代表に就任。MBA経営情報学修士。米グローバルANSI購買資格(C.P.M.)取得。国土交通省通訳案内業免許取得。フランス政府留学ポアチエ大学Diplôme学位取得。企業留学仏ブザンソン大学文化教養学部終了Diplôme学位取得 一橋大学伊藤研究室ビジネススクール終了
【現職】
NPO法人 日本サプライマネジメント協会TM理事長
米アリゾナ州立大学CAPS Research(先進購買研究所)主席代表研究員
法政大学大学院IM研究科・調達業務マネジメント 兼任講師
仏パリ経営大学院ESSEC・国際購買学部 客員教授
仏グルノーブル大学院ESC・サプライチェーン学部 招待講師
ロワンデル・マサイ㈱ シニアアドバイザー
【著書】
「グローバル戦略調達経営」(単独著)2008、日本規格協会。「購買・調達の実際」(単独著)2007、日本経済新聞。「調達・物流統合戦略」(共著)2005、同友館。「やさしいCSRイニシアティブ」(共著)2007、日本規格協会。「CSRとコーポレート・ガバナンスがわかる事典」2007、創成社。






