地域ブランドとCSR
今なぜ、地域ブランドか
今、グローバル経済の下で競争しているのは企業だけではない。地域もまた激しい地域間競争の真っただ中にいる。企業と人材を呼び込む競争だ。しかも国内にとどまらず国境を越えて中国、韓国など東アジアの地域も競争相手となっている。そういう地域にとって必要なのは、地域の競争力を高める経営力ではないだろうか。地域を経営の対象として見ると、さまざまな課題が明らかになる。ここで地域ブランドを取り上げるのは、まさに地域経営においてマーケティングの発想が求められるからだ。ちまたでは地域ブランドというと、例えば「夕張メロン」「松坂牛」など、地域で差別化された競争力ある特産品を作っていくことに主眼がある。もちろんそれも地域の活性化には重要である。しかしながら企業と人材を引き付けるためには、「地域自体をマーケティングの対象とするブランド構築」が求められる。今、そういう意味での地域ブランド戦略が必要だ。そういう例として、私自身も取り組んだ「グレーター・ナゴヤ」プロジェクトをご紹介したい。
全国初の広域ブランド・プロジェクト「グレーター・ナゴヤ」
3年前に「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ」を提唱したのは、まず外国企業誘致の分野において、自治体間の壁を取り払って、広域の地域で統一した海外マーケティングに取り組もうという考えからだ。「グレーター・ナゴヤ」とは、愛知、岐阜、三重の3県、名古屋を中心におよそ半径100キロ圏内の経済圏を意味する地域ブランド名だ。全国どこでもそうだが、企業誘致はみな自治体単位で行われている。しかし愛知、岐阜、三重と、行政区画の名前を言っても顧客の企業にとっては意味がない。木曽川の向こう岸にあろうが、こちら側にあろうが、企業と人にとってみれば関係がない。同じ経済圏にありながら、それぞれ県ごとにばらばらの誘致戦略であること自体が地域のマーケティングとしてはそもそもおかしい。行政区画の概念を取り払って、同じ経済圏の地域が1つになって統一ブランド「グレーター・ナゴヤ」で国際競争に打って出る。その全国初のモデルプロジェクトをまず外国企業誘致の分野から始めようとしたのだ。
このような地域ブランド戦略は、単に名前が知られればいいというわけではない。大事なのはブランドの中身、ブランド・ステイトメントだ。ブランドにこめられたメッセージとも言える。例えばシリコンバレーに行くと、異口同音に同じようなメッセージを発する。「ここはイノベーションのメッカ」。これは行政だけの問題ではない。地域のプレーヤーたる企業も共有していなければならない。企業自身もそういう地域ブランドの形成に貢献しなければ強力な地域の発信力にはならない。
大学の留学生獲得戦略と企業
大学の留学生誘致といった、人材の誘致についても同様のことが言える。地域に優秀な人材を呼び込むうえで大学の果たす役割は大きい。そういう大学も個々に取り組むのではなく、それぞれ特色を持って地域でネットワークを組んで人材獲得競争に臨むことが重要だ。それが人材によって地域が選ばれるための地域ブランド力となる。激しいグローバル競争の中にある企業にとって、アジアの優秀な留学生は将来、貴重な戦力になる。しかし大学の力だけでは優秀な留学生の獲得に限界があるのも事実だ。そこでアジアでビジネス展開している企業が、優秀な留学生を獲得する手助けをする取組みが欲しい。そしてインターンシップで引き受けて、将来の就職につなげていく。いわば入り口と出口で産学連携する。そのような形で地域で連携した大学に貢献することが、地域のブランド力を高めることになる。また長い目で見て、企業自らの人材獲得にもつながってくるのである。
CSRとしての地域ブランド構築
地域ブランドを広域経済圏で取り組むことがグローバル経済の下ではますます重要になっている。しかしながら、このような広域経済圏で一体となる発想は、自己完結主義の自治体に魂が入った取り組みを期待するのは難しい。むしろ企業、産業界が直接の利害関係者として主導していく必要がある。地域ブランドの構築はまさに地域への社会的貢献でもある。しかも、それが地域の競争力につながり、企業と人材が地域に呼び込まれたならば、当然地元企業の利益にもなる。
私は地域ブランドとはショッピングモールのようなものではないかとも思う。それぞれのテナントの店が個々に集客努力をしても限界がある。そこでショッピングモール全体としてのマーケティングが効果を発揮する。集積の魅力も集客に寄与する。そのためには、ショッピングモール全体のブランド戦略についての共通認識、合意が必要となる。店舗以外の共用スペースのあり方もブランド価値を高めるうえで極めて重要になってくる。例えば、モールの中の休憩広場には高級感あるベンチを置いたり、ジャズなどのエンターテインメントやアトラクションが次々繰り出される。案内係の接客スタイルもブランドを体現する。こういうモール全体のブランド価値を高める投資を戦略的に行う。それに対しては各テナントが応分の負担をする。地域全体をこういうショッピングモールに見立てて、どういうブランド戦略を構築するか。それがテナントたる企業が地域に貢献するCSRでもあるのではないだろうか。
- 細川 昌彦 (ほそかわ まさひこ)
- 1955年1月20日生まれ。77年3月東京大学法学部卒業、2002年6月ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。1977年4月通商産業省入省、85年8月~87年6月山形県警本部警務部長、98年6月通商政策局米州課長、2001年6月スタンフォード大学客員研究員、02年7月貿易経済協力局貿易管理部長、03年7月中部経済産業局長、04年8月日本貿易振興機構ニューヨーク・センター所長、06年9月(社)日本鉄鋼連盟常務理事。
著作:
「ポスト冷戦における輸出管理」- 日本経済新聞 経済教室 1994年10月
「ブッシュ政権下での新たな日米関係」- Stanford University Research 2001年11月
「企業内大学を機能させる3つのポイント」- Harvard Business Review 2002年12月
「ハーバードAMPにみるチームビルディング」- 人材教育 2002年12月
「競争力のある経営者養成を」- 朝日新聞「私の視点」 2003年5月
「ハーバードAMPの現場から」- 経済産業研究所レポート 2003年6月
「アジア輸出管理イニシアティブ」- 外交フォーラム 2003年秋






