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CSRは事故や不祥事を防げるのか

「ワークライフバランス」。今年になってから頻繁に耳にするようになり、年末恒例の流行語大賞にノミネートされるのでは? と感じるほどの勢いがある。 3〜4年前は新卒就職活動を行う学生が悲鳴をあげていたのに、昨年から人材市場は急激に変化している。「ワークライフバランス」という言葉を、この人材市場の急激な変化の申し子の1つと考えるのは適切でないが、変化の早さには隔世の感がある。

「ワークライフバランス」の流行と見合うように、ここ1〜2年、CSR実践のターゲットとなるステークホルダーの中でも「従業員」への関心が著しく高まっている。人材市場の変化という直接的な要因だけではなく、本業および本業を生かしたCSR活動を行う“源泉”は従業員という認識がマネジメント層に完全に定着してきているからであろう。

マネジメント層や株主にとっては企業価値を高める手段として非常に“聞こえのよい”CSRという3文字の言葉であるが、活動の源泉となる従業員はどのような意識を持っているのだろうか。日経リサーチでは、2006年10月にWeb調査モニターの中からビジネスパーソン男女約4,700人に、様々なCSR意識や自社の組織風土に対してどのように受け止めているかを聞いた。その調査結果をご紹介したい。

従業員にCSR視点で持つべき意識を平たく言うと、「1人1人が、それぞれが持つ仕事や社会との接点において会社の代表であることを認識して、高い次元で相手と共感できるよう行動すること」となる。【表1】はこうしたCSR意識とそれをサポートする組織風土評価をいくつかの視点に分解して質問した結果である。なお調査においては直接的にCSRという言葉の認知や理解を質問していない。CSRという言葉の理解よりも、それを実践する前提となる意識の持ち方や組織風土でCSRの浸透を測る方が適切と考えたためである。

「今の勤務先企業で働くことに誇りを感じている」従業員は35%、「働きがい」との相関は0.8を超えてきわめて高い水準であることからも、自社に誇りを持つことはCSR実践の絶対条件だといわれるゆえんを確認できる。「企業の利益追求と社会性は矛盾しない考えである」に対する肯定派は31%で、否定派 26%を上回る割合となっている。企業に求められるCSR精神が従業員レベルでも着実に浸透していることを示すものだが、肯定派の絶対水準で考えるとまだ少ないのではないかと個人的には感じている。

「今の勤務先は、事故や不祥事が起きにくい風土があると感じられる」従業員は26%、残念ながら「風土があると感じられない」従業員の方が38%と多数派である。

では「事故や不祥事が起きにくい風土」とはどんな風土であろうか。【表2】はこの命題に対する回答を示唆するデータとしてご紹介したい。様々なCSR意識や自社の組織風土評価項目間と「今の勤務先は、事故や不祥事が起きにくい風土があると感じられる」への回答との相関係数を示した図である。相関係数は 0.4を上回ると「関連性がある」と解釈されるのが一般的である。

相関が高い、すなわち「事故や不祥事が起きにくい風土」の条件になりうる項目としては、風通しのよい組織風土、共感を呼ぶ取り組み、成長を後押ししてくれる組織力——が並んでいることがわかる。すなわち、CSR実践に必要な要素が「事故や不祥事が起きにくい風土」の条件になりうるのではなかろうか。

なお、ここで述べた「CSRは事故や不祥事が起きにくい風土の条件となるか否か」は、実際に事故や不祥事が起きた企業と起きなかった企業間で、従業員による意識や組織風土評価を比較検証しているわけではない。それゆえに“なりうる”と表現するにとどめている。

現実には、日々のニュースで「事故や不祥事」を頻繁に目にすることは事実である。一方で「ワークライフバランス」が注目されるように、様々なCSR施策に取り組む企業が増えていることも事実である。洗練された社会作りに向けて、CSRの実践効果が様々な形で顕在化することを願うばかりである。当社でも実践効果を検証すべく、引き続き調査分析に取り組んでいきたい。

表1
  あてはまる+
まああてはまる
【肯定】
あまりあてはまらない+
あてはまらない
【否定】
今の勤務先には、社外の人に自然と語りたくなるような「社会的な取り組み」がある。 18% 55%
今の勤務先は、事故や不祥事が起きにくい風土があると感じられる。 26% 38%
今の勤務先の多くの社員が、たとえ社内手続きを踏んでいようと、その責任は常に自分にあると考え、事に当たっている。 31% 34%
人事評定結果について、合理的な説明を受けている。 21% 48%
今の勤務先で自分が成長できることを実感できる。 29% 37%
企業の利益追求と社会性は矛盾しない考えである。 31% 26%
ボランティア活動に参加している(積極的に参加したい)。 21% 54%
今の勤務先企業で働くことに誇りを感じている。 35% 30%
表2
  今の勤務先は、事故や不祥事が起きにくい風土があると感じられる。
職務権限や人脈に頼ることなく、自らが必要とする情報を組織の中から探すことができる。 0.542
今の勤務先企業で働くことに誇りを感じている。 0.457
研修(社内外)、講習会、トレーニングなど自らの能力開発につながることに、上司は積極的に参加を後押しする。 0.448
今の勤務先の多くの社員が、たとえ社内手続きを踏んでいようと、その責任は常に自分にあると考え、事に当たっている。 0.446
今の勤務先には、社外の人に自然と語りたくなるような「社会的な取り組み」がある。 0.437
今の勤務先で自分が成長できることを実感できる。 0.423
人事評定結果について、合理的な説明を受けている。 0.402
写真 桑原太郎
桑原 太郎 (くわはら たろう)
日経リサーチ 市場調査第3グループ 部長
1988年同志社大学法学部卒、(株)日経リサーチ入社、日本経済新聞社広告局出向を経て、ブランドイメージ、ES、CSRに関する調査に数多く携わる。共著に「新富裕層の消費分析」(06年3月:日経広告研究所)。
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