責任投資とCSRの新たな潮流(2)
新興市場での戦略的CSRの展開
今回は企業側のCSRの進化、つまり「戦略的CSR」による新たなビジネス機会の創出をとりあげる。事業にとっての機会とリスクを把握し、プラス面を戦略の柱に据えるとともにマイナス面をどうプラス思考に発想転換できるかがポイントになる。
新興国でのビジネス展開に環境・社会の配慮は必須
地球の持続可能性を脅かす課題が増大し経済への影響が深刻になってきたことで、市場経済の基軸をなす原理・原則が根本から変わってきている。今後先進国の成長性が期待できないことから、新興国での需要開拓が一層重要になっている。企業はこうした新興国で広がる社会の課題を取り除き、彼らのニーズを満たし信頼を得ることで、新たな市場の開拓につなげられると考えられる。
責任投資に積極的な海外の機関投資家やSRI評価機関も、新興市場でのESGリスクと機会に焦点を当てている。例えばゴールドマン・サックスは、ロンドンで数年前から独自のESG分析を進め、現在“SUSTAIN”という専門チームを編成している。資源・エネルギー分野ではクリーンテクノロジーやBRICs企業の成長に着目し、食品産業の場合は新興国での原料調達や消費層の課題に焦点を当てている。昨今では資源や食糧をどう安定的に獲得していくかが評価の重要な視点になり、ますます新興国の注目度が高まっている。
低所得層に向けた新たなビジネスモデル
新興市場の開拓においては、先進国での開拓とは全く異なるアプローチが必要になってくる。これまで途上国モデルといえば、政府による開発援助か先進国企業の社会貢献によって手を差し伸べるという考えが基本だった。しかし、これではいつまでたってもビジネスの域まで発展しない。そこで、社会の最下層の人たちの生活レベルを上げると同時に、この層の人たちの経済的な自立を促すモデルに注目が集まっている。貧困のなかにも自らの力で立ち上がるインセンティブをつくることが必要なのだ。彼らはもはや援助の対象ではなく、将来の顧客といえる。マイクロファイナンスのグラミン銀行の成功により、融資だけでなく食品や携帯電話などの生活基盤事業において、このビジネスモデルが広がっている。
ここでは事業にかかわる人たちの意識が変わる、つまり社会のイノベーションをもたらすことが特徴だ。その鍵は、①資金力、人材力、商品力といった経営力をもつグローバル企業、②地域の生活者団体やNGOなどのネットワーク、③地方政府や国連などの公的機関、といった異分野の組織がそれぞれの得意分野をもちよってWin-Winの共創の仕組みをつくるところにある。CSRのさらなる発展型であり、事業機会を創出するという点でビジネスのロジックにも合致する。
食品業界のリーディング企業であるネスレは、バリューチェーンのなかで社会および自社への革新をもたらすことをCSRの根幹と考えている。これを「共通価値の創造」と名づけ、まず上流サイドではNGOと共同して持続可能な農業の支援活動を推進している。下流サイドでは、大きな潜在性をもつ新興国への需要対応が大きい。貧困層こそ将来の有望な顧客となりうるのであり、新規マーケットの開拓の意味においてもCSR活動による自社ブランドの浸透がマーケティング活動になる戦略といえる。
地域での協力関係を構築することが重要
今後日本の隣国アジアそしてアフリカの発展が日本企業の成否にかかわってくる。開発援助だけでなく、地域の経済を自らの手で振興することを助けること、これをさらに事業にのせることが21世紀の持続可能なビジネスモデルといえる。
- 海野 みづえ (うんの みづえ)
- 株式会社創コンサルティング 代表取締役
1983年千葉大学卒業、85年同大学院修了後、中央クーパース・アンド・ライブランド社、ローランド・ベルガー社で経営コンサルティング業務に従事。1996年に、(株)創コンサルティングを設立。独自の分析眼で、環境・CSR分野での日本企業のグローバル経営のあり方を提言、企業活動の実務をサポートしている。
ブラザー工業社外取締役。東京大学大学院、法政大学大学院非常勤講師。著書に、「グローバルCSR調達」、2006年(共著)、「SRIと新しい企業・金融」、2007年(共著)などがある。
http://www.sotech.co.jp






