マーケティングから見たCSRの課題
10月15日に「日経CSRプロジェクト2007」の一環として開催された「CSRとコーポレートブランド・コミュニケーション座談会」では、先般『CSRと企業経営』を上梓された立教大学経営学部准教授の高岡美佳氏が基調講演を行った。ここではそのエッセンスを紹介する。
日本企業のCSRはステークホルダーに理解されているか
環境を含めた社会的な役割について、現在の日本企業の意識は非常に高く、多くの企業が積極的なCSRへの取り組みを見せている。その流れのなかで現在、多くの企業がCSR活動の効果として、「CSRの活動がブランドにどう貢献したかが検証できない」「CSR製品(環境製品)として売り出したものが思うように売れない」といったジレンマを抱えている。これまで、横並び的といった観のある日本企業のCSR活動は、「さまざまなステークホルダーとより明確なコミュニケーションをするための新たなターニングポイント」に立っているのではないだろうか。
まず、これまでのCSR製品(環境商品)や活動は、消費者にどのようにとらえられているのかを確認してみよう。三井情報開発が2003年に行った調査によると、消費者が環境製品を購入しない理由として①「どのような環境配慮商品があるのかわからない」(48%)、②「種類が少ない」(39%)、③「本当に環境に良いものかどうか、信用できない」(29%)が挙げられている。また、gooリサーチの調査では、企業の社会貢献活動を評価しない理由でもっとも多いのが「活動の内容が見えないから」(43.2%)である。
製品には環境対応をアピールするラベルが付き、企業はさまざまな手段で消費者とコミュニケーションしているにもかかわらず、このような結果が出てしまうのは、コミュニケーションの内容や手段に問題があるからだと見るべきだろう。
ステークホルダーに行動させるCSRとは
私は「消費者の環境/CSRに対する意識と行動」は4つに分けられると見ている。①環境/CSRに対する意識がまだ低く、環境/CSR製品の購入や企業のCSR活動を評価することができない人々、②意識はまだ低いが、企業のコミュニケーションを受け止めてCSR製品を購入する人々、③すでに環境/CSRへの意識が高く、CSR活動やその企業を評価し、積極的に行動(選別購入)する、LOHAS(ロハス)やグリーンコンシューマーと呼ばれる人々、④意識は高いが、企業のCSR活動を評価したり、環境/CSR製品を積極的に購入することがない人々、である。専門家の間では、日本人の3割が4番目の消費者だと言われている。環境配慮より価格やデザインを優先する消費者の姿や、BtoBなら納期や担当者との継続性を重視するケースは、容易に想像できる。環境への意識が高い彼らに行動させる(環境製品の購入やCSR活動を評価してもらう)には、どのようなコミュニケーションが必要なのだろうか。
その命題を解くカギは、新たな商取引の潮流であるネットオークションにある。匿名の出品者が発信する商品情報(文章や画像)のみを見て、多くの人が購入(行動)するのは、商品の品質・価格などの属性情報がしっかりと伝わっているだけでなく、その匿名の出品者名の後ろに載っている取引回数を、信頼情報として受け止めているからである。つまり、後者について、CSR活動に置き換えてみると、環境に配慮した製品であるという情報の発信者が正しいことを述べている、という信頼情報が消費者に届いていないから、「本当に環境に良いものかどうか、信用できない」「企業の活動内容が見えない」という評価で終わってしまっているのである。
たとえば、CSR報告書で第三者意見として私のような立場の人が企業の信頼を担保するために文章を書くわけだが、読み手であるステークホルダーは「本当にきちんと評価しているのだろうか」という疑いを持っている。評価する第三者が工場見学をしている場面や植林をしている活動現場へ足を運んでいる写真を載せるだけでも信頼性はずいぶん違うはずであるが、どのCSR報告書も判を押したように顔写真とありきたりのコメントだけである。実際、現場を見ずに第三者意見を執筆するケースも多い。CSR活動・製品をステークホルダーとコミュニケーションしていくなら、これからは、活動や製品の属性情報に必ずレベルの高い信頼情報をセットしなければならないはずである。
信頼性を高めるために、やはり本業の立場から取り組むもの、あるいはそれに関係の深い活動であることが大切である。そして、消費者とのコミュニケーションに関して言えば、商品と出合ったことで彼らのライフスタイルを一気にLOHASやグリーンコンシューマーに変えてしまうような提案も検討すべきであろう。成熟した市場のなかにいる消費者に対し、デザインや健康、価格といったニーズを無視した商品は、いかに環境に配慮されていてもヒット商品への道を歩むことは難しい。つまり、さまざまな消費者ニーズと環境配慮のコンセプトをいかにバランス良く伝えるかが大きなトピックスになる。
企業カラーを打ち出したCSRブランドを
現在、日本企業が取り組むCSR活動は、実にさまざまである。そのすべてがステークホルダーの要望に沿う必要はない。それぞれの企業には、使命感を持って取り組んでいるCSR活動が必ずあるはずである。大切なことは「ステークホルダーの意識と乖離(かいり)してしまうことだけは避けるべき」ということである。CSR活動によって企業ブランドを高めるためには、ポリシーを持って行うCSR活動の使命や重要性をはっきりとステークホルダーに伝え、理解してもらわなければならない。日本企業は、自社のCSR活動の重点とコミュニケーション手段を再検討し、それぞれの企業カラーを打ち出したCSRブランドを構築していく時期にある。
- 高岡 美佳 (たかおか みか)
- 博士(経済学)。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。
専門は、流通システム論、企業間関係論。大阪市立大学経済研究所勤務を経て、2002年より立教大学経営学部経営学科助教授。07年4月より現職。『CSRと企業経営』(2007年・学文社 共同編著)、『サステナブル・ライフスタイル ナビゲーション』(2007年・日科技連出版 編著)など著書・論文多数。経済産業省「新流通産業研究会」、同省「集客交流サービス人材育成事業委員会」をはじめ、各省庁の委員を歴任。






