環境啓発授業「みどりの授業~マングローブ物語~」について
CSRとは何か。社内で理解を浸透させるのに苦労している企業が多いのではないかと思う。当社も例外ではない。しかしながら、企業でCSRを進める実務者の立場からすると、社内で概念的な理解を浸透させることも大事だが、そのためだけに膨大なロードを費やすことに果たしてどれだけの意味があるのか、疑問なしとしない。それよりも、実践を通じて言わば「帰納的」に社員がCSRを理解する、そうした別のアプローチがあってもよいではないか。当社の環境啓発授業「みどりの授業~マングローブ物語~」という事例を紹介してみたい。
1.マングローブ植林事業

- マングローブ
1999年に東京海上(当時)の120周年記念事業として東南アジアでのマングローブ植林事業を開始した。「オイスカ」「マングローブ植林行動計画」という植林NGOと連携し、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーという5カ国において5年間で計3,000ヘクタールの植林を行う計画。社員から募集したアイデアが基であった。2004年から5年間の植林第2期ではさらに南太平洋のフィジーを加え、6カ国で計2,000ヘクタールの植林を行う計画を立て、08年3月末現在で既に累計5,395ヘクタールの植林を行っている。そして毎年一度か二度、社員、国内外のグループ会社社員、その家族、代理店からボランティア(費用は個人負担)数十名を募り、植林ツアーを実施している。そこでは単に植林を体験するだけでなく、マングローブについて学習し、地元の人たちとの交流も行っており、参加者にとっては地球環境保護の大切さを実感する大変良い機会となっている。99年に植林事業を開始したときは、乱開発で破壊された「生態系の回復」が主目的であったが、次第に「温室効果ガスの吸収・固定」という面がクローズアップされ、また04年のインド洋大津波の際には「防災効果」も注目されるようになった。
2.「みどりの授業」

- みどりの授業
社員に植林ツアー体験者が増加するに従い、植林体験をほかの機会にも生かせないかと考え、05年から東京都で環境啓発授業「みどりの授業」を開始した。これは、小学校の「総合的学習」の時間に社員が講師として訪問し、当社で取り組んでいるマングローブ植林事業を題材として高学年の児童に地球温暖化防止の意義、それに向けた日常の行動の大切さを学んでもらうことを目的としている。05年度は東京都のみでの実施であったが、翌06年度からは全国各地に広がり、累計で約200の小学校・特別支援学校の約14,500人の児童・生徒に授業をさせていただいている。社員の講師は延べ約600人に上っている。当初は植林ツアー体験者が講師となり自らの体験を語るというパターンが多かったが、最近では逆に「みどりの授業」の講師を体験した社員がツアーに出かけるというパターンも出てきている。また、当初は事務局が大部分をお膳立てしていたが、全国展開するに従って各地の部・支店主体に進めるようになっている。さらに、プロジェクトの認知度を高めるために、広報部と連携し、各地の新聞やテレビに極力取り上げてもらうように努めるとともに、役員、部長・支店長にも率先して講師役を務めてもらっている。その効果もあって、全国の部長・支店長の間で「自分の部店でもやってみよう」という気運が高まってきている。
3.Multiple-win
「みどりの授業」の効果はいくつもある。第一に、授業を受ける児童・生徒の反応である。最近の子どもたちは環境意識が高く、講師役の社員が話をすると打てば響くような反応が返ってくる。子どもたちの目がキラキラと輝き、社員は皆、異口同音に本当にやってよかったと言う。第二に、学校の先生方や、保護者からのポジティブな評価である。ここまでは事前に予想できたことだが、予想外の効果もある。一つには、自分の会社に対する誇りを強めてくれることである。「みどりの授業」で充実感を感じると、そうした取り組みをしている自分の会社を見直す。「良い会社に働いていてよかった」と感じてくれる。もう一つは、人材育成の効果である。児童に対して地球温暖化防止の意義や、それに向けての日常の行動の大切さを分かりやすく説明することは案外難しい。保険は無形商品であり、お客様はそれを販売する目の前の社員や代理店の姿を見、説明を聴いて判断する。すなわち、社員・代理店も商品の一部と言ってよい。そうした中で懇切丁寧で分かりやすいプレゼンテーションを行えることは極めて大切であり、「みどりの授業」は人材育成の一環でもあると言える。
4.今後の取り組みの方向性
「みどりの授業」はいくつもの効果を持つ有意義なプロジェクトである。また、「当社におけるCSRの実践とは、例えば『みどりの授業』の取り組みである」と言えるほどの説明力も持っている。現在、非常に厳しい経済・金融情勢ではあるが、むしろであるからこそ部長・支店長を先頭に、最も重要なビジネスパートナーである代理店とともに、広く全国で「みどりの授業」を進めていきたい。また、「みどりの授業」の実践を通じて実体験としてCSRについての理解を深めていきたい。「CSRとは経営理念の実践」と単に何百回、何千回唱えるよりはよほど実効が上がるのではないだろうか。本当に知るということは、やってみることだと思う。
- 村木 満 (むらき みつる)
- 東京海上日動火災保険株式会社 経営企画部部長兼CSR室長
1958年生まれ。82年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社入社。90年米ピッツバーグ大学経営大学院修了、経営管理修士号(MBA)取得。92年から97年までニューヨーク勤務。97年から経営企画部にて中期経営計画策定などの業務を担当。2002年グループの持ち株会社、株式会社ミレアホールディングス(現東京海上ホールディングス株式会社)設立とともに同社に出向し、経営企画部にて広報、IRを担当。05年7月から現職。






