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企業におけるCSRの経済的側面と経営会計

1.CSRの経済的側面の危険性

2000年にGRI(Global Reporting Initiative)が、Sustainability Reporting Guidelineで「トリプル・ボトム・ライン」すなわち企業活動の成果を経済・環境・社会の側面から報告する必要性を提唱し、CSRの環境面を中心とした報告からより広範囲への報告へ拡大した。この報告書発行の定義は、それまで財務的企業活動と対立関係にあるようにとらえられてきたCSRは、経済的側面・環境的側面・社会的側面の多様性での測定へ動き始めている。一方、米国におけるエンロンやワールドコムで発生したような会計不正は、一企業のコンプライアンス違反に留まらず、産業界そのものを揺るがす大きな衝撃をもたらした。2008年には同じく米国発のサブプライムローン崩壊に端を発して、世界的リセッションをもたらした。過度の利潤追求を制御できなかった仕組みの脆弱(ぜいじゃく)さは、もはや企業での責任範囲を超えているようにも思える。しかし、企業経営者として追求すべきことは紛れもなく「価値創造活動」である。価値創造活動を永続的に可能にできる仕組みの構築が経営者としての最低限の責務である。

2.会計と経営の分離

価値創造活動を追求すべき企業における会計への取り組みは、依然として会計報告が中心となり経営管理モデルへの関心が希薄である企業が多い。しかし、会計の本来の目的は経営目的達成支援であるべきである。会計報告と経営の隔離は、企業価値向上エンジンを弱体化させるリスクをはらんでいる。この状態で最もパワーを持っているステークホルダーである株主や金融市場のプレッシャーに経営者が負けて会計不正へ走るわなが存在する。一方、会計を会計報告に特化させてしまったのは株式市場そのものでもあり、対比可能性を追求する会計報告が持つ機械的側面が、経営会計の仕組みの構築を阻害している可能性もある。元来、企業活動はあらゆる要素が有機的に結合した集合体であるので、機械的な側面とは対立してしまう性質は存在していることは否定できない。

3.経営目的達成に向けた経営会計の構築

企業活動の中で、いま一度見直されるべきものは経営的目的達成に向けた経営会計の確立であり、その前提として確立された企業理念を持っていることがあげられる。そして企業理念に裏づけされた事業戦略推進機能・旧来から会計が有する意思決定支援機能・理念に基づいた価値創造活動を推進する能力を養う人材育成機能が有機的に結合されたシステムの構築が必要である。旧来の管理会計では、20世紀の中ごろまで予算制度・原価計算など経営活動の管理ツールの開発が盛んに行われたが、適時性の問題や会計従事者を計算機能に特化させてしまった影響で、価値創造活動には歓迎されない状態をつくりだしてしまったようにも思える。しかし、外部環境の変化を敏感に感じとり、適切な価値創造活動へ組織全体を導くには、生命体としての活動が必要であり、それに耐えうる人材の育成は不可欠の要素である。

4.経営会計とCSR

価値創造活動を推進する経営会計は、財務的な評価を向上させるための事業戦略推進機能に留まらず、社会的な側面や環境的な側面も包括的にとらえる必要がある。経営会計には、会計報告で順守を要請されている企業会計原則で縛られるような側面はないため、企業文化のマネジメントを通じてCSRで要請されている責任を包括的に果たすことを目的とすることが可能である。CSRは社会的関心事や時代の要求で果たすべき責任が大きく変化する。昔はまったく問題されなかった事象が、ある日突然厳しい要求に対応すべく変化してしまう不確実性をはらんでいる。機械的に枠組みをはめられた会計を追求するとCSRの要請にはまったく応えられないが、CSRは社会の変化へ対応できる敏感性と俊敏性を企業に要請している。多様性を持ったステークホルダー(利害関係者)に満遍なく対応するためには、経済的な側面・環境的な側面・社会的側面のバランスが必要であり経営会計の構築は会計の目的適合性と相まってCSR経営の目的と正に高次元でバランスをとるための重要な機能を果たすものである。

写真 昆政彦
昆 政彦 (こん まさひこ)
住友スリーエム取締役 財務・情報システムおよび総務担当
早稲田大学卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。GE横河メディカル財務本部長(CFO)・ファーストリテイリング執行役員・GEキャピタルリーシング執行役員 最高財務責任者(CFO)などを経て現職。
日本経営倫理学会CSR研究会所属。著書「CSRイニシアチブ」(日本規格協会、2005、共著、監訳)、「やわらかい内部統制」(日本規格協会、2007、共著)、「CSRとガバナンスがわかる事典」(創成社、2007、共著)など。
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