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ソーシャル・キャピタルは企業と社会のコミュニケーションのカギ

つながりとソーシャル・キャピタル

今、地域社会において「つながり」が希薄になっており、それが様々な社会問題の原因になっているといわれている。地域社会において、つながりが豊かであるということは、言い換えれば、住民同士がつながる機会が多くあり、自分たちの町に愛着を持ってかかわっている状態であろう。そうした町をいかにして構築するかは今、日本のまちづくりの大きな課題のひとつである。

このつながりというキーワードは今、「ソーシャル・キャピタル(*1)」という言葉の登場によって、一層注目されている。ソーシャル・キャピタルとは、簡潔に述べるならば、社会的なつながりの「濃さ」である。つながりが濃ければ、家族のように関係性は強くなり、つながりが薄ければ関係性は必然的に弱くなる。けれども、つながりが薄くとも、効果を発揮するつながりもあり、その典型的な集団がNPOである。NPOはそのミッションに賛同する人が利害関係なく集まることのできる組織体であるため、そこに存在するつながりはあくまでNPOが持つ社会目的性によってつながっているにすぎない。しかし、利害関係のなさが逆にゆるやかで広範なつながりを生み出し、その広がりによってNPOが果たそうとする社会的な目的の達成が促されていく。ソーシャル・キャピタルはこのように「社会的つながりを強くするための糊の役割を果たしている(*2)」ものである。

CSRの本質は社会とのコミュニケーション

さて今、多くの企業がCSRのために様々な取り組みを行っている。その多くは、コンプライアンスに環境、社会貢献を多少加えた程度のものにすぎないが、 CSRの本質を考えてみると、CSRはソーシャル・キャピタルの考えと親和性が強いことが分かる。CSRの「R」、すなわちResponsibility は日本語では「責任」と訳されるため、その意味合いとしては何らかの義務感を伴うものとイメージされてしまうが、英語の本来的な意味「Response+ Ability」を考えると、いわば「応答する力」である。すなわち、CSRにおいて重要なのは、企業と社会がそれぞれ応答し合うこと、社会とのコミュニケーションである。マルチステークホルダーとの間で、社会からの要請を反映しつつ、社会に対してメッセージを発信していくことがアカウンタビリティーの観点からも求められている。その際、企業にとって社会にどのようなステークホルダーがあり、どんな影響があるかを検討し、コミュニケーションを図っていくステークホルダー・エンゲージメントの重要性が高まっているが、これは企業と社会の関係性としてのソーシャル・キャピタルを認識する作業にほかならない。

戦略的なソーシャル・キャピタル・コミュニケーション

さて、企業は本業活動において、様々な場面で社会と向き合っている。たとえば、鉱山開発を行うメーカーはその開発を行う際に、開発地域への社会貢献などの投資を同時に行うことがある。これはソーシャル・ライセンスと呼ばれ、開発に伴って生じる環境負荷の軽減や鉱山労働者の確保とその福利厚生のため、開発を行うためのライセンスとして当然に企業が社会から要請されており、企業が地域社会とのコミュニケーションの一環として行うものである。また、スウェーデンの家具流通大手イケアは、ロシアでの新規出店時に現地従業員や住民など地域コミュニティーを味方に付けることで、現地の政治家や行政に対する発言力を強め、不正をけん制する手法をとっているという(*3)。これらの方法は、企業が社会とのつながりを強化することで、事業活動をしやすくするものである。こうした社会との関係性の構築は事業活動においても戦略的に重要となっており、ソーシャル・キャピタルをどのように社会と構築するかが事業活動に大きな影響を及ぼしてくるのである。

ボランティアとソーシャル・キャピタル

企業は社会貢献活動によっても社会とのコミュニケーションを図っているが、その中に社員のボランティア活動支援というものがある。社員のボランティア参加を、休暇制度など制度面で支援したり、自主企画として社員向けにボランティアイベントを開催したりして募るというものである。本来、個人の自発性によるものであるボランティアを企業が社員に推奨することに対しては疑問の声を投げかける社員も少なくないが、その意味するところは「社員も社会へ貢献せよ」と強制するものでは決してない。

これはソーシャル・キャピタルの観点から重要なのである。すなわち、ボランティアを通じ、社員一人ひとりが社会とのつながりを持ち、NPOのスタッフや一般参加者とのコミュニケーションを通じ、メディアの情報ではない、社会の動きを肌で知ることに意味があると考えるためである。社員が社会とのつながりを持つことの重要性は経営学の観点からも指摘されていることであり(*4)、それをCSRの観点から企業が社員に、ボランティア支援という手段を通じて意識させようとするものなのである。

CSRの本質は社会とのコミュニケーションにある。社会を構成する要素であるソーシャル・キャピタルを理解してコミュニケーションをとることができれば、企業のCSRへの取り組みもおのずから本質的になっていくのではないだろうか。

(参考)

*1
ソーシャル・キャピタルは様々な学者らが定義付けを試みている。
詳細は弊社機関誌特集(http://mitsui.mgssi.com/compass/0405 )をご参照ください。
*2
世界銀行の定義による。
*3
日経産業新聞2007年4月26日付記事参照。
*4
若林直樹氏「 会社人間のソーシャル・キャピタルと会社への信頼感」
(日経CSRプロジェクトサイト 「CSRを考える」2007年4月16日付)
http://www.nikkei.co.jp/csr/think/think_socialcapital.html)参照。
写真 新谷大輔
新谷 大輔 (しんたに だいすけ)
三井物産戦略研究所研究員
1998年上智大学大学院博士前期過程修了。専門分野はCSR、NPO/NGO、ソーシャル・キャピタル、社会的企業など。ソーシャル・キャピタルの視点からのCSR戦略構築を目指す。
三井物産CSR推進部マネージャー、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科兼任講師(「CSR基礎論」担当)、宇都宮大学大学院国際学研究科非常勤講師、NPO法人社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan)運営委員。NPO/NGO、CSR、ソーシャル・キャピタルに関する論文、講演多数。三井物産戦略研究所 http://mitsui.mgssi.com/
ソーシャル・キャピタル・イノベーション研究室 http://das.seesaa.net/
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