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国連との連携強化で存在感高めるISOとGRI(2)

社会的責任規格ISO26000の第2作業草案

一方、ISOで作成が進められている社会的責任規格ISO26000は、その第2作業草案(WD2)で初めて、骨格だけでなく個別の文言のほぼ全容のイメージを示した。表2にそのポイントを掲げている。67頁にのぼる厚いものとなっており、目次だけでも非常に項目数が多い。ISO26000は、社会的責任に関する諸問題について、規模、地域、業種などを問わず、すべての種類の組織に対するガイダンスであるとされている。ガイダンスであるから「要求事項」ではないはずなのだが、国際条約や国際的な原則など、「……(す)べきである」とする事項は非常に多い。

たとえば「6.2組織の統治」の「6.2.4中心的な問題——情報開示」だけでも、「……(す)べきである」項目は下記のように多い。

意思決定は公正で透明であるべきである。情報は、影響を受ける可能性のあるステークホルダーが自由に活用できて、直接アクセスできるようなものであるべきである。
情報開示という問題に対処する場合、組織は次のような事柄に配慮すべきである:

  • − 十分かつ正確で完全な開示;
  • − 公正な内部・外部伝達;及び
  • − 情報の安全性。

ステークホルダーにとって、公正でタイムリ−で費用対効果の高い情報へのアクセスが可能な通信路を提供すべきである。
組織が情報開示に関して考慮すべき重要な参照事項は、次のようなものである:

  • − 国連グロ−バル・コンパクト原則10;
  • − OECDの企業統治の諸原則;
  • − OECD多国籍企業ガイドライン;及び
  • − GRI(Global Reporting Initiative)
表2 社会的責任規格ISO26000の第2作業草案(WD2)の骨子
名称 ISO/WD2 26000 ISO 社会的責任規格 作業草案2
(ISO/WD 26000 Working Draft 2: Guidance on Social Responsibility)
参照ウェブサイト (財)日本規格協会の仮訳版http://www.jsa.or.jp/stdz/sr/pdf/iso26000_wd2_jpn.pdf
発行年月 英文版2006年10月6日
和訳暫定版2006年11月29日(◆ISO26000完成版発行は2009年第1四半期の予定)
発行元 ISO(国際標準化機構)、(財)日本規格協会
特徴
  • 作成作業の途中経過として作成された作業草案であり制定された規格ではない
  • 社会的責任に関する諸問題についてすべての種類の組織に対するガイダンス
  • 国際条約や国際的な原則など、考慮すべき事項が非常に多い
  • 「マネジメントシステム規格ではなく適合性評価や認証目的には適さない」とする。ただし管理の仕組みは、「7 社会的責任実施に関する組織のための指針」を見ればわかる
主な目次項目から抜粋(小項目は非常に多いが、一部のみ記載)
  • まえがき
  • 序文
  • 1 適用範囲
  • 2 引用規格
  • 3 用語および定義
  • 4 組織の運営における社会的責任背景
  • 5 社会的責任原則
  • 6 社会的責任をめぐる中心的課題に関する指針
    • 6.1 一般
    • 6.2 組織の統治
    • 6.3 環境
    • 6.4 人権
    • 6.5 労働慣行
    • 6.6 公正な事業活動
    • 6.7 消費者課題
    • 6.8 コミュニティー参画・社会開発
  • 7 社会的責任実施に関する組織のための指針
    • 7.1 一般
    • 7.2 組織運営の背景分析
    • 7.3 組織全体での社会的責任の統合
    • 7.4 ステークホルダーとの協同
    • 7.5 組織の日常慣行との社会的責任統合
      • 7.5.2 組織の能力構築と内部的意識向上
      • 7.5.3 組織の関連業務への社会的責任統合
      • 7.5.4 社会的責任目標の設定及び行動の選定
      • 7.5.5 方法とアプローチ
    • 7.6 改善に向けたパフォーマンスの見直し
      • 7.6.1 一般
      • 7.6.2 データの編集と利用
      • 7.6.3 パフォーマンスと進捗状況の見直し
      • 7.6.4 上級管理者による見直し
      • 7.6.5 方法とアプローチ
    • 7.7 社会的責任に関するコミュニケーション
  • 附属書A (参考) 社会的責任合意および制度
  • 附属書B (参考) 社会的責任実施のための有用な参考資料
  • 参考文献
活用の例 海外でも事業活動を行う企業や、世界から投資を募りたい企業にとっては、国際的に認知された社会的責任の取り組み事項が整理された形でわかる
要注意点 国際条約や国際的な原則など、考慮すべき事項が非常に多く、国際ビジネスと関係ない企業、あるいは小規模企業には対応の手引が必要

昨年11月には、UNGCとISOは相次いで社会的責任規格に関する協力を強化する覚書(MoU:memorandum of understanding)を締結した、とのプレスリリースを発表した。(*1)この覚書の目的は、特にISOで作成中である新しい国際的社会的責任規格であるISO26000に関する協力の強化であり、ISO26000は、UNGCの10原則と一貫性を持つものとなるとされている。

2007 年1月29日から2月2 日まで開催された第4 回ISO/TMB/WG SR オーストラリア・シドニー総会においては、ISO26000 原案作成の基礎としてSRの中核課題として使用する項目リストが決まった。(*2)これらの項目は表2のWD2目次の6.2〜6.7項にある項目と変わっていない。

とらわれずに、主体的に、創造的に活用すべき

以上みてきたように、GRIガイドライン新版およびISO26000規格作成作業が進展し、しかも、これらのUNGCとの連携強化によって、CSRに関する2つの国際的な取り組みがつながり、より国際的に標準的なものとされる可能性をもってきた。前述のISO26000(WD2)の6.2.4節にも、GRIおよびUNGCの文書の両方が記述されている。ただし、これらの規格やガイドラインは、GRIガイドラインのように段階的な導入も可能であるが、現状では「優良企業のお手本」のようなハードルの高いものにみえてしまう。

その一方で、これらはCSRのすべてをカバーするものでもないわけで、過敏に反応して、導入する義務があると思う必要はない。UNGCには現在、約100 カ国からの企業やステークホルダーの参加があるとはいえ、その数は3,000を超える程度である。またGRIガイドラインを報告のベースとして用いているのは、全世界で1,000近くの組織にすぎない。ISO6000は、海外でも事業活動を行う企業や世界から投資を募りたい企業にとっては、国際的に認知された社会的責任の取り組み事項が整理された形でわかるなどの点で参考価値は大きいだろうが、国際ビジネスと関係ない企業、あるいは小規模企業には煩雑さを緩和する手引などが必要だ。また発展途上国の反応はいまひとつらしく、ISOは、ISO26000の作成プロセスに途上国代表の参加を促進するための方法に知恵をしぼっている。(*3)

現代の世界、地球が直面するさまざまの大きな課題は、広範な分野に存在しており、各国・地域や組織の文化的背景などもさまざまであり、また、その解決にはすべてを根本から問い直すような創造性や革新性が求められるなど、既存の枠組みには収まらないものが多い。ISO26000(WD2)もその序文で「この規格は、環境、人権、労働慣行、組織統治、公正な商習慣、コミュニティー参画および社会開発、消費者課題に関して社会的責任課題を扱う」とはっきり対象範囲を区切っており、「この規格は、中核的ガイダンスであり、社会的責任に関係のあるすべての活動の網羅的な記述とするつもりもない」としている。また、環境問題にしても、こうしたガイダンスや規格や原則が一般的に想定する範囲内である事業活動に伴う環境負荷の低減だけを、原単位にせよ総量にせよ、どれほど大胆に推進したところで、経済拡大・消費拡大・環境負荷拡大の地球規模のトレンドを逆転させることはできない。(*4)まだごく一部のビジネスモデルにとどまっているが、事業活動自体がトータルでみると環境を良くしていくような大規模ビジネスの確立・普及が必要である。ガイダンスや規格や原則の細かい文言にとらわれずに、主体的に、創造的に、そして大胆に、もうかってしかも環境や社会がどんどんよくなるビジネスへの脱皮や創造をめざしていくことこそが、 21世紀に持続的な発展が可能な事業活動のポイントといえるだろう。

(参考)

*1
http://www.unglobalcompact.org/NewsAndEvents/news_archives/2006_11_20.html
http://www.iso.org/iso/en/commcentre/pressreleases/2006/Ref1039.html
*2
http://www.jsa.or.jp/stdz/sr/pdf/resolution4.pdf
*3
http://isotc.iso.org/livelink/livelink/fetch/2000/2122/830949/3934883/3935096
/02_news/SR_Newsletter6_final.pdf
*4
12万人の会員をかかえるNPO法人ネットワーク「地球村」代表の高木善之氏(松下電器産業出身)は、過去の例をみると領土拡大、権力拡大、経済拡大、消費拡大などが必然的に文明の崩壊を起こすと分析しており、「残念ながら、私たちは同じ過ちを、より大規模に推し進めています」とする。さらに同氏は「人類は万物の霊長などと言いますが、生物の役割として最も貴重な生き物なのか、最も愚かな生き物なのか、最も厄介者なのか……いかがですか?」と問いかけている。(『生きる意味』PHP研究所2006年、P.211およびP.230)
写真 森哲郎
森 哲郎 (もり てつろう)
東洋経済新報社勤務、株式会社KPMG審査登録機構を経て2006年4月に独立。ISO14001の審査のほか、環境/社会報告書、CSRやロハス関連のコンサルティングなどに従事。主な著書に『ISO社会的責任(SR)規格はこうなる』(日科技連出版社)、『ECS2000このように倫理法令遵守マネジメントシステムを構築する』(日科技連出版社=共著)、『CSR入門講座 第2巻推進組織体制を構築する』(日本規格協会)がある。CEAR登録主任環境審査員。
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