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責任投資とCSRの新たな潮流(3)

投資家が注目するCSR

本シリーズの最終回では、投資家の視点から企業のCSRの取り組みについて論じる。企業が様々なステークホルダーの期待に応えるために、幅広いCSR活動に取り組んでいる中、投資家が注目するCSR活動とはどのようなものかについて考えていきたい。

1.変化する投資家の注目度

CSRを事業戦略の一部として組み込み、ビジネスを通じて環境や社会などへの貢献を目指す企業が増えつつある中、投資家が注目する企業のCSR活動は、どのように変化しているのであろうか。

世界の投資家を対象に行ったアンケート調査結果(図表1)によると、調査実施時点では、数あるCSRの取り組みの中でもコーポレートガバナンスなどを特に重要と考える投資家が多かったものの、5年後には地球温暖化や環境マネジメント、水質問題など、環境関連の取り組みの重要性が高まると予想する投資家が多いことが分かる。

この調査結果は、投資家が注目するCSR活動は、企業を取り巻く経済社会の変化や時代の流れとともに、その注目度が変化していくことを示唆していよう。近年、環境や社会の問題などが企業業績に影響すると結論付けた調査分析レポートや、CSR活動が企業業績に影響した実例が増加していることに伴い、運用パフォーマンスの向上を目指す投資家は、従来以上に「企業業績への影響」の視点からCSRの取り組みをとらえるようになっている。このため、地球温暖化や環境マネジメントといった、将来の業績成長に影響すると考えられるCSR活動への注目度が、高まってきているといえよう。

図表1 変化する投資家の注目度

2.企業にとってのCSRの位置付け

一方企業サイドにとっても、環境や社会への貢献を目的としたCSR活動を投資家の視点、すなわち「企業業績への影響」の視点から見た場合、その位置付けが変化していく可能性がある。

不祥事の削減や的確な対応を目的としたリスク管理体制の強化を例に考えてみよう。

今、体制強化を図らなくても不祥事が何も起きないような状況であれば、そもそも企業に評判リスクの問題は発生せず、リスク管理体制の強化に要した経営資源の投入は短期的には「コスト」となり、企業業績の減益要因となる。しかしながら、将来の企業業績への影響も考慮に入れた場合、今、リスク管理体制の強化というCSRの取り組みを行うことにより、不慮の不祥事の発生を未然に防ぐことにつながるとともに、仮に将来、不祥事が発生した場合には、不祥事の解決に要する費用の削減に結び付く可能性もあるなど、企業業績の下方リスクの低減につながる「先行投資」として企業業績にも貢献しえよう。

このように、CSRの取り組みは、「持続可能な社会に貢献していく」という従来の目的のみでとらえるのではなく、「企業業績への影響」という視点で捉えることにより、「コスト」から「先行投資」へと、その位置付けが変化していく可能性がある。企業は、将来の業績成長への影響の大きいCSRの取り組みに注力していくことで、持続的な経済社会への貢献と企業業績成長を両立しうるといえよう。

図表2 変化するCSRの位置

3.「マテリアリティ」とCSR

前述した「企業業績への影響」の大きい項目に注目する考え方は、「マテリアリティ=重要性」と呼ばれ、従来から行われている一般の株式運用でも用いられている。例えば、経営者の質や経営方針などは、有価証券報告書で公表される財務データとは異なり、定量的な分析が難しい。しかしながら、これらの項目は、将来の企業業績に大きく影響する重要な要因として、多くの投資家が企業を評価する際の重要な情報と位置付け、企業評価の中で考慮に入れている。

投資家が企業業績見通しの蓋然性を高めていくためには、企業が行うCSR活動についても、この経営者の質や経営方針などの位置付けと同じように、企業業績への影響度に着目し、将来の企業業績見通しへの影響の大きいCSRの取り組みに関しては、投資の意思決定プロセスの中で考慮していくことが重要と考える。

投資家の視点から見ると、企業が行うCSR活動は、持続的な社会の実現に向けた企業の取り組みであると同時に、設備投資や研究開発費などと同様、将来の企業の成長力を左右する経営資源の投資先の1つでもあり、「経営者の質」を図る尺度の1つとしても位置付けることができよう。企業業績への影響の大きいCSRの取り組みは、今後、より多くの投資家が投資の意思決定プロセスの中に取り入れていくのではないだろうか。

図表3 従来から考慮している「企業業績への影響の大きい評価項目」
写真 加藤正裕
加藤 正裕 (かとう まさひろ)
三菱UFJ信託銀行 投資企画部主任調査役
慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱UFJ信託銀行入社。米国三菱UFJ信託銀行出向など国内外の運用関連セクションでアナリスト、ファンドマネージャー業務を担当。2004年には三菱信アセットマネジメント(現 三菱UFJ投信)で、個人向けSRI投信「ファミリー・フレンドリー」を開発。2005年より現職。国連「責任投資原則」署名、年金向けSRIファンド開発を担当。
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