CSRイノベーション
1.CSRは分かりにくい
企業の社員から見るとCSRはなかなか分かりにくい。わが国のCSR元年といわれる2003年当時を振り返って見ると、多くの会社はCSRの主要なテーマを環境保全、品質保証、コンプライアンス、社会貢献などとしていた。しかしここ2、3年「攻めのCSR」とか「本業を通じてのCSR」といった表現がもてはやされ、次第にビジネスを相互補完するCSR活動が良いとする声が大きくなっているように見える。
CSRに直接かかわっていない社員から「CSRの定義はあいまいだ。自分の都合のいいところを取り上げるばかりで、どうにも分かりにくい」との非難が出てきても無理からぬところだ。
私が思うにCSRの発展段階には「リスクマネジメント段階」と「イノベーション段階」がある。リスクマネジメント段階とは「社会に対し迷惑をかけない、社会に信頼される」段階であり、イノベーション段階とは「ステークホルダーと協働で社会的な価値とビジネス的な価値を同時に享受する段階」である。ただし第1段階を達成すると第2段階に移行するというのではない。第1段階の上に第2段階が築かれるべきであって、第1段階の重要性は引き続き変わらない。
私が勤務している帝人のCSR活動は「環境保全」「防災・安全」「倫理・コンプライアンス」などを最も基本的なCSR課題と定め、ややストイックで地味な「リスクマネジメント型CSR」である。しかし実は「CSRイノベーション」といえる事業も育ってきており、事例としてここで紹介したい。
2.社会的事業「エコサークル」とは
これまで使用済みの衣料品の90%はゴミとして扱われ、焼却または地中に埋められてきた。「エコサークル」とは、グループ会社帝人ファイバーが世界で初めて開発した、ポリエステルの循環型リサイクルシステムの呼称である。
衣料品など使用済みポリエステル製品を回収し、化学的に分子レベルまで分解。ポリエステルの原料にまで戻し、ポリエステル繊維に再生する。賛同する国内外のアパレルメーカーと協働で、使用済みポリエステル製品の回収、リサイクルしやすい製品の開発、再生ポリエステル製品の利用を推進している。
会員企業には帝人松山事業所までの運賃とリサイクル処理費を負担していただいている。
3.石油使用とCO2排出を大幅削減
「エコサークル」では石油からつくる製品と全く遜色(そんしょく)ない品質に再生できるため、従来の多くのリサイクル製品の課題であった品質劣化を回避できる。また、何度でも繰り返しリサイクルできるため、石油資源の使用を軽減し、廃棄物を削減することが可能。石油からポリエステル原料をつくる場合と比較して、エネルギー消費量で84%、二酸化炭素(CO2)排出量でもリサイクルされずに焼却される分を考慮すると77%削減できる。まさに夢の技術である。しかし技術だけでは事業にならなかった。
4.ステークホルダーに学ぶ
「エコサークル」は、1999年に国内のユニフォームメーカーの参加を得てスタートした。しかし回収事業への新規参入には厳しい法規制があり、一方衣料品リサイクルを促進するための法律は整っていない。また運賃や回収コストを誰が負担するのか、さらにポリエステルのリサイクル糸を使用した製品は石油原料使用の製品と比べ割高になるため、事業はなかなか軌道に乗らなかった。「エコサークル」は社会貢献であって事業ではないとする懐疑的な意見も根強くあった。
こうした中、2007年に環境とゴミ問題に関する専門家やNPO(非営利組織)の代表を招きステークホルダーダイアログを開催。「帝人ファイバーは、ほとんどがBtoB(企業間取引)を前提にすすめているが、BtoC(消費者対象ビジネス)を意識した事業展開をしないと、大きな運動に発展しない」との指摘であった。そこで
(1) 百貨店や、大手スーパーなどの流通に対する働きかけ
(2) 帝人単独ではなく業界全体を巻き込むビジョン
(3) リサイクル促進に関する行政への働きかけ
(4) 環境系のNPO、NGOと連携
などに注力することになった。
5.現状の到達レベル
2008年は、特にNPOが主催する環境・音楽イベントへの参加やアーティストとのコラボレーションなど、一般消費者への働きかけを強化した。それらの成果として「エコサークル」は従来からの企業向けユニフォームや学生服、学校体育衣料に加え、百貨店やファッションアパレルとの取り組みにまで拡大。海外の有力アパレルから「エコサークル」への参加も増えている。
2008年末現在、「エコサークル」参加企業は100社を超え、ケミカルリサイクルによって再生されたポリエステル繊維の販売量は年間5,000トン(2007年度実績)規模となっている。これは帝人松山事業所のポリエステル繊維生産能力の13%程度で、まだまだ発展途上である。
今年もステークホルダーダイアログを開き、貴重な意見、アドバイスをいただいた。「エコサークル」がCSRイノベーションの成功事例として認められるように、さらにその輪を広げていきたい。
(参考サイト)
TEIJIN 循環型リサイクルシステム「エコサークル」 http://www.teijin.co.jp/eco/eco10.html
- 星野 邦夫 (ほしの くにお)
- 慶應義塾大学文学部社会・心理・教育学科卒。帝人株式会社CSR室CSR報告書編集長。日本経営倫理学会会員。経営倫理実践研究センター専任講師。内閣府国民生活局「民間企業における公益通報者保護制度その他法令遵守制度の整備推進に関する研究会」2007年度委員。
寄稿は「CSR漂流記・帝人グループのCSR推進に関わって」(雑誌アロマティックス2008年7月号、日本芳香族工業会刊)、「一企業における相談通報制度の仕組みとその運用について(社会全体として公益通報者保護制度等のさらなる整備推進に向けた提言)」(2008年7月号、内閣府国民生活局関連研究会刊)






