5年後、10年後のCSR
昨年から世界に大きな影響を及ぼしている経済危機の中、CSR活動に対する影響も小さくありません。業績が低迷している現状では、企業活動のあらゆる側面で経費削減が求められ、厳しい対応が迫られており、CSRを含む「利益に直接影響を及ぼさない活動」は、よりシビアな判断が求められます。リコーグループのCSR活動でも昨年来、CSR報告書制作費用の見直し、寄付金の見直し、CSR主管のeラーニングの延期など、様々な見直しを行いました。CSR活動を加速する施策をあきらめなければならないときは残念に思うこともありましたが、反対に自分たちの活動を改めて見直し、重点化していく上では、非常に有意義なことであったとも感じています。世界経済危機の中でCSR活動はより戦略的に進めることが必要である、と改めて認識した次第です。
さて、この経済危機を乗り越え、戦略的にCSR活動を展開していったとして、5年後、10年後に企業のCSR活動はどうなっているのでしょうか。そしてそのとき、リコーグループのようにCSR専門組織を持つ企業のCSR部署はどうなっているのでしょうか。
「CSRは持続可能であるためにも本業を通して行うもの」といわれています。現にリコーグループでも多くの活動が本業の中に組み込まれています。本稿ではリコーグループのCSR室が行っている活動と本業とのかかわりと将来的にすべてのCSR活動が本業に組み込まれた場合、その先のCSR室の役割とは何か、について私の思うところを述べさせていただきたいと思います。
まず、リコーグループのCSR室の生い立ちを簡単にご紹介します。CSR室として組織化されたのは日本のCSR元年といわれる2003年1月で、日本企業で初めてCSR専門部署が設立されました。これは現在、経済同友会の代表幹事でもある桜井正光社長(当時)のCSRに対する意識の高さからだと思われます。CSR分野の一部である「社会貢献」と「環境」については、98年から既に専門部署が設立されていましたが、あえてそれらの組織を統合せずに、単独でCSR室を社長直轄組織として設立しています。まずはリコーグループのCSRの枠組みと行動原則を「CSR憲章」「行動規範」として策定し、全社CSR委員会の設立、コンプライアンス強化のための社員教育、内部通報受付窓口(ほっとライン)の設置、リスクマネジメントの仕組みづくりなど、「社会に対して迷惑をかけない基本的な責任を果たす活動」をグループ会社含め社員全員に徹底しました。その後、CSRの進化とともに、2007年4月にこれらの活動は「内部統制室」という組織に引継がれ、現在のCSR室は社会貢献活動も含め、「社会へよりポジティブなインパクトを与える価値創造型CSRの企画・推進」が主な役割となっています。
ではここから、現在のCSR室の主な業務と本業とのかかわりについてご紹介します。
【全員参加型テーマの企画と活動推進】
業界に先駆けてオフィスドキュメントのモノクロからカラーへの変換を推進したリコーでは、色覚の多様性に配慮する「カラーユニバーサルデザイン(CUD)活動」を全員参加型のCSRテーマとして推進し、商品の色覚多様性への配慮を充実させるとともに、社内外とのコミュニケーション領域にもCUD活動を広げることで、より多くの人がカラー化の恩恵を享受できる社会づくりに取り組んでいます。この活動を通じて、CSR=コンプライアンスとの短絡的なイメージでネガティブにとらえていた社員に対して、「多様性」に対する理解やそれに配慮することの大切さ、そして、より良い社会づくりに貢献する心が育つことを期待しているものです。商品に対しては、企画段階で商品仕様に落とし込み、社内外のコミュニケーションツールに対しては、各社・各事業所・各部門に推進キーマンを設け、オンサイト教育や活動推進を行っており、将来的にはCUD対応の成熟度をセルフチェックしてPDCAをまわす仕組みを整えていく予定でいます。その仕組みが構築できれば、本業の中でCUDを継続的に展開していけると考えています。
【CSRコミュニケーション】
CSR報告書の作成・発行、リコーCSRウェブサイトの運営、ステークホルダーコミュニケーションの企画・推進などを行っています。企業によっては広報やコーポレートコミュニケーション機能の中にCSR推進組織が入っているところもあり、CSRを広い意味での社会とのコミュニケーション戦略と考えると、その構えで推進することのメリットも多いかもしれません。社会からの要請・期待をタイムリーに把握し、本業の中で課題化して取り組むプロセスにおいて、コミュニケーションは非常に重要な機能と考えていますが、まだまだ試行錯誤で進めているのが実状です。
【サプライチェーンでのCSR調達・パートナー展開】
リコーグループでは、サプライチェーンを通してリコーグループとお付き合いのあるサプライヤー様と販売パートナー様へのCSR展開を実施しています。サプライヤー様へは「サプライヤー行動規範」を制定し主要サプライヤー様に順守していただくべく、直接かかわる資材部署とともにご協力のお願いと定期的なアセスメントを実施することでレベルアップを図っていきます。また、販売パートナー様へは、パートナー様の企業活動に役立つようにCSRへの理解を深めていただくとともに、ご販売店体質強化プログラムに組み込んで、販売統括部署とともに推進しております。いずれの活動も資材部署・販売統括部署が主体性を持ち、それぞれの本業の中で活動を継続することが望ましい姿であり、CSR室ではその“仕掛け”と専門家としてのサポートを実施しています。
【ビジネスを通じた社会的課題の解決】
近年グローバルな社会的課題の解決に、企業への期待が高まっています。確かにグローバルに事業を展開する企業は技術力・資金力・グローバルなネットワーク網を生かして社会的課題に寄与できるでしょう。またそれは企業にとってもイノベーションの源泉になるはずです。リコーグループでも我々の資産を生かしてどのように役立つことが出来るのか、検討を始めています。もちろんそれは、貧困層に対する労働力の搾取や資源の搾取になってはいけません。あくまで双方にとって持続可能であるようなチャレンジが必要です。そこで、そのCSR視点を強く意識して活動に取り組めるよう、CSR室メンバーが加わりパイロットテーマの検討を始めています。このテーマが成功し、CSR視点で社会的課題を解決するビジネス事例ができ、それが事業部門に展開されたとき、CSR室としてのこのテーマに対する役割は終わるのではないか、と感じています。
以上のように、現在リコーのCSR室で携わる主な業務において、将来本業にどのように組み込まれていくのかを述べさせていただきました。これ以外にも社会貢献活動がありますが、これは将来にわたっても専門機能が必要になるでしょう。しかしご紹介した活動はいずれも、CSR室が主管にならずとも、それぞれの部署・機能の中にこれらの活動が組み込まれ、本業の中で実践されていくのが望ましい将来像です。さて、そうした場合、CSR室の役割はどうなるのでしょう。CSR機能として何を残すべきなのでしょう。私はこう思います。CSR室は無くなるかもしれない。しかしCSR機能は無くならない、と。企業を取り巻く社会は常に変化しています。社会がどう動いているのか、ステークホルダーの皆さんの意識はどのように変化しているのか、そしてその時企業はどうすべきか。常に社会に目をやり、動向をキャッチし、敏感に対応していくためには、やはり専任のメンバーが必要になると思っています。それがCSR機能なのだ、と。皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。
- 吾妻 まり子 (あづま まりこ)
- 株式会社リコー CSR室 室長
1973年国立沼津工業高等専門学校工業化学科卒業。
当時としては数少ない女性技術者として株式会社リコーに入社。
入社当時はサプライ生産拠点で環境関連の業務に従事し、その後、同拠点の事業企画・技術管理部門で体質改善活動や生産革新のプロジェクトを担当するなど、一貫してイノベーションにかかわるテーマに携わり、生産事業本部RS事業部技術推進室長を経て、2007年6月より本社CSR室長に就任、現在に至る。






