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責任投資とCSRの新たな潮流(1)

ESGでのマテリアリティ

企業が取り組んでいるCSRと、機関投資家が考えるESG(環境、社会、ガバナンス)要因。どちらも環境や社会性を企業経営にどう反映させるか、という大前提に変わりはないが、実際にそれぞれの立場で認識のギャップがあることに、企業も機関投資家もあまり目を向けていない。これは、両者それぞれが別々のやり方でCSRあるいはSRIにかかわっているためだろう。

そこで創コンサルティングでは、機関投資家と企業のCSR担当者が直接会い、お互いの対話を通して理解促進を図る「マテリアリティ研究会」を昨年度行い、このほどその成果をまとめた。

http://www.sotech.co.jp/publish/pdf/materiality_0806.pdf

投資家サイドと企業サイドの現状

SRIとCSR、いずれにおいてもここ2年ほどの経済環境の変化に伴ってその様相が変化している。まず投資家サイドでは、従来からの「いかに世の中を変えるか」といった社会リターン型SRIからの変化である。国連の責任投資原則(PRI)にもとづく投資は、社会問題の解決とともに財務リターンをも実現するスタイルであり、これは財務リターン型の責任投資といえる。

PRIではESG投資を促進する方法として、企業と投資家の「エンゲージメント」をも目指している。両者が対立するのではなく、共通の目的(=企業価値の向上)を達成するよう共同することがサステナブルであると考えているのである。

企業サイドでは、事業戦略のなかでCSRを明確に位置づけた戦略的CSRが注目されている。CSR課題をリスクと機会からとらえ事業の機会を生み出す戦略部分に焦点をあてるものだ。各社の事業に関連した特徴あるCSRを、ビジネスケースとして強調するアプローチといえる。

CSRを事業戦略に組み込む動きは、CSRの情報開示においても変化が見られる。海外で始まっている企業の財務外情報開示の義務化とは、投資家にとってのマテリアリティにフォーカスすることである。CSR報告で広範囲に環境・社会情報を開示することと対照的で、ビジネスとの関連を強く意識している。

企業分析におけるマテリアリティ特定

ESG要素の業績への影響は、世界経済のマクロ環境の変化を分析することから始まる。次にこうした変化が産業に及ぼす影響について、業種ごとに特有の要因に着眼することでマテリアリティが明確になってくる。そのうえで個別企業の評価へとつながる。ここでは、各社が事業戦略へのインパクトをどう考えそれを経営に組み込んでいるか、つまり戦略的CSRがどれくらい展開しているか、に視点が置かれる。

企業評価にあたっては、業績への影響を「利益の実現」と「利益を生み出す基盤」に分け、それぞれのなかでESG要因がどのように影響するかを見いだすことがマテリアリティを特定するアプローチといえる。特に長期での企業価値評価においては利益を生み出す基盤の強化が、ESG課題の分析分野として主要なところである。

この際の分析は、1)経営方針と事業戦略、2)マネジメントシステム、3)パフォーマンス、の3つのアプローチで行われる。何がマテリアルなのかが共通化されていない現在では、そもそもCSRになぜ取り組むのかといった方針と戦略の文脈からESGを位置づけることが重要である。パフォーマンスの分析はもっとも実質的なところであるが、現在様々な手法が試みられているところである。

機関投資家と企業の認識ギャップと今後の課題

今回の研究会開催を通し、両者がCSRあるいはESGという同一の用語を口にしながらも、基本的なところで理解や解釈が異なることに気づかされる場面が多かった。以下は両者間に見られた主要なギャップである。

投資家
  • 「社会性ではリターンがあがらない」のジンクス
  • 財務外要因における「マテリアリティ」視点が少ない
  • ESGのパフォーマンス評価の経験・実績不足
  • 既存の業種別分析のなかに織り込まれているとの認識
企業
  • 「マテリアリティ」の概念が広がっているものの、まだ広範すぎる
  • 株主(投資家)のもつ利害の認識が不十分
  • 事業戦略に結び付け経済価値を実現するという観点が弱い
  • ESGで現在やっている事業との関連を投資家に説明できていない

今後、企業が環境、社会要因を事業の柱として組み込む戦略的CSRを推進し、投資家が資本市場において責任投資を取り込んでいくことが、産業界と金融界それぞれに迫られているといえるだろう。現状でそれが進んでいない阻害要因を検討し、今後に向けて何をすべきなのか、投資家と企業それぞれの課題をまず認識することが必要だ。

写真 海野みづえ
海野 みづえ (うんの みづえ)
株式会社創コンサルティング 代表取締役
1983年千葉大学卒業、85年同大学院修了後、中央クーパース・アンド・ライブランド社、ローランド・ベルガー社で経営コンサルティング業務に従事。1996年に、(株)創コンサルティングを設立。独自の分析眼で、環境・CSR分野での日本企業のグローバル経営のあり方を提言、企業活動の実務をサポートしている。
ブラザー工業社外取締役。東京大学大学院、法政大学大学院非常勤講師。著書に、『グローバルCSR調達』(2006年、共著)、『SRIと新しい企業・金融』(2007年、共著)などがある。
http://www.sotech.co.jp
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